2022年03月21日

リーガルマインド事業場外労働のみなし労働時間制

 制度自体は皆さんご存知、ということで特に論点らしい論点もないのでしょうが。

 労働基準法の条文を読む練習ということで。


労働基準法 第三十八条の二(事業場外労働)
1 労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
2 前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする。
3 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。


○1項本文

【事例1】
 ・所定労働時間7時間 /法定労働時間8時間

 労働時間を算定し難いときは、
  全部外勤:外勤 →7時間とみなす
  一部外勤:外勤+内勤 →あわせて7時間とみなす

 「全部又は一部」とあることから、全部外勤の場合に外勤7時間とみなすだけでなく、一部外勤の場合に外勤+内勤で7時間とみなすことになります。

○1項但書

【事例2】
 ・所定労働時間7時間 /法定労働時間8時間 /通常必要時間8時間(外勤)

 所定労働時間を超えることが必要なときは、
  外勤 →8時間(通常必要時間)とみなす

 この場合、みなされるのは「当該業務」(=外勤)だけで、内勤は対象になっていません。1項本文のように外勤+内勤あわせてみなされるわけではありません。

 それゆえ、内勤については別途、「実労働時間」を把握する必要があります。

  全部外勤:外勤8時間(みなし労働時間)
  一部外勤:外勤8時間(みなし労働時間)+内勤○時間(実労働時間)

○2項、3項

 「当該業務」(=外勤)とあるので、協定で定めることができるのは外勤のみとなります。
 そして「前項の協定」とあるので、届出書に記載するのも「外勤」のみです。

 1項但書とは別に2項の労使協定があるのは、通常必要時間を決め打ちすることで安定的な運用ができるようにしよう、ということなのでしょう。労働者側の同意もあるならば正統性・妥当性も担保できるでしょうと。

 届出書の提出範囲については、施行規則に規定があります。

労働基準法施行規則 第二十四条の二
1 法第三十八条の二第一項の規定は、法第四章の労働時間に関する規定の適用に係る労働時間の算定について適用する。
2 法第三十八条の二第二項の協定(労働協約による場合を除き、労使委員会の決議及び労働時間等設定改善委員会の決議を含む。)には、有効期間の定めをするものとする。
3 法第三十八条の二第三項の規定による届出は、様式第十二号により、所轄労働基準監督署長にしなければならない。ただし、同条第二項の協定で定める時間が法第三十二条又は第四十条に規定する労働時間以下である場合には、当該協定を届け出ることを要しない。
4 使用者は、法第三十八条の二第二項の協定の内容を法第三十六条第一項の規定による届出(労使委員会の決議の届出及び労働時間等設定改善委員会の決議の届出を除く。)に付記して所轄労働基準監督署長に届け出ることによつて、前項の届出に代えることができる。


○規3項

 法定労働時間(法32条)を超えなければ提出不要とありますが、「協定で定める時間」とあることから外勤のみで判定することになります。

【事例3】
 ・外勤協定時間9時間 →提出必要
 ・外勤協定時間8時間+内勤時間2時間 →提出不要

 もちろん、あわせて法定外の時間外労働が生じれば、別途36協定の締結・提出が必要となります。


 このように、1項本文とそれ以降のみなしの対象がずれていることから、次のような疑問が生じます。

 たとえば、内勤時間に合わせて外勤時間を調整するような運用をしている場合はどうなるのでしょうか。内勤がなければ1日中外勤だが、内勤があればその分外勤を減らすといったような場合です。
 もちろん、外勤時間の把握はできない前提なので、あくまでも目安としての時間です。

 これが所定労働時間内に収まっていれば、内訳がどうであろうと所定労働時間とみなされるだけですみます。

【事例4】
 所定労働時間内に収まる
 ・外勤7時間
 ・内勤1時間+外勤6時間
 ・内勤4時間+外勤3時間
 →いずれも7時間とみなす(外勤の時間は目安であって実労働時間ではない)

 では、所定労働時間を超える運用をしている場合はどうでしょうか。

【事例5】
 ・外勤8時間
 ・内勤1時間+外勤7時間
 ・内勤4時間+外勤4時間

 常に超えるなら、その所定労働時間なんなの、というのはさておき。
 内勤時間に応じて、みなされる外勤の通常必要時間も可変するということになるでしょうか。

 また、労使協定をするならば、内勤時間に応じた外勤時間の書き分けが必要ということでしょうか。そして、書き分けた協定書のうち、外勤のみで法定労働時間を超える部分だけを提出するんだと。

 以上はあくまで条文を読んだ限りで思いついた疑問にすぎません。
 実務的にはつつがなく運用がなされているところなのでしょう。
posted by ウロ at 12:15| Comment(0) | 労働法
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