前回の記事の中で、産休の社保免除・終了時改定では休業理由が「出産・妊娠」に限定されているのに対し、出産手当金ではそのような限定がされていない、ということを書きました。
いろんな産休と育休 〜法間インターフェイス論
ところが、運営の「健康保険出産手当金支給申請書」の書式には、「3 出産のため休んだ期間(申請期間)」という欄があります。
健康保険出産手当金支給申請書
出産手当金を申請できるのは「出産のため」に休んだ場合に限られるというのが、運営の立場のようです。
が、法律が認めているものを、運営レベルで勝手に制限してしまってよいものなのでしょうか。
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この点、「傷病手当金」の規律をみてみると、
健康保険法 第九十九条(傷病手当金)
1 被保険者が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する。
と、「療養のため労務に服することができないとき」と休業理由が限定されています。怪我の療養とは別の理由で休んだら対象外になるんだと。
ので、傷病手当金支給申請書が「4 療養のため休んだ期間(申請期間)」となっているのは、法律の定めどおりで正しいわけです。
健康保険傷病手当金支給申請書
これに対し、「出産手当金」では、
健康保険法 第百二条(出産手当金)
1 被保険者が出産したときは、出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前四十二日(多胎妊娠の場合においては、九十八日)から出産の日後五十六日までの間において労務に服さなかった期間、出産手当金を支給する。
と、期間の限定はあるものの、休業理由には限定がないことが分かります。
もしかして省令レベルで限定が付されているのかと思いきや、単に「労務に服さなかった期間」としか書かれていません。
健康保険法施行規則 第八十七条(出産手当金の支給の申請)
1 法第百二条第一項の規定により出産手当金の支給を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書を保険者に提出しなければならない。
一 被保険者等記号・番号又は個人番号
二 出産前の場合においては出産の予定年月日、出産後の場合においては出産の年月日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定年月日及び出産の年月日)
三 多胎妊娠の場合にあっては、その旨
四 労務に服さなかった期間
五 出産手当金が法第百八条第二項ただし書の規定によるものであるときは、その報酬の額及び期間
六 出産手当金が法第百九条の規定によるものであるときは、受けることができるはずであった報酬の額及び期間、受けることができなかった報酬の額及び期間、法第百八条第二項ただし書の規定により受けた出産手当金の額並びに報酬を受けることができなかった理由
ちなみに、社保免除の申出書には、「産前産後休業期間とは、出産日以前42日(多胎妊娠の場合は98日)〜出産日後56日の間に、妊娠または出産を理由として労務に従事しない期間のことです。」との注意書きがあって、こちらはこれで正しいわけです。
産前産後休業を取得し、保険料の免除を受けようとするとき
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ということで、「健康保険出産手当金支給申請書」は、法律上申請できるはずの休業まで勝手に制限してしまっている点で違法だと、私は思うのですが、誰も騒ぎ立てていないことからすると、私の条文の読み方がおかしいだけなのでしょうか。
もしくは、分かっている人は分かっている、ということで、しれっと別理由の休業期間も申請期間に含めて申請しているのでしょうか。
養育期間標準報酬月額の特例はどっち?
2022年04月18日
「出産手当金支給申請書」違法論
posted by ウロ at 11:43| Comment(0)
| 社会保障法
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