2022年07月25日

特定事業用宅地はトキ・モノ・モノ(その3)

 では、特定事業用宅地の特例の立法趣旨は何でしょうか。

特定事業用宅地はトキ・モノ・モノ(その1)
特定事業用宅地はトキ・モノ・モノ(その2)

【原則要件】 ○
1 事業の用に供されていた宅地
2ア 被相続人の事業
  事業承継要件 相続税の申告期限までに承継し継続
  保有継続要件 申告期限まで保有
2イ 生計一親族の事業
  事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
  保有継続要件 申告期限まで保有

【除外要件】 × (除1)
 「相続の開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地」は除く

【除外要件の除外要件】 ○ (除2)
 「一定の規模以上の事業を行っていた被相続人等の事業の用に供された宅地」は除かない(除くを除く)

「一定の規模以上の事業」
 事業の用に供されていた一定の資産のうち
 被相続人等が有していたものの相続開始時の価額の合計額  ≧15%
 新たに事業の用に供された宅地等の相続開始時の価額

「一定の資産」(その事業の用に供されていた部分に限る)
・その宅地等の上に存する建物(その附属設備を含みます。)、構築物
・所得税法2条1項19号に規定する減価償却資産でその宅地等の上で行われるその事業に係る業務の用に供されていたもの


 原則要件によれば、事業・保有は「申告期限」までしか要求されていません。この点は貸付事業用宅地と同じで、『申告期限までは頑張って続けてみてよ。もし続けられそうならその後も続けてほしいかな。』といったお願いどまりのものでしょう。

 では、『たとえ駆け込みであっても保護すべきものがそこにはある』でおなじみ、除2要件はどのように理解できるでしょうか。

ア 事業継続促進税制
 たくさん設備投資しているなら後戻りするつもりはなかったんだろうから、事業継続しやすくしてあげよう。
イ 事業廃止促進税制
 たくさん設備投資しているなら片付けが大変だろうから、事業廃止しやすくしてあげよう。

 全く逆方向のどちらにも理解することができます。

 これを原則要件とあわせて記述するならば、次のような説明が可能でしょうか。

・本当は節税目的だけの駆け込み購入を排除したい。が、主観的な「つもり」要件では法的安定性を欠く。
 そこで、3年という期限で区切る。ただ、しっかり設備投資をしているなら本気で事業するつもりだったといえるだろうから、3年以内でも許容する。

・相続人に対しては「お試し期間」として申告期限まで続けてもらおう。続けてくれるならそれにこしたことはないし、止めるにしても後始末に手間がかかるだろうから、どちらであっても特例は受けさせてあげよう。

 貸付事業用宅地と枠組みは同じで、「つもり」の邪推要件だけが異なっていることになります。
 特定事業用宅地の場合は、「しっかり設備投資」をもって事業への本気度を測っていることになります。他方で、貸付事業用宅地の場合は、たとえば駆け込みでマンション数棟(合計10室以上)を買ったとて、それをもって貸付事業への本気度として評価することはできないということなのでしょう。
 ので、3年超本気で貸付事業をやっている場合だけ、死に際購入も許容すると。

 ということで、特定事業用宅地の特例の立法趣旨についても、相続人の事業継続に向けられたものではなく、本気で事業をやっていた被相続人を保護しようとするものだということが分かりました。未来志向ではなく過去の後始末制度。

 ただ、貸付事業用宅地の場合と毛並みが違うのは、『突然亡くなっても相続人に迷惑がかからないようにしておいてあげるから、出し惜しみせず思いっきり事業チャレンジしてくれたまえ!』というように、新規事業の創出を後押ししているところです。
 で、「申告期限」までの継続とすることで、相続人には一応お試しだけはしてもらいつつ、被相続人が好き勝手に始めた事業を押し付けることはしないんだと。

 もちろん「しっかり設備投資」だけをもって事業への本気度を図ることが適切か、ということは当然問題となりえます。除2要件では極めて限定された事業形態しか許容されていないわけで、《事業創出促進税制》とまではいうのはおこがましい。

 なお、ここまでは「被相続人の事業」を念頭において論じてきました。が、「生計一親族の事業」も適用対象となっているわけで、こちらを「お試し期間」で説明するのは違和感があります。もともと自分がやっていた事業ですし。
 被相続人が亡くなったからといって、生計一親族が申告期限までで事業を辞めてもいい理由って、何かありかね。と、疑問は残るものの、ここは保留としておきます。


 以上、3年縛り繋がりで「特定事業用宅地」についても一応の検討をしました。

 小規模宅地の特例という括りであれば、上記でちらっと触れたとおり、もうひとつ「特定同族会社事業用宅地」というのがあります。
 が、さらにモチベーションが上がらないので、たぶんやりません。
posted by ウロ at 10:00| Comment(0) | 相続税法
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