やはり、ちょっと癖のある制度のほうがイジリがいがあるということでしょうか。
ですが、特定居住用宅地、貸付事業用宅地について検討してしまったので、《揃えモン》としては「3年縛り三姉妹」の残り一人、特定事業用宅地の「3年縛り」についても検討せざるをえません(それぞれどれが泪、瞳、愛に対応するかは各自ご検討ください)。
【揃え癖】
人類は、差異を産み育むことでマニアとなる。 〜法律書マニアクス全開
ということで、以下気が進まないまま展開していきます。
【お約束事項】
・条数は省略して項数以下で引用します。
法 第六十九条の四(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
令 第四十条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
規 第二十三条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
・条文引用は例によってド派手に省略するので、正確には原文をご確認ください。
・要件のうち、「3年縛り」絡みだけを検討します。
○
まずは条文。
法1
個人が相続により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続に係る被相続人【又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族】(「被相続人等」)の事業(事業に準ずるものとして政令(1)で定めるものを含む。同項において同じ。)の用に供されていた宅地等で財務省令(1)で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち政令(4)で定めるもの(特定事業用宅地等「特例対象宅地等」)がある場合
令1
法第一項に規定する事業に準ずるものとして政令で定めるものは、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの(「準事業」)とする。
令4
法第一項に規定する被相続人等の事業の用に供されていた宅地等のうち政令で定めるものは、相続の開始の直前において、当該被相続人等の同項に規定する事業の用に供されていた宅地等のうち所得税法第二条第一項第十六号に規定する棚卸資産(これに準ずるものとして財務省令(3)で定めるものを含む。)に該当しない宅地等とし、これらの宅地等のうちに当該被相続人等の法第一項に規定する事業の用以外の用に供されていた部分があるときは、当該被相続人等の同項に規定する事業の用に供されていた部分に限るものとする。
規1
法第一項に規定する財務省令で定める建物又は構築物は、次に掲げる建物又は構築物以外の建物又は構築物とする。
一 温室その他の建物で、その敷地が耕作(農地法第四十三条第一項の規定により耕作に該当するものとみなされる農作物の栽培を含む。次号において同じ。)の用に供されるもの
二 暗渠きよその他の構築物で、その敷地が耕作の用又は耕作若しくは養畜のための採草若しくは家畜の放牧の用に供されるもの
規3
令第四項に規定する財務省令で定める棚卸資産に準ずるものは、所得税法第三十五条第一項に規定する雑所得の基因となる土地又は土地の上に存する権利とする。
法3 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 特定事業用宅地等
被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令(7)で定めるものを除く。以下この号及び第三号において同じ。)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地等を取得した当該親族の相続人を含む。イにおいて同じ。)が相続により取得したもの(相続開始前三年以内に新たに事業の用に供された宅地等(政令(8)で定める規模以上の事業を行つていた被相続人等の当該事業の用に供されたものを除く。)を除き、政令(10)で定める部分に限る。)をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から相続税法第二十七条、第二十九条又は第三十一条第二項の規定による申告書の提出期限(以下この項において「申告期限」という。)までの間に当該宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該事業を営んでいること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日。第四号イを除き、以下この項において同じ。)まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の事業の用に供していること。
令7
法第三項第一号に規定する政令で定める事業は、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業とする。
令8
法第三項第一号に規定する政令で定める規模以上の事業は、同号に規定する新たに事業の用に供された宅地等の相続の開始の時における価額に対する当該事業の用に供されていた次に掲げる資産(当該資産のうちに当該事業の用以外の用に供されていた部分がある場合には、当該事業の用に供されていた部分に限る。)のうち同条第一項に規定する被相続人等が有していたものの当該相続の開始の時における価額の合計額の割合が百分の十五以上である場合における当該事業とする。
一 当該宅地等の上に存する建物(その附属設備を含む。)又は構築物
二 所得税法第二条第一項第十九号に規定する減価償却資産で当該宅地等の上で行われる当該事業に係る業務の用に供されていたもの(前号に掲げるものを除く。)
令9
被相続人が相続開始前三年以内に開始した相続により法第三項第一号に規定する事業の用に供されていた宅地等を取得し、かつ、その取得の日以後当該宅地等を引き続き同号に規定する事業の用に供していた場合における当該宅地等は、同号の新たに事業の用に供された宅地等に該当しないものとする。
令10
法第三項第一号に規定する政令で定める部分は、同号に規定する被相続人等の事業の用に供されていた宅地等のうち同号に定める要件に該当する部分(同号イ又はロに掲げる要件に該当する同号に規定する被相続人の親族が相続により取得した持分の割合に応ずる部分に限る。)とする。
そして、いつものやつ。
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
○
ここから要件を整理すると次の通り。
【原則要件】 ○
1 事業の用に供されていた宅地
「事業」
不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業は除く
←貸付事業用宅地との棲み分けがされています。
2ア 被相続人の事業
事業承継要件 相続税の申告期限までに承継し継続
保有継続要件 申告期限まで保有
2イ 生計一親族の事業
事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
保有継続要件 申告期限まで保有
【除外要件】 ×
「相続の開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地」は除く
【除外要件の除外要件】 ○
「一定の規模以上の事業を行っていた被相続人等の事業の用に供された宅地」は除かない(除くを除く)
「一定の規模以上の事業」
事業の用に供されていた一定の資産のうち
被相続人等が有していたものの相続開始時の価額の合計額 ≧15%
新たに事業の用に供された宅地等の相続開始時の価額
「一定の資産」(その事業の用に供されていた部分に限る)
・その宅地等の上に存する建物(その附属設備を含みます。)、構築物
・所得税法2条1項19号に規定する減価償却資産でその宅地等の上で行われるその事業に係る業務の用に供されていたもの
○
これだけをみると、「除外要件」に「除外要件の除外要件」をぶつけるという座組は、貸付事業用宅地と同じです。が、同じなのは座組だけで、中身は貸付事業用宅地とは似ても似つかない。
【貸付事業用宅地の場合】
・お亡くなりになる前3年以内に駆け込みで貸付事業始めても駄目だよ(貸除1)。
・でも、それより前からガチ貸付業やってたら、直前で物件追加してもいいよ(貸除2)。
【特定事業用宅地の場合】
・お亡くなりになる前3年以内に駆け込みで事業始めても駄目だよ(事除1)。
・でも、その土地の上で多額の減価償却資産使う事業ならいいよ(事除2)。
すでに検討したとおり、《貸除2》は、3年前からガチ貸付事業をやっている「特定貸付事業者」というヒトの属性を満たせば、その後はどんな規模であっても追加し放題でした。
他方で、《事除2》の規律をみると、過去どんな事業を行っていたかは一切問わず、当該事業が土地の上で(一定規模以上の)モノを使うかどうかで判断することになっています。
《貸除2》は、すでに持っている人に対してはやたら寛容なのに対して、これから新しく貸付事業を始めようとする人に対しては無慈悲。持てるものはより持てるよう、持たざるものはいつまでも持てるようにはならないよう仕向けている(格差の拡大再生産)、と評価されても文句はいえないでしょう。
これに対して《事除2》は、これまで持っていなかった人でも、一定規模以上であれば「死に際チャレンジ」も認めることになっています。
一般事業のチャレンジは広く推進する一方で、貸付事業はこれ以上多くの人に広がることを抑制する、という隠れた意図が透けてみえるよう(既得権益保護税制)。
○
一旦ここで区切って、次回【除外要件の除外要件】の中身について検討します。
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