2022年05月09日

例による×読替規定の鬼コンボ(その1) 〜地方税法の「合計所得金額」

 先日の記事について、改正法成立後のフォローをしておきます。

「合計所得金額」に退職所得は含まれるし含まれない。〜令和4年度税制改正大綱を素材に

 こういう条文が入りました(都合により、市町村民税のほうの条文でいきます)。

地方税法施行令 第48条の5の2(総所得金額の算定の特例)
 法第三百十三条第二項の規定により同条第一項の総所得金額を算定する場合には、所得税法第三十五条第四項第一号中「第二条第一項第三十号(定義)に規定する合計所得金額」とあるのは「地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第二百九十二条第一項第十三号に規定する合計所得金額」と、租税特別措置法第四十一条の三の三第四項第三号中「所得税法第二条第一項第三十四号に規定する扶養親族」とあるのは「地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第二百九十二条第一項第九号に規定する扶養親族」と、同項第四号中「所得税法第二条第一項第三十三号に規定する同一生計配偶者」とあるのは「地方税法第二百九十二条第一項第七号に規定する同一生計配偶者」と、同法第四十一条の十五の三第一項中「同条第四項(同法第百六十五条第一項において適用する場合を含む。)」とあるのは「地方税法第三百十三条第二項の規定によりその例によることとされる所得税法第三十五条第四項」と、「ついては、同法」とあるのは「ついては、地方税法施行令第四十八条の五の二の規定により読み替えられた同法」として、これらの規定の例によるものとする。


 「例による」と読替規定のコンボのため異様なほど意味がとりにくい。のですが、この規定を分解すると次の通り。

ア 所35条4項1号 (公的年金等控除)
   「所得税法2条第1項第30号(定義)に規定する合計所得金額」
  ⇒「地方税法292条第1項第13号に規定する合計所得金額」

イ 措置法41条の3の3第4項第3号 (所得金額調整控除)
   「所得税法2条1項34号に規定する扶養親族」
  ⇒「地方税法292条1項9号に規定する扶養親族」

ウ 措置法41条の3の3第4項第4号 (所得金額調整控除)
   「所得税法2条1項33号に規定する同一生計配偶者」
  ⇒「地方税法292条1項第7号に規定する同一生計配偶者」

エ 措置法41条の15の3第1項 (公的年金等控除(65歳以上))
   「所得税法35条4項(同法第165条1項において適用する場合を含む。)」
  ⇒「地方税法313条2項の規定によりその例によることとされる所得税法35条4項」
   「ついては、同法」
  ⇒「ついては、地方税法施行令48条の5の2の規定により読み替えられた同法」


 年金所得の計算方法自体は相変わらず所得税法からお借りするやり口のままです。
 が、そのお借りする過程で「合計所得金額」を地方税法のそれに読み替えるということがアに規定されています。

地方税法 第292条(市町村民税に関する用語の意義)
 市町村民税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
十三 合計所得金額 第三百十三条第八項及び第九項の規定による控除前の同条第一項の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額をいう。


 この条文だけをみたら退職所得金額も含まれてるじゃんと思いがち。ですが、「現年分離課税」となる退職所得はここから除かれる、ということは以前の記事で書いたとおりです。
 なお、退職所得が「前年所得課税」となる場合はどうなるかという問題もありますが、さしあたり省略します。

非居住者に対する退職所得と住民税

 そして、エでは措置法の「65歳以上」の特例についても同じノリで読み替えを行うとされています。
 なんとも言えない言い回しになっていますが、これは措置法41条の15の3第1項が、所35条4項1号の控除額の65歳適用部分だけ修正している、という建付けになっているためです。ストレートな読み替えではすんなり例によれないということなのでしょう。

 下記の「所得金額調整控除」が、措置法オリジナルの控除であるのとは違うわけです。


 以前の記事で懸念していた「所得金額調整控除」ですが、これについてはイウで手当がされています。
 大綱では触れられていなかったというのに、さすがしっかり穴埋めしてきています。

 「扶養親族」「同一生計配偶者」の定義を地方税法のそれに読み替えることで、それらの者の「合計所得金額」もあわせて地方税法のそれに置き換えることになるんだと。

措置法 第41条の3の3(所得金額調整控除)
1 その年中の給与等の収入金額が八百五十万円を超える居住者で、特別障害者に該当するもの又は年齢二十三歳未満の扶養親族を有するもの若しくは特別障害者である同一生計配偶者若しくは扶養親族を有するものに係る総所得金額を計算する場合には、その年中の給与等の収入金額(当該給与等の収入金額が千万円を超える場合には、千万円)から八百五十万円を控除した金額の百分の十に相当する金額を、その年分の給与所得の金額から控除する。
2 その年分の給与所得控除後の給与等の金額及び公的年金等に係る雑所得の金額がある居住者で、当該給与所得控除後の給与等の金額及び当該公的年金等に係る雑所得の金額の合計額が十万円を超えるものに係る総所得金額を計算する場合には、当該給与所得控除後の給与等の金額(当該給与所得控除後の給与等の金額が十万円を超える場合には、十万円)及び当該公的年金等に係る雑所得の金額(当該公的年金等に係る雑所得の金額が十万円を超える場合には、十万円)の合計額から十万円を控除した残額を、その年分の給与所得の金額(前項の規定の適用がある場合には、同項の規定による控除をした残額)から控除する。
4 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
三 扶養親族 所得税法第二条第一項第三十四号に規定する扶養親族をいう。「地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第二百九十二条第一項第九号に規定する扶養親族」
四 同一生計配偶者 所得税法第二条第一項第三十三号に規定する同一生計配偶者をいう。「地方税法第二百九十二条第一項第七号に規定する同一生計配偶者」
六 公的年金等に係る雑所得の金額 所得税法第三十五条第二項第一号に掲げる金額をいう。


地方税法 第292条(市町村民税に関する用語の意義)
 市町村民税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
七 同一生計配偶者 市町村民税の納税義務者の配偶者でその納税義務者と生計を一にするもの(第三百十三条第三項に規定する青色事業専従者に該当するもので同項に規定する給与の支払を受けるもの及び同条第四項に規定する事業専従者に該当するものを除く。)のうち、当該年度の初日の属する年の前年(以下この条、第二百九十五条、第三百十三条から第三百十七条の三まで及び第三百十七条の六から第三百二十一条の七の九までにおいて「前年」という。)の合計所得金額が四十八万円以下である者をいう。
九 扶養親族 市町村民税の納税義務者の親族(その納税義務者の配偶者を除く。)並びに児童福祉法第二十七条第一項第三号の規定により同法第六条の四に規定する里親に委託された児童及び老人福祉法第十一条第一項第三号の規定により同号に規定する養護受託者に委託された老人でその納税義務者と生計を一にするもの(第三百十三条第三項に規定する青色事業専従者に該当するもので同項に規定する給与の支払を受けるもの及び同条第四項に規定する事業専従者に該当するものを除く。)のうち、前年の合計所得金額が四十八万円以下である者をいう。



 所得金額調整控除(子ども等)はこれでいいとして、所得金額調整控除(年金)の場合はどうなるのか。措置法第41条の3の3の「6号」の置き換えはされていないことから、ここだけ取り残されているのか。

 おそらくですけど、6号が

六 公的年金等に係る雑所得の金額 所得税法第三十五条第二項第一号に掲げる金額をいう。

と所得税法35条2項1号をお借りしており、かつ、同条4項に「第2項に規定する公的年金等控除額は」とあることから、最終的にア(+エ)に繋がるということなんでしょう。

 措置法第41条の3の3第2項、4項6号
 ⇒所得税法35条2項1号
  ⇒所得税法35条4項1号
   ⇒地方税法施行令第48条の5の2(ア+エ)

 分かりにくいにしても、直接6号に読み替え入れてもらったほうがはるかにマシだと思うのですが、そういう条文お作法なので仕方がない。


 以上、《日常系税務》の範疇では、そういうことになったんですねと結論だけ理解をしておけばさしあたりは足ります。そして、大綱に記載のなかった「所得金額調整控除」についても手当がされた点も忘れなければ。

 が、キマイラ感にさらに磨きがかかってしまったわけで、次回少し突っ込んでみます。
posted by ウロ at 11:10| Comment(0) | 地方税法
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