2022年06月20日

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1

 以前、年末調整とか住宅ローン控除について、「死んだらどうなる?」ということを検討しました。

リーガルマインド住宅ローン控除(その1) 〜転勤と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その2) 〜転勤と離婚と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その3) 〜転勤と死別と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その4) 〜転勤と死別と姻族と住宅借入金等特別控除

 他方で、貸付事業用宅地の場面では、「被相続人」が死ぬのは必然(『被相続人、いつも死んでんな。』)。ですが、その後に当該宅地を取得した「相続人」のほうが(申告前に)死んだらどうなる?、ということは問題になりえます。

 これを想定した規定があるので、今回はそれらをイジりの対象としてみます。
 ただし、前回までのメインどころ、「除×除」要件については今回は考慮外とします(その他、お約束事項は前回・前々回と同じです)。

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その1) 〜規範論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論


 まずは条文の引用から。

法3
 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 特定事業用宅地等
 被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令で定めるものを除く。)の用に供されていた宅地で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地を取得した当該親族の相続人を含む。イ及び第四号(ロを除く。)において同じ。)が相続により取得したもの()をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から相続税法第二十七条、第二十九条又は第三十一条第二項の規定による申告書の提出期限(以下この項において「申告期限」という。)までの間に当該宅地の上で営まれていた被相続人の事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地を有し、かつ、当該事業を営んでいること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日。第四号イを除き、以下この項において同じ。)まで引き続き当該宅地を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地を自己の事業の用に供していること。


 貸付事業用の話だっつってんのに、なに1号(特定事業用宅地)引用しちゃってんの、と思われるかもしれません。
 が、下線部分の「において同じ」というのがあるせいで、1号の引用から始めなければならないのです。


 法3項の編成は次の通りとなっています。

【法3項の編成】
 一イ 特定事業用宅地(被相続人の事業)
  ロ 特定事業用宅地(生計一親族の事業)
 二イ 特定居住用宅地(同居親族)
  ロ 特定居住用宅地(家なき子)
  ハ 特定居住用宅地(生計一親族)
 三 特定同族会社事業用宅地
 四イ 貸付事業用宅地(被相続人の貸付事業)
  ロ 貸付事業用宅地(生計一親族の貸付事業)

 1号柱書によると、「当該被相続人の親族」に「当該親族から相続により当該宅地を取得した当該親族の相続人」が含まれるというのは、1号イと4号イも同じだと。
 また、1号ロによると、当該親族が申告期限前に死亡した場合には「申告期限」が「死亡の日」になるというのは、2号イロハ、3号、4号ロも同じだと。

 このように、4号に関する規律が1号の中に混入されてしまっています。

 他方で、4号の側には「1号を見てね」などといった指示が何もありません。ので、4号を見ただけでは「貸付事業用宅地」の正確な定義を把握することができないことになっています。

四 貸付事業用宅地等
 被相続人等の事業(「貸付事業」)の用に供されていた宅地で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族が相続により取得したもの()をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から申告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の貸付事業の用に供していること。



 当ブログでは、条文イジりを敢行する際には、検討対象外の部分を大胆に削っているところです。

 プレーン条文はいろんな場合を想定して枝葉をつけがち。「相続又は遺贈」とか。
 が、そのまま頭から読んでいっても意味が取りにくいので、検討にあたってノイズとなる箇所は切り落としてしまっています。

 この手法の弱点、大事な箇所をうっかり切り落としてしまうおそれがあるという点です。
 今回も、1号は特定事業用宅地の定義規定だからといって読み飛ばしてしまうと、その中の4号に関する規律を見落としてしまうことになります。 

 つまり、この手法を採用するには邪魔かどうかを判断できる素養が求められるということです。が、その素養を身につけるにはあらかじめ条文を理解していなければならないわけで。
 どうしろっていうんですか、て感じですよね。しんどいですが、とにかく一読はしないといけないんでしょう。

 ここではまだ同じ条項内だからましですけど、この振る舞いを条数飛び越えてやられるときつい。
 幸い、租税特別措置法は個別特例の寄せ集めで、それぞれが一国一城の主感強めなので、跨ぎは少なめかと思います。42条の6(設備投資優遇税制)が「中小企業者」の定義を42条の4(研究開発税制)からお借りしている、というのがあったりしますが、42条の6にはちゃんとどこからお借りするかが書かれていますし。

  読み手の目→ 42条の6「借りますね」 ⇒42条の4

 他方で、69条の4の3項の1号・4号間は、貸す側にしか書いてないせいで、借りる側の条文しか読まない人には認識しえない。

  1号「貸しますね」 ⇒4号 ←読み手の目

 このような《サイレント押し貸し》、条文作成お作法としてはかなり最悪の部類に属すると思うのですが。
 こんなお作法があるかぎり、「納税者の予測可能性」の確保なんて夢のまた夢よ。


 さて、本筋に戻って。

【原則要件】
1 貸付事業の用に供されていた土地
2イ 被相続人の貸付事業の場合
    事業承継要件 相続開始時から申告期限までの間に承継し継続
    保有継続要件 申告期限まで保有
2ロ 生計一親族の貸付事業の場合
    事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
    保有継続要件 申告期限まで保有

 上記下線部は、原則要件2に関わるものです。
 下線部を4号にねじ込むと次のようになります。

四 貸付事業用宅地等 イ
 被相続人の事業(「貸付事業」)の用に供されていた宅地で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地を取得した当該親族の相続人を含む)が相続により取得したもの()をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から申告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していること。

四 貸付事業用宅地等 ロ
 被相続人と生計を一にしていた親族の事業(「貸付事業」)の用に供されていた宅地で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地を取得した当該親族の相続人を含まない)が相続により取得したもの()をいう。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日)まで引き続き当該宅地を有し、かつ、相続開始前から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日)まで引き続き当該宅地等を自己の貸付事業の用に供していること。


 ロには、1号柱書の拡張デバイスは「含まない」ことを注意的に記載しておきました。正統な条文作成お作法ならば、両面から書くなんて絶対にやらないでしょうけど。

 結果、甲⇒乙⇒丙の順で順次相続が発生した場合の要件は次の通りとなります。

2イ 被相続人甲の貸付事業の場合
    事業承継要件 丙が相続開始時から申告期限までの間に事業を承継し継続
    保有継続要件 丙が申告期限まで保有
2ロ 生計一親族乙の貸付事業の場合
    事業継続要件 乙が相続開始前から死亡日まで事業を継続
    保有継続要件 乙が死亡日まで保有

 イについては、以下の「ご説明通達」があります。
 これは「解釈通達」というよりは、条文の作りがよろしくないので、噛み砕いて説明してくれているという類のものでしょう。

(宅地等を取得した親族が申告期限までに死亡した場合)
69の4-15 被相続人の事業用宅地等を相続により取得した被相続人の親族が当該相続に係る相続税の申告期限までに死亡した場合には、当該親族から相続により当該宅地等を取得した当該親族の相続人が法第3項第4号イの要件を満たせば、当該宅地等は同項第4号に規定する貸付事業用宅地等に当たるのであるから留意する。
(注) 当該相続人について法第3項第4号イの要件に該当するかどうかを判定する場合において、第4号の申告期限は、相続税法第27条第2項((相続税の申告書))の規定による申告期限をいい、また、被相続人の事業(令第1項に規定する事業を含む。)を引き継ぐとは、当該相続人が被相続人の事業を直接引き継ぐ場合も含まれるのであるから留意する。



 なぜロの場合に「死亡日」に繰り上がるのでしょうか。

 「イは丙が承継してから日が浅いが、ロは乙の事業が甲の生前から継続していたから」という説明をしているものを見かけたことがあります。が、現行法上は、除×除要件のせいで、甲にしても乙にしても相続開始前3年超の事業継続が求められているところです。
 また、相続開始後は、申告期限までとするのと死亡日までとするのとで、せいぜい数ヶ月の違いしかないでしょう。イとロとで、事業継続期間に類型差があるようには思えないのですが。

 おそらくですが、イの場合は、甲⇒乙も乙⇒丙も同じイとして連続扱いができるけども、ロの場合は、甲⇒乙はロ、乙⇒丙はイとカテゴリが変わってしまうから、乙死亡日で区切って別々に要件を検討するのだと理解すればよいでしょうか。


 ここまでが前座で、次回、死んだら「除×除」要件どうなる?を検討します。

 原則要件2は、せいぜい「相続開始〜申告期限」の間の問題でしたが、これが相続開始前3年前までトキが広がることになります。

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その4) 〜過程論2
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その5) 〜趣旨論
posted by ウロ at 10:20| Comment(0) | 相続税法
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