条文イジりの対象となるのがそこぐらいかと思って。
なのですが、ふと予感がして「貸付事業用宅地」の条文を眺めていたら、どうもすんなり理解しにくいところがありまして。
「貸付事業用宅地」については、実務解説本の類でも記述が手薄なことが多いです。
特に、昔からの継ぎ足し継ぎ足しで改訂している本だとその気が強い。
我らがタックスアンサーでも、あっさりめ。
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
という感じで、よそ様の解説があまり頼りにならないので、自力でどうにか検討してみます。
【お約束事項】
・租税特別措置法の「69条の4」、同施行令の「40条の2」は省略して項数以降で引用します。
・遺贈は除いて相続のみとします。
・借地権等は除いて土地のみとします。
・要件の検討のみで効果のほうは考慮外とします。
・経過措置はもはや無視します。
○
まずは条文。例によって大胆に省略入れています。正確には原文をお読みください。
法1
個人が相続により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続に係る被相続人【又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族】(「被相続人等」)の事業(事業に準ずるものとして政令(1)で定めるものを含む。同項において同じ。)の用に供されていた宅地等(土地【又は土地の上に存する権利】)で財務省令で定める建物【又は構築物】の敷地の用に供されているもののうち政令(4)で定めるもの(貸付事業用宅地等に限る。「特例対象宅地等」)がある場合には、(略)
令1
法第一項に規定する事業に準ずるものとして政令で定めるものは、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの(「準事業」)とする。
法3
この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
四 貸付事業用宅地等
被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令(7)で定めるものに限る。「貸付事業」)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族が相続により取得したもの(特定同族会社事業用宅地等及び相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで三年を超えて引き続き政令(19)で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、政令(22,10)で定める部分に限る。)をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から申告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の貸付事業の用に供していること。
令7
法第三項第四号に規定する政令で定める事業は、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業とする。
令19
法第三項第四号に規定する政令で定める貸付事業は、同号に規定する貸付事業(「貸付事業」)のうち準事業以外のもの(「特定貸付事業」)とする。
令10
法第三項第一号に規定する政令で定める部分は、同号に規定する被相続人等の事業の用に供されていた宅地等のうち同号に定める要件に該当する部分(同号イ又はロに掲げる要件に該当する同号に規定する被相続人の親族が相続により取得した持分の割合に応ずる部分に限る。)とする
令22
第十項の規定は、法第三項第四号に規定する政令で定める部分について準用する。
ここから要件を抽出すると次の通り。
【原則要件】 ○
1 貸付事業の用に供されていた土地
「貸付事業」とは
・不動産貸付業
・駐車場業、自転車駐車場業
・準事業
「準事業」とは
事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの
2イ 被相続人の貸付事業の場合
事業承継要件 相続開始時から申告期限までの間に承継し継続
保有継続要件 申告期限まで保有
2ロ 生計一親族の貸付事業の場合
事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
保有継続要件 申告期限まで保有
「準事業」でもいいという、謎の優しさが発揮されています。過去、お亡くなりになったこともあるようですが、今は元気にやっています(ただし下記)。
そして、(事業+保有)継続要件も「申告期限」まででよくって、いわゆる「事業承継」保護とは言い難い。
上記2イで「事業承継要件」とは書いたのは、タックスアンサーに倣っただけ。「承継とはいったが継続とはいっていない」ということのようで。
長期間に渡って事業継続、株式・資産保有を要求される『事業承継税制』とは、まるで毛並みが異なる。
法人版事業承継税制(国税庁)
個人版事業承継税制(国税庁)
「家なき子」特例の制度趣旨を『出戻り保護』っていうのと同じように、こちらを『貸付事業の継続保護』というのだとしたら、的外れも甚だしい。
○
要件がこれだけだったら、特にネタにするようなこともないです。
勝手に制度趣旨を『貸付事業の継続保護』だと勘違いして、要件を読み間違えさえしなければ十分です(解説本の類の記述が未だに手薄なのは、シンプル要件時代のノリを引きずってのことでしょうか)。
ところが、2018年度改正により、次のような「除外要件」「除外要件の除外要件」が入りました。
【除外要件】 ×
相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は除く
【除外要件の除外要件】 ○
相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地は除かない(除くを除く)
「特定貸付事業」とは
○不動産貸付業
○駐車場業、自転車駐車場業
×準事業はダメ
いわゆる「3年縛り」。
特定居住用や特定事業用にも「3年縛り」がありますが、それぞれ規律内容は違います。
カッコ書き内での除く×除くの二重掛けなので(いわゆるジョジョ掛け)、一読して理解しがたい。
ではありますが、要するに、
・お亡くなりになる前3年以内に駆け込みで貸付事業始めても駄目だよ(除1)。
・でも、それより前からガチ貸付業やってたら、直前で物件追加してもいいよ(除2)。
ということかと。
3年超なら準事業レベルでもいい一方で、3年以内に始めた場合はガチ貸付業でもダメだという。
駆け込みを徹底的に拒絶する、「3年縛り」ルールらしい所作。
他方で、もともとガチ貸付業やってたなら追加し放題という、奇妙な抜け道。
まあ、物件追加し放題とはいえ、「限度面積」が特定貸付用だけで「200u」までなので、限界はあるでしょう。追加するなら坪単価高め・収益性高めの物件にしておけ、ということでしょうか。
○
以上、条文ベースに制度理解をしてみましたが、「3年縛り」ルールがいまいちしっくりきていません。
ということで、次回は《類型論的アプローチ》により検討をすすめてみます。
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その4) 〜過程論2
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その5) 〜趣旨論
【規範論×類型論】
リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
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