2022年03月07日

リーガルマインド年次有給休暇 〜原則付与と比例付与

 年次有給休暇の原則付与と比例付与の対象者の切り分けについて。

 結論自体は各種手引、リーフレットなどで自明でしょうが、それが条文上どのように規律されているか、確認をしてみます。


 まずは条文から。原則付与/例外付与の切り分けに関する箇所だけ抜粋します。
 施行規則24条の3で規定されている時間・日数は【 】で組み込んでおきます。

 オリジナルはこちらでご確認ください。

労働基準法(e-Gov)
労働基準法施行規則(e-Gov)

労働基準法 第三十九条(年次有給休暇)
1 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
2 (略)
3 次に掲げる労働者(一週間の所定労働時間が【30時間】以上の者を除く。)の有給休暇の日数については、前二項の規定にかかわらず、これらの規定による有給休暇の日数を基準とし、通常の労働者の一週間の所定労働日数【5.2日】(第一号において「通常の労働者の週所定労働日数」という。)と当該労働者の一週間の所定労働日数又は一週間当たりの平均所定労働日数との比率を考慮して厚生労働省令Bで定める日数とする。
一 一週間の所定労働日数が【4日】以下の労働者
二 週以外の期間によつて所定労働日数が定められている労働者については、一年間の所定労働日数が【216日】以下の労働者
(以下略)



 よくある《労務お役立ちブログ》だと、次のような感じでまとめられています。

1 通常の労働者(週5.2日) 原則付与
2 週30時間未満で週4日以下 比例付与
3 週30時間未満で年216日以下 比例付与

 如何にも条文どおりを装っていますが、出来損ない。
 時間/週、日数/週、日数/年が無秩序に列挙されているだけで全く整理がされていない。

 非専門家向けに分かりやすく、といっても漏れや被りがあるのでは使いものにならない、ということを以前、年末調整の対象者や源泉徴収票の提出範囲に関して論じました。

リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド法定調書合計表 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克

 ここでも同じ事態が生じているのではないか、と思うわけです。
 ということで、条文構造を順に追ってみましょう。

【お約束事項】
・「時間」「日数」は、いずれも「所定労働時間」「所定労働日数」のことです。
・3項の1号・2号は、単に「1号」「2号」といいます。


 まず1項・2項では、比例付与云々にかかわらず、一旦、全労働者を原則付与の対象に入れています。

 次に3項で、比例付与の対象者を列挙し、それら労働者は1項・2項とは異なる年休日数が付与されることが規定されています。
 ただし、3項はあくまでも「付与日数」に関する例外規定なので、1項・2項で全労働者に要求されている「継続勤務」や「8割以上出勤」は、比例付与の対象者にも要求されたままとなります。

 さらに3項では、「週30時間以上の労働者」が比例付与の対象者から除外されています。比例付与の対象者から除外されることで、1項・2項の原則付与に戻るということです。

 このように、条文構造上は原則としての1項・2項があり、3項で日数が比例付与になる例外を定めています。よくある解説モノで書かれているように、フルタイム用の年休制度とパートタイム用の年金制度が別々に存在しているわけではないということです。


 これらを踏まえた上で、時間/週、日数/週、日数/年の違いを意識して整理をすると、次のようになります。
年休比例付与1.png

・分かりやすさを重視して「通常の労働者(週5.2日)」を盛り込んでみましたが、これは1号の裏返しである「週4日超」に包含されるため、この列は削除してもよいです。

・条文裏返しを慎重に行うために「週4日超」と表現していますが、これは要するに「週5日以上」のことです。
 ではありますが、1時間でも8時間でも1日は1日とカウントするので、「4日超」のほうがしっくりくるかもしれません。

・週4日であっても週30時間以上であれば原則付与の対象となります(たとえば、8時間×4日=32時間)。
 また、1日あたりの所定労働時間が短くても週5日であれば原則付与の対象となります(たとえば、4時間×5日=20時間)。
 その結果、1号で比例付与の対象となるのは、「週30時間未満・不特定」かつ「週4日以下」の場合となります。

・単に「週30時間未満」ではなく「週30時間未満・不特定」と書いているのは、次のような考慮からです。
 すなわち、「日数/週」「日数/月」「日数/年」などと所定労働日数の定めがされている場合であっても、必ずしも「時間/週」まで特定されているとは限りません。のに、もし「週30時間以上」の裏返しを「週30時間未満」と記述してしまうと、「時間/週」が特定されていない場合にあてはめが不能になってしまいます。
 条文上も、「週30時間以上」を比例付与から除外しているのであって「週30時間未満」を残しているのではありません。
 以上のことを正確に表現するため、週時間が「不特定」な場合も明示することにしました。

 なお、「時間/週」が不特定でも、たとえば「時間/年」が特定されていればこれを52週で割ることで週あたりの時間を算出する、という考えもありうるかもしれません。
 が、1号・2号が「日数/週」「日数/年」それぞれに別ルールを適用していることからすると、「時間/年」を割って「時間/週」に均してしまうのは正しくないように思えます。

・週以外の期間で日数が定められている場合は、「日数/年」で判定します。
 他方で、週による日数の定めがあるかぎりは表Aで判定します。同じ労働者につき「日数/週」と「日数/年」を併用して判定することはありえません。
 規則3項の表では「日数/週」と「日数/年」が横並びで記述されてしまっていますが、本来は別々の表にしたほうが望ましいです。

・3項は、条文構造上、「週4日以下の労働者」(1号)・「週以外の期間で日数が定められている労働者」(2号)から「週30時間以上の者」を除外しています。
 上述のとおり、「日数/週」「日数/月」「日数/年」といった所定労働日数の定めがあるからといって、「時間/週」まで特定できるとは限りません。とすると、「週30時間以上の者」を除いて残った労働者には、「週30日未満の労働者」だけでなく「週時間不特定の労働者」もいるはずです。
 特に、2号の場合には「時間/週」が特定できるような定めは現実的には考えにくいように思われます。


 上記の表は、1号(A)と2号(B)とでそれぞれ分けたものです。
 そうではなく、「週30時間以上ならば所定労働日数を問わず原則付与」という3項本文の除外規定を頭にもってくるならば、次のようになるでしょうか。

年休比例付与2.png

 「週30時間以上」の場合は原則付与一択なので、もはや表にする必要がないです。
 bの見出しに「週時間不特定」を入れている理由は上述のとおりです。

 前の表とどちらでもよいのですが、3項の条文構造と馴染むのは前の表のほうです。
 ですが個人的には、週30時間以上なら問答無用で原則付与であることが分かりやすく表現されており、かつ表1つですませられるこちらのほうが好みです。


 以上を、《労務お役立ちブログ》風に横並びで整理するならば、次のようになります。

1 週30時間以上(日数は問わない) 原則付与
2 週5日以上(時間は問わない) 原則付与
3 年216日超(日数/週設定ない場合) 原則付与

4 週30時間未満・不特定で週4日以下 比例付与
5 週30時間未満・不特定で年216日以下(日数/週設定ない場合) 比例付与

 やはり表形式のほうが理解しやすいですね。


 なお、最初に書いた【お約束事項】のとおり、本記事では言葉を省略してしまっていますが、原則付与/比例付与の判定につかう時間・日数は、いずれも「所定」労働時間・日数です。

 仮に、年休発生日を少なくするために、予想される実労働時間・日数を下回る「所定」労働時間・日数を意図的に設定した場合(法定内・所定外労働時間が恒常的に発生する)、どのように評価されるでしょうか。
 所定外労働分の賃金(割増なし)が別途発生するものの、当初の賃金設定で調整はできるでしょうし。

 「労働契約書には週4日と書いてあるが本当の意思は週5日だ」などと、書かれざる当事者の意思を認定するといった手法で穴埋めされることになるのかどうか。
posted by ウロ at 11:05| Comment(0) | 労働法
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