貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その1) 〜規範論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1
今回の「除×除」要件の場合は、相続開始前3年以内の領域において「死んだらどうなる?」ということが問題となります。
○
(相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで三年を超えて引き続き政令(19)で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、
【除外要件】 × (除1と呼びます)
相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は除く
【除外要件の除外要件】 ○ (除2と呼びます)
相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地は除かない(除くを除く)
「特定貸付事業」とは
○不動産貸付業
○駐車場業、自転車駐車場業
×準事業はダメ
○
以下、事例で検討します。
【表の説明】
・甲→乙→丙の順で相続があったとします(他に相続人はいない)。
・事業は継続しているものとします。
・その他に貸付物件はないものとします。
乙及び丙がそれぞれ貸付事業用宅地の適用を受けられるかを検討します。
【事例1】
甲が物件を新規購入し、特定貸付事業を開始してから1年経過後に死亡
乙が甲の特定貸付事業を相続により承継してから1年経過後に死亡
丙が乙の特定貸付事業を相続により承継
(以下の事例も同様の読み方となります。)
乙
甲が相続開始前3年以内取得のため、除1が発動して適用不可。
甲の特定貸付事業は1年のため除2は機能しません。
丙
相続開始前3年以内取得ではありますが、令20,9により、Bが「相続」で取得した物件は新規取得に該当しなくなるため、除1は発動せずに、適用できることになります。
令9
被相続人が相続開始前三年以内に開始した相続により法第三項第一号に規定する事業の用に供されていた宅地等を取得し、かつ、その取得の日以後当該宅地等を引き続き同号に規定する事業の用に供していた場合における当該宅地等は、同号の新たに事業の用に供された宅地等に該当しないものとする。
令20
第九項の規定は、被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等について準用する。この場合において、同項中「第三項第一号」とあるのは、「第三項第四号」と読み替えるものとする。
なお、この令20,9にいう「法第三項第四号に規定する事業の用に供されていた宅地等」については、下記《で》の前までを指しているのか(で前説)、《で》の後も含めるのか(で後も説)、二通りの読み方がありうるかもしれません。
四 貸付事業用宅地等
被相続人等の事業(「貸付事業」)の用に供されていた宅地等《で》、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したもの(特定同族会社事業用宅地等及び相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで三年を超えて引き続き政令で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、政令で定める部分に限る。)をいう。
が、この書き方であれば「で前説」で読むべきだと思います。
「で後も説」で読んでしまうと、適用場面がすべて除2と被ってしまい、独自の機能がないことになってしまいます。また、「新規取得に該当しない」という効果からすれば、令20,9は「除1⇒除2」ルートに流れていく手前の段階で機能するものでしょう。
【事例2】
事例1の「特定貸付事業」が「準事業」に置き換わった場合でも、事例1と同じ結論となります。
丙については、新規取得に該当しないことになるため、新規取得の場合に発動する除1とそれを否定する除2はそもそも出番がありません。ので、特定か準かを云々する必要がないということです。
【事例3】
事例3は、事例1より期間が長くなっています。結論は事例1と同じです。
紛らわしいのは、以下の規定の存在。
令21
特定貸付事業を行つていた被相続人(「第一次相続人」)が、当該第一次相続人の死亡に係る相続開始前三年以内に相続(「第一次相続」)により当該第一次相続に係る被相続人の特定貸付事業の用に供されていた宅地等を取得していた場合には、当該第一次相続人の特定貸付事業の用に供されていた宅地等に係る法第三項第四号の規定の適用については、当該第一次相続に係る被相続人が当該第一次相続があつた日まで引き続き特定貸付事業を行つていた期間は、当該第一次相続人が特定貸付事業を行つていた期間に該当するものとみなす。
特定貸付事業の期間を算定するのに、甲の1.5年と乙の1.6年を足してもいいんだと。
事例3でも、この規定のおかげで3年超になるから、除2が機能するんじゃないかと思ってしまうかもしれません。
が、相続による取得の場合は、令20,9により「新規取得」に該当しないこととなるので、除1が発動せず、除2とそのサブルールである令21も発動することはありません。
結論同じならどっちでもよいのでは、と思われるかもしれません。が、条文構造に従った正確な理解を抑えておくことが、込み入った事例を解くのに必要な素養かと思います。
【事例4】
事例3の「特定貸付事業」が「準事業」に置き換わった場合です。
こちらは「準事業」なので除2,令21は機能しないことは明らかです。すんなり、令20,9が適用されることが理解できるかと思います。
事例3と4を統一的に理解するためには、やはり事例3も除2,令21ルートではなく令9,20ルートで適用OKになると理解しておくべきでしょう。
では、令21が機能するのはどういう場合かというと。
たとえば、事例3で、乙が別途新たに物件を購入したような場合です。
甲からの相続物件をA、新規購入物件をBとすると、丙は、物件Aについては令9,20で適用を受けられます。他方で、物件Bについては、もしB取得が乙の相続開始前3年以内だったとしても、除2,令21で甲乙の特定期間を合算することができることになります。
結果、特定期間3年超となるため。物件Bについても丙は適用を受けられるということになります。
他方で、事例4の場合は準事業なので、物件Aは令9,20で適用できても、物件Bについては令21は発動せず適用不可となるということです。
【事例5】
事例3の甲→乙を相続ではなく「売買」とした場合です。
乙がそもそも相続対象外なのは当然として、丙についても、「売買」の場合は令9,20も除2,令21も起動しないので、除1により適用不可です。
○
以上、「令9,20」と「除2,令21」の適用関係については、《規範論的アプローチ》からは「令9,20」が優先的に適用されること、《類型論的アプローチ》からは、それぞれの規定がどのような場面で機能するかが整理できたかと思います。
思考ルートとしては次の通り。
1 3年より前事業供用ならOK
2 3年以内の場合は、「相続」による取得ならば令9,20によりOK
3 それ以外の場合は、「3年超特定貸付事業者」ならば除2によりOK
4 いずれにも該当しなければ適用不可
「除2,令21」は「3年超特定貸付事業者」の定義の中に内蔵してもらうのが、理解しやすいかと思います。
両アプローチが相まって条文理解が進むという、よい関係性が発揮できた好例。
『年末調整のしかた』、なおさらお前はダメだ。
リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その5) 〜趣旨論
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