取りこぼしていた、厚生年金保険法の「養育期間標準報酬月額の特例」について拾っておきます。
いろんな産休と育休 〜法間インターフェイス論
「出産手当金支給申請書」違法論
厚生年金法 第二十六条(三歳に満たない子を養育する被保険者等の標準報酬月額の特例)
1 三歳に満たない子を養育し、又は養育していた被保険者又は被保険者であつた者が、主務省令で定めるところにより実施機関に申出(被保険者にあつては、その使用される事業所の事業主を経由して行うものとする。)をしたときは、当該子を養育することとなつた日(厚生労働省令で定める事実が生じた日にあつては、その日)の属する月から次の各号のいずれかに該当するに至つた日の翌日の属する月の前月までの各月のうち、その標準報酬月額が当該子を養育することとなつた日の属する月の前月(当該月において被保険者でない場合にあつては、当該月前一年以内における被保険者であつた月のうち直近の月。以下この条において「基準月」という。)の標準報酬月額(この項の規定により当該子以外の子に係る基準月の標準報酬月額が標準報酬月額とみなされている場合にあつては、当該みなされた基準月の標準報酬月額。以下この項において「従前標準報酬月額」という。)を下回る月(当該申出が行われた日の属する月前の月にあつては、当該申出が行われた日の属する月の前月までの二年間のうちにあるものに限る。)については、従前標準報酬月額を当該下回る月の第四十三条第一項に規定する平均標準報酬額の計算の基礎となる標準報酬月額とみなす。
一 当該子が三歳に達したとき。
二 第十四条各号のいずれかに該当するに至つたとき。
三 当該子以外の子についてこの条の規定の適用を受ける場合における当該子以外の子を養育することとなつたときその他これに準ずる事実として厚生労働省令で定めるものが生じたとき。
四 当該子が死亡したときその他当該被保険者が当該子を養育しないこととなつたとき。
五 当該被保険者に係る第八十一条の二第一項の規定の適用を受ける育児休業等を開始したとき。
六 当該被保険者に係る第八十一条の二の二第一項の規定の適用を受ける産前産後休業を開始したとき。
(略)
ここで求められていることは、3歳未満の子を養育している・していたことと標準報酬月額が基準月を下回っている月があることで、その下回った原因が養育にあることは求められていません。
申出書には「勤務時間短縮等の措置を受けて働き、それに伴って標準報酬月額が低下した場合」などと書かれていますが、そのような因果関係は条文上は要求されていませんし、何がしかの特別な措置をとることすら要求されていません。
養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置
随分緩すぎる気もしますが、条文を読む限りはそういうことのようです。
前回までで検討したもののなかでいうと、出産手当金の系列に属します。
出産手当金:対象期間中に休業していれば休業原因を問わず受けられる。
標準報酬月額特例:対象期間中に下回っていれば下回った原因を問わず受けられる。
社保免除、終了時改定:理由が限定されている
出産手当金、標準報酬月額特例:理由が限定されていない
○
ただし、標準報酬月額特例の対象期間の終了事由の中に「産前産後休業」が出てきます。
こちらは、終了時改定・社保免除の「産前産後休業」と同じ意味です。ので、産前産後期間の休業であっても「妊娠・出産」を理由とするものでなければ終了事由には該当しないということです。
というか、「第八十一条の二の二第一項の規定の適用を受ける」とあるので、社保免除を受けたら終了ということですね(2人目に移る)。
○
以上、今回検討した各制度を、なんとなく「産前産後休業」に関する制度と一括りで理解していると、思わぬ間違いを起こす可能性があるということがわかりました。
お役所のリーフレットの類が、分かりやすさ優先で正確性を犠牲にしがちなのはしばしば観測されますが、書式すら不正確というのはなかなかにしんどい。
面倒ではありますが、やはり一度は条文を見ておかないといけないということでしょう。
厚生年金法 第二十三条の三(産前産後休業を終了した際の改定)
1 実施機関は、産前産後休業(出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前四十二日(多胎妊娠の場合においては、九十八日)から出産の日後五十六日までの間において労務に従事しないこと(妊娠又は出産に関する事由を理由として労務に従事しない場合に限る。)をいい、船員(国家公務員共済組合の組合員たる船員及び地方公務員共済組合の組合員たる船員を除く。以下同じ。)たる被保険者にあつては、船員法第八十七条第一項又は第二項の規定により職務に服さないことをいう。以下同じ。)を終了した被保険者が、当該産前産後休業を終了した日(以下この条において「産前産後休業終了日」という。)において当該産前産後休業に係る子を養育する場合において、その使用される事業所の事業主を経由して主務省令で定めるところにより実施機関に申出をしたときは、第二十一条の規定にかかわらず、産前産後休業終了日の翌日が属する月以後三月間(産前産後休業終了日の翌日において使用される事業所で継続して使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となつた日数が十七日未満である月があるときは、その月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を改定する。ただし、産前産後休業終了日の翌日に育児休業等を開始している被保険者は、この限りでない。
(略)
厚生年金法 第八十一条の二の二(産前産後休業期間中の保険料の徴収の特例)
1 産前産後休業をしている被保険者が使用される事業所の事業主が、主務省令で定めるところにより実施機関に申出をしたときは、第八十一条第二項の規定にかかわらず、当該被保険者に係る保険料であつてその産前産後休業を開始した日の属する月からその産前産後休業が終了する日の翌日が属する月の前月までの期間に係るものの徴収は行わない。
(略)
健康保険法 第四十三条の三(産前産後休業を終了した際の改定)
1 保険者等は、産前産後休業(出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前四十二日(多胎妊娠の場合においては、九十八日)から出産の日後五十六日までの間において労務に服さないこと(妊娠又は出産に関する事由を理由として労務に服さない場合に限る。)をいう。以下同じ。)を終了した被保険者が、当該産前産後休業を終了した日(以下この条において「産前産後休業終了日」という。)において当該産前産後休業に係る子を養育する場合において、その使用される事業所の事業主を経由して厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、第四十一条の規定にかかわらず、産前産後休業終了日の翌日が属する月以後三月間(産前産後休業終了日の翌日において使用される事業所で継続して使用された期間に限るものとし、かつ、報酬支払の基礎となった日数が十七日未満である月があるときは、その月を除く。)に受けた報酬の総額をその期間の月数で除して得た額を報酬月額として、標準報酬月額を改定する。ただし、産前産後休業終了日の翌日に育児休業等を開始している被保険者は、この限りでない。
(略)
健康保険法 第百五十九条の三
産前産後休業をしている被保険者が使用される事業所の事業主が、厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、その産前産後休業を開始した日の属する月からその産前産後休業が終了する日の翌日が属する月の前月までの期間、当該被保険者に関する保険料を徴収しない。
健康保険法 第百二条(出産手当金)
1 被保険者が出産したときは、出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前四十二日(多胎妊娠の場合においては、九十八日)から出産の日後五十六日までの間において労務に服さなかった期間、出産手当金を支給する。
2 第九十九条第二項及び第三項の規定は、出産手当金の支給について準用する。
【事例演習】育休期間中の社保免除
2022年04月25日
養育期間標準報酬月額の特例はどっち?
posted by ウロ at 09:43| Comment(0)
| 社会保障法
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