2022年04月11日

いろんな産休と育休 〜法間インターフェイス論

 産休・育休まわりの制度ですが、主なものだけでも、
  ・労働基準法
  ・育児介護休業法
  ・厚生年金保険法、健康保険法
  ・雇用保険法
に散らばって存在しています。

 代表的な制度を整理すると次のとおり(あと入れるとしたら厚年法26条の「標準報酬月額の特例」でしょうか)。雇用保険料については支給のあるなしで決まるので、特に制度としては設けられていません。

産休・育休 一覧.png


 本ブログでよくテーマとなる《法間インターフェイス》という観点からネタになりそうなので、検討してみます。
 なお、2022/10/1から改正法が施行されますが、本テーマには直接影響しないので、本記事では改正前の条文を引用します。また、厚生年金保険法と健康保険法は規律内容が同じなので健康保険法の条文で代表させます。


 まず「産休」から。

 労働基準法の規定は次のとおり。

労働基準法 第六十五条(産前産後)
1 使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
2 使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。


 他方で健康保険法。

健康保険法 第四十三条の三(産前産後休業を終了した際の改定)
1 保険者等は、産前産後休業(出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前四十二日(多胎妊娠の場合においては、九十八日)から出産の日後五十六日までの間において労務に服さないこと(妊娠又は出産に関する事由を理由として労務に服さない場合に限る。)をいう。以下同じ。)を終了した被保険者が、当該産前産後休業を終了した日(以下この条において「産前産後休業終了日」という。)において当該産前産後休業に係る子を養育する場合において、その使用される事業所の事業主を経由して厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、第四十一条の規定にかかわらず、産前産後休業終了日の翌日が属する月以後三月間(産前産後休業終了日の翌日において使用される事業所で継続して使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となった日数が十七日未満である月があるときは、その月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を改定する。ただし、産前産後休業終了日の翌日に育児休業等を開始している被保険者は、この限りでない。
2 前項の規定によって改定された標準報酬月額は、産前産後休業終了日の翌日から起算して二月を経過した日の属する月の翌月からその年の八月(当該翌月が七月から十二月までのいずれかの月である場合は、翌年の八月)までの各月の標準報酬月額とする。


 終了時改定のところに「産前産後休業」の定義が書かれていて、それを社保免除(159条の3)に流用しています。

健康保険法 第百五十九条の三
 産前産後休業をしている被保険者が使用される事業所の事業主が、厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、その産前産後休業を開始した日の属する月からその産前産後休業が終了する日の翌日が属する月の前月までの期間、当該被保険者に関する保険料を徴収しない。


 出産手当金については、流用しないで直接書き込んでいます。

健康保険法 第百二条(出産手当金)
1 被保険者が出産したときは、出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前四十二日(多胎妊娠の場合においては、九十八日)から出産の日後五十六日までの間において労務に服さなかった期間、出産手当金を支給する。
2 第九十九条第二項及び第三項の規定は、出産手当金の支給について準用する。


 なぜ流用していないのかといえば、おそらく出産手当金の場合は(妊娠又は出産に関する事由を理由として労務に服さない場合に限る。)という限定をつけないということかと思われます。

 いずれにしても独自の定義によっており、労基法からお借りしているわけではありません。

 で、労基法と健保法の違いですが、産後は実際の出産日から起算で一致しています。
 他方、産前は、
  労基法 出産予定日から起算で固定
  健保法 出産日が、予定日どおりor予定日より後 →労基法と同じ
      出産日が、予定日より前 →出産日から起算
とズレる場合があります。

 労基法ではいつから休む権利があるかが事前に決まっている必要があるので産前休業が固定なのに対し、健保法では出産日が早まると産後休業が前倒しになってしまうので、その分優遇を受けられる産前の期間も前倒しにしてあげよう、ということなのでしょう。

 また、終了時改定・社保免除は「妊娠・出産」を理由とする休業であることが要求されているので、
  労基法 産前産後休業  休業理由限定なし
  健保法 出産手当金   休業理由限定なし
  健保法 改定・社保免除 休業理由限定あり
と、健保法の中でもズレがあることになります。

 このようなズレがあることにより、
・労働者でない役員であっても、健保法の優遇を受けることができる。
・労基法の産前休業より前の期間でも、健保法の優遇を受けることができる。
・社保免除は受けられないが出産手当金は受けることができる期間がある。
といった事態が生じてきます。

 なんとなく「産休で一緒だろ」と思っていると、取りこぼしをしている可能性があるということです。健保法内でもズレがあるというのは、なかなかの落とし穴。

 厚年法の標準報酬月額特例も含めて整理しておきます。

産前産後 一覧.png


 次に「育休」について。
 健保法と雇保法が育介法からお借りしているかどうか。

健康保険法 第四十三条の二(育児休業等を終了した際の改定)
1 保険者等は、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)第二条第一号に規定する育児休業、同法第二十三条第二項の育児休業に関する制度に準ずる措置若しくは同法第二十四条第一項(第二号に係る部分に限る。)の規定により同項第二号に規定する育児休業に関する制度に準じて講ずる措置による休業又は政令で定める法令に基づく育児休業(以下「育児休業等」という。)を終了した被保険者が、当該育児休業等を終了した日(以下この条において「育児休業等終了日」という。)において当該育児休業等に係る三歳に満たない子を養育する場合において、その使用される事業所の事業主を経由して厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、第四十一条の規定にかかわらず、育児休業等終了日の翌日が属する月以後三月間(育児休業等終了日の翌日において使用される事業所で継続して使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となった日数が十七日未満である月があるときは、その月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を改定する。ただし、育児休業等終了日の翌日に次条第一項に規定する産前産後休業を開始している被保険者は、この限りでない。
2 前項の規定によって改定された標準報酬月額は、育児休業等終了日の翌日から起算して二月を経過した日の属する月の翌月からその年の八月(当該翌月が七月から十二月までのいずれかの月である場合は、翌年の八月)までの各月の標準報酬月額とする。


 終了時改定のところに「育児休業等」の定義を育介法からお借りすることが書かれていて、その定義を社保免除(159条)に流用しています。

健康保険法 第百五十九条
 育児休業等をしている被保険者(第百五十九条の三の規定の適用を受けている被保険者を除く。)が使用される事業所の事業主が、厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、その育児休業等を開始した日の属する月からその育児休業等が終了する日の翌日が属する月の前月までの期間、当該被保険者に関する保険料を徴収しない。


 他方、「給付」については健保法ではなく雇保法にいきます。

雇用保険法 第六十一条の七(育児休業給付金)
 育児休業給付金は、被保険者(短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者を除く。以下この条において同じ。)が、厚生労働省令(101の22)で定めるところにより、その一歳に満たない子(民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百十七条の二第一項の規定により被保険者が当該被保険者との間における同項に規定する特別養子縁組の成立について家庭裁判所に請求した者(当該請求に係る家事審判事件が裁判所に係属している場合に限る。)であつて、当該被保険者が現に監護するもの、児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第二十七条第一項第三号の規定により同法第六条の四第二号に規定する養子縁組里親である被保険者に委託されている児童及びその他これらに準ずる者として厚生労働省令(101の23)で定める者に、厚生労働省令(101の24)で定めるところにより委託されている者を含む。以下この章において同じ。)(その子が一歳に達した日後の期間について休業することが雇用の継続のために特に必要と認められる場合として厚生労働省令(101の25)で定める場合に該当する場合にあつては、一歳六か月に満たない子(その子が一歳六か月に達した日後の期間について休業することが雇用の継続のために特に必要と認められる場合として厚生労働省令(101の26)で定める場合に該当する場合にあつては、二歳に満たない子))を養育するための休業をした場合において、当該休業を開始した日前二年間(当該休業を開始した日前二年間に疾病、負傷その他厚生労働省令(101の29)で定める理由により引き続き三十日以上賃金の支払を受けることができなかつた被保険者については、当該理由により賃金の支払を受けることができなかつた日数を二年に加算した期間(その期間が四年を超えるときは、四年間))に、みなし被保険者期間が通算して十二箇月以上であつたときに、支給単位期間について支給する。


 省令を貼り付けると長くなりすぎるので省略しました。条数を挿入しておきましたので各自ご確認ください。

雇用保険法施行規則 | e-Gov法令検索

 要するに、雇保法+省令では、育介法からお借りせずに独自に定義を書き込んでいるということです。
 が、内容見る限り、どうやら育介法とそっくりなことが書いてあります。

 わざわざそっくりなことを書き込むくらいなら、健保法のように素直に育介法から借りてくればいいのでは、と思うのですが、何かそうすべき理由があるのでしょう。
 もし、育介法と雇保法とでズレがある(育介法の育児休業にあたらないのに雇保法の育児休業にあたる)ところを見つけた方はお知らせいただけると幸いです。


 以上をまとめると次の通りとなります。

産休・育休 定義.png


 どうにも統一感が見いだせないのですが、それぞれの立案担当者による深遠な配慮があっての結果なのでしょう。

 いずれにしても、お借りするのかしないのか、しっかり法律に書き込まれているわけです。複雑ながらも、条文読めばちゃんと書いてある。
 「租税法律主義」とかを偉そうに掲げているくせに、《借用概念論》なる解釈論を無邪気に展開している税法(学)とは大違い。
posted by ウロ at 00:00| Comment(0) | 社会保障法
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