年末調整が終わると、その流れで法定調書合計表へとステージが移ります。
リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その2) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その3) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その4) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
当ブログは、巷のお役立ち記事とは違い、斜め上(下?)のお役立たない記事を掲載しているわけですが、法定調書合計表についてもご多分に漏れず。
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「給与所得の源泉徴収票」を税務署に提出する範囲について。
運営の手引によると下記の通り。
令和3年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引 P.9
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hotei/tebiki2021/index.htm
疑問に思ったのが、「年調無・甲欄・給与2000万円以下」の人がどこにも当てはまらないということです(以下、扶養控除申告書を提出した場合を甲欄と表現します)。
もちろん、本来は2000万円以下であれば年調義務があるわけですが、ルールに従わず年末調整をしなかった場合はどうするか、という話です。
「提出する必要がある方」のどこにも該当しないのだから、提出不要でいいんじゃん、と結論づけるのは早計。
すでに、『年末調整のしかた』につき《規範論的アプローチ》と《類型論的アプローチ》による分析を行った我々には、運営列挙の類型漏れがち、という事実が分かっているわけです。
ので、面倒ながら自力で条文を読み込まざるをえない。
なお、ブログタイトルに『日常系税務』を冠しているとおり、なんでもかんでも条文にさかのぼって、などという《条文原理主義者》のつもりは全くありません。特に、年末調整や合計表などの作業系の業務なんて、運営作成の手引でつつがなく処理できるならば、それに越したことはない。
法定調書合計表にリーガルマインドを発揮するとか、ヤベえ奴よ。《羹に懲りて膾を吹く》感が強い。
が、『年末調整のしかた』でみたとおり、残念ながら鵜呑みにできない。
ので、仕方なく条文を検討します(法は所得税法、規は同法施行規則)。
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法 第二百二十六条(源泉徴収票)
1 居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(第百八十四条(源泉徴収を要しない給与等の支払者)の規定によりその所得税を徴収して納付することを要しないものとされる給与等を除く。以下この章において「給与等」という。)の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その年において支払の確定した給与等について、その給与等の支払を受ける者の各人別に源泉徴収票二通を作成し、その年の翌年一月三十一日まで(年の中途において退職した居住者については、その退職の日以後一月以内)に、一通を税務署長に提出し、他の一通を給与等の支払を受ける者に交付しなければならない。ただし、財務省令で定めるところにより当該税務署長の承認を受けた場合は、この限りでない。
規 第九十三条(給与等の源泉徴収票)
1 居住者に対し国内において法第二百二十六条第一項(給与等の源泉徴収票)に規定する給与等(以下この条において「給与等」という。)の支払をする者は、同項の規定により、その給与等の支払を受ける者の各人別に、次に掲げる事項を記載した源泉徴収票二通を作成し、一通をその給与等に係る所得税の法第十七条(源泉徴収に係る所得税の納税地)の規定による納税地の所轄税務署長(第一号イ及び第六号イ(1)において「所轄税務署長」という。)に提出し、他の一通をその給与等の支払を受ける者に交付しなければならない。(略)
2 前項の場合において、次の各号に掲げる場合に該当するときは、当該各号の規定に該当する給与等に係る同項の源泉徴収票は、税務署長に提出することを要しない。
一 同一人に対するその年中の法第百九十条の規定の適用を受けた給与等(法第二百四条第一項第二号(報酬、料金等に係る源泉徴収義務)に規定する者に支払う給与等及び次号に規定する給与等を除く。)の支払金額が五百万円以下である場合
二 同一人に対するその年中の法第百九十条の規定の適用を受けた給与等で法人がその役員(相談役、顧問その他これらに類する者を含む。)に対して支払うものの支払金額が百五十万円以下である場合
三 同一人に対するその年中の前二号に規定する給与等以外の給与等で給与所得者の扶養控除等申告書を提出した者(前号の役員を除く。)に対してその提出の際に経由した給与等の支払者が支払うものの支払金額が二百五十万円以下である場合
四 同一人に対するその年中の前三号に規定する給与等以外の給与等の支払金額が五十万円以下である場合
手引では、提出が必要な人の類型が限定列挙されています。
が、条文構造はそれとは逆に、原則は全員提出必要で(法184条は無視します)、規則2項各号の限定列挙された事由に該当すれば提出不要、という建て付けになっています。このような規律の仕方ならば、必ずいずれかに含まれることになり、原理上漏れが生じません。
ところが、この枠組みを、手引のように必要な人を限定列挙する書き方に改変してしまうと、高確率で遺漏が生じます(実際そうなっている)。
各号の不要な人を列挙すると次の通り。
1号 500万円以下 年調あり、役員・士業以外
2号 150万円以下 年調あり、役員
3号 250万円以下 甲欄、1,2号,役員以外
4号 50万円以下 1,2,3号以外
ここで「士業」とあるのは、あくまでも「給与」としてもらう場合です。「報酬・料金」の規定から概念お借りしちゃってますが、『者』の部分をお借りしているだけ。
ちなみに、今どきのソフトは提出範囲を自動判定してくれたりしますが、士業給与まで対応しているものってありますかね?社員情報に「士業」であることを入力する項目、無いですよね。
法 第二百四条(源泉徴収義務)
1 居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
二 弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、司法書士、土地家屋調査士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、測量士、建築士、不動産鑑定士、技術士その他これらに類する者で政令で定めるものの業務に関する報酬又は料金
このように、条文では手引にあるような「退職」云々や「2000万円」云々といった切り分け方はされていません。また、手引の「提出範囲」によると、150,250,500,250,50,全部,50、と合計7類型あることになっていますが、条文では4つの除外事由しかありません。
通常、退職者は年調無となるわけですが、甲欄であれば3号により、乙欄・丙欄であれば4号により判定されるということです。退職者という類型が列挙されているわけではありません。
要するに、おせっかいで、条文の規律をばらけさせているということです。
たとえば、(2)年調有・士業給与と(4)イ甲欄・退職者(社員)の250万円は、別々のルールではなく同じ「3号」に対応します。
また、(4)ロの2000万円というのは本来、手引で赤字になっている判定金額で使うもののはずです。のに「受給者の区分」のほうに組み込んでしまったせいで、提出範囲には「全部」などと書くしかなくなっています(ぶざま)。
結果として全部提出することにはなるのですが、条文上どうやって導くかといえば、役員以外は3号で250万円超だから、役員は4号で50万円超だから、提出するということです。適用号数の異なるものが、2000万円超という圧倒的額面によってサイレント呉越同舟させられてしまっている。
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以上の《規範論的アプローチ》によれば、手引ではどこにも該当しない「年調無・甲欄・給与2000万円以下」の場合も、自ずと結論を導くことができます。
この場合は、役員以外は3号で250万円超ならば、役員は4号で50万円超ならば、提出が必要になるということです。
除外ルールを、条文構造にしたがって整理すると次の通り。
社員と士業で違いがあるのは、年調有の場合だけです。年調無で甲欄250、乙欄丙欄50というのは同じです。
役員は年調の有無でのみ結論がかわります。年調無ならすべて50となります。
退職とか2000万円といった事由はここにはでてきません。
通常、退職の場合は年調無となるので、あとは甲欄/乙欄・丙欄、社員・士業/役員かで判定すると。
また、2000万円超云々は、区分としてでてくるのではなく、金額のあてはめの段階ででてくるものです。どこに該当しようが上限500までしかないので、結果として全部提出することになる、ということです。
せっかくなので、手引の出来損ない類型をどうにかむりやり条文構造に近づけようとしてみると、次のようになります。
2000万円超の「全部」が不自然なのと、「?」のところに隙間が空いてしまっていることが分かります。
また、「退職者かつ年2000万円超」の人は、「退職者」「2000万円超」どちらに当てはめればよいでしょうか。
どこに該当しようがどうせ提出、ということではありますが、当てはめに迷いがでるのは、類型の出来の悪さの一端かとは思います。
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ちなみに、「退職所得の源泉徴収票」については、
役員: 全部提出
それ以外: 提出不要
と単純なルールなので、「役員だけ提出」と書けば漏れなくカバーできます。
法 第二百二十六条(源泉徴収票)
2 居住者に対し国内において第三十条第一項(退職所得)に規定する退職手当等(第二百条(源泉徴収を要しない退職手当等の支払者)の規定によりその所得税を徴収して納付することを要しないものとされる退職手当等を除く。以下この章において「退職手当等」という。)の支払をする者は、財務省令で定めるところにより、その年において支払の確定した退職手当等について、その退職手当等の支払を受ける者の各人別に源泉徴収票二通を作成し、その退職の日以後一月以内に、一通を税務署長に提出し、他の一通を退職手当等の支払を受ける者に交付しなければならない。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
規 第九十四条(退職手当等の源泉徴収票)
1 居住者に対し国内において法第二百二十六条第二項(退職手当等の源泉徴収票)に規定する退職手当等(以下この条において「退職手当等」という。)の支払をする者は、同項の規定により、その退職手当等の支払を受ける者の各人別に、その者に係る次に掲げる事項を記載した源泉徴収票二通を作成し、一通をその退職手当等に係る所得税の法第十七条(源泉徴収に係る所得税の納税地)の規定による納税地の所轄税務署長(第一号イにおいて「所轄税務署長」という。)に提出し、他の一通をその退職手当等の支払を受ける者に交付しなければならない。(略)
2 前項の場合において、法人がその前条第二項第二号に規定する役員に対して支払う退職手当等以外の退職手当等については、前項の源泉徴収票は、税務署長に提出することを要しない。
ということで、手引P.19のような記述で特に問題ありません。
2022年01月17日
リーガルマインド法定調書合計表 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
posted by ウロ at 11:04| Comment(0)
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