2022年06月13日

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論

 貸付事業用宅地の「3年縛り」ルールについて、事例ごとの当てはめをしてみます。

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その1) 〜規範論

 条文は、除く・除くの箇所だけ引用。

 (相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで三年を超えて引き続き政令(19)で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、

【除外要件】 × (除1と呼びます)
 相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は除く

【除外要件の除外要件】 ○ (除2と呼びます)
 相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地は除かない(除くを除く)

「特定貸付事業」とは
   ○不動産貸付業
   ○駐車場業、自転車駐車場業
   ×準事業はダメ


 以下、事例検討をするにあたってのお約束ごと。あれこれうるさいですが、まあ措置法上の特例なので諦めてください。

【事例検討のお約束事項】
・除1・除2の適用関係のみの検討で、それ以外の要件は満たすものとします。
・A〜D物件は、いずれもマンションの部屋で数字は部屋数を表します。
・購入時には借主居住ずみで以降退去なしとします(購入即事業供用開始・継続)。
・従前の貸付事業があれば、購入によりそれに組み込まれるものとします。
・10室以上保有・貸付で「特定貸付事業」に該当することとします。

3年縛り(貸付事業用宅地).png


【事例1】
 事例1は、相続開始から3年より前にA1室を購入した、3年以内にB1室を購入した、相続開始時にはA1室、B1室を保有していた、という意味です(以下の事例も同じ読み方です)。

・Aは1室のみですが、3年より前購入なので除1は機能しません。
・Bは3年以内購入なので、除1が機能して適用外となります。
・3年超特定貸付事業がないので、除2は機能しません。

【事例2】
・Cは3年より前購入なので除1は機能しません。
・Bは3年以内購入なので除1が機能しますが、Cによる3年超特定貸付事業があるため、除2が機能して適用できることになります。

【事例3】
 事例3は、相続直前にD10室を購入したということです。

・Dは3年以内購入なので除1が機能して適用外となります。10室なので「特定貸付事業」には該当しますが、「3年超」ではないため除2は機能しません。

【事例4】
 事例4は、D購入前にCを売却したことで、一度保有物件なし状態が挟まっているということです。

・Dは3年以内購入なので除1が機能して適用外となります。
 そして、Cによる「特定貸付事業」がありましたが、一度途切れてしまっているため、除2は機能しません。

 一日でも空いたらダメなのか、という問題提起はありうるかとは思います。が、それはいわゆる「チャレンジ案件」ということで、フロンティアスピリッツ溢れる納税者にお任せいたします。
 「措置法解釈は厳格に」という裁判所の志向からすると、厳しい戦いになりそうですが。

 なお、措置法通達69の4-24の3では、事業継続が途切れた場合について一定の手当がされていますが、「売却⇒0⇒購入」パターンについては触れられていません。


 これら事例から分かることは、3年より前スタートなら「準事業」でもよいということです。
 除1がやたらと幅を効かせているし、除2は「特定貸付事業」じゃないとだめとか言っているせいで、うっかり「準事業」じゃダメだと思ってしまいがち。
 が、除×除はあくまでも3年以内スタートの場合に出張ってくるものです。3年より前の領域では、原則要件の「準事業でもいいよ」という優しさが汚されずに残っている。

 他方で、3年以内の領域では、取得したものが何部屋だろうが除1により適用外とされてしまいます。
 これに抗う除2を機能させるには、被相続人が3年超の「特定貸付事業」を継続している必要があります。どんなにでかい物件を購入しても、3年以内ではもはやどうにもならない。


 「3年縛り」ルールがすんなり理解できないの、同じ「事業」概念を、広げる(原則要件)・狭める(除1)、戻す(除2)の、3つの局面で使いまわしているせいではないかと感じます。

 そこで、「特定貸付事業」を土地(モノ)の属性としてでなく、「特定貸付事業者」というヒトの属性として再構成したほうが理解がしやすそうです。

 トキ:相続開始前 3年以内/3年超
 ヒト:3年超特定貸付事業者/それ以外の者
 モノ:貸付事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業、準事業)に供していた土地

特定貸付事業.png


 だいぶシンプルにまとめられました。
 何部屋持っているかは「特定貸付事業者」の定義の中に内蔵してもらって、表の項目としては出さないのが、混乱しないですみそう。

 条文の座組みからは離れますが、正確な理解ができるのならば、それに越したことはない。

 が「年末調整のしかた」、お前はダメだ。

リーガルマインド年末調整(その2) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その3) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克


 本当はこの先によりややこしい問題があるのですが、記事化するかは思案中。

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その4) 〜過程論2
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その5) 〜趣旨論
posted by ウロ at 10:37| Comment(0) | 相続税法
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。