前回は、読替規定のご紹介だけで終わりにしました(以下、同規定を「本施行令」といいます)。
例による×読替規定の鬼コンボ(その1) 〜地方税法の「合計所得金額」
地方税法施行令 第48条の5の2(総所得金額の算定の特例)
法第三百十三条第二項の規定により同条第一項の総所得金額を算定する場合には、所得税法第三十五条第四項第一号中「第二条第一項第三十号(定義)に規定する合計所得金額」とあるのは「地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第二百九十二条第一項第十三号に規定する合計所得金額」と、租税特別措置法第四十一条の三の三第四項第三号中「所得税法第二条第一項第三十四号に規定する扶養親族」とあるのは「地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第二百九十二条第一項第九号に規定する扶養親族」と、同項第四号中「所得税法第二条第一項第三十三号に規定する同一生計配偶者」とあるのは「地方税法第二百九十二条第一項第七号に規定する同一生計配偶者」と、同法第四十一条の十五の三第一項中「同条第四項(同法第百六十五条第一項において適用する場合を含む。)」とあるのは「地方税法第三百十三条第二項の規定によりその例によることとされる所得税法第三十五条第四項」と、「ついては、同法」とあるのは「ついては、地方税法施行令第四十八条の五の二の規定により読み替えられた同法」として、これらの規定の例によるものとする。
○
私が真っ先に疑問をもったのが、この読替規定、なんで「政令」に規定されているのかということです。
改正後の条文がどうなったのか、ひたすら地方税法の改正条文を探していたのですが、どおりで見つからないわけです。まさか政令(だけ)に規定されているとは。
確かに、地方税法313条では、「政令」でも「特別の定め」をすることができると規定されています。
地方税法 第三百十三条(所得割の課税標準)
1 所得割の課税標準は、前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。
2 前項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額は、この法律又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか、それぞれ所得税法その他の所得税に関する法令の規定による所得税法第二十二条第二項又は第三項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算の例によつて算定するものとする。ただし、同法第六十条の二から第六十条の四までの規定の例によらないものとする。
が、この条文からすると、
@ 特別の定めが許されるのは「例によらない」場合であって、「例による」けどもその《より方》を調整することは許容されていないのではないか?
A 「この法律又はこれに基づく政令」とあることからすると、「法律」で何かしらの特別の定めがあってはじめて、それに基づく「政令」で特別の定めを規定できるのではないか?
といった疑問がでてきます。
このうち、@については「大は小を兼ねる」ということで、例によらないことが許されるならば、例による場合の調整も許される、ということはできるでしょうか。
問題はAで、要するに本施行令は法律で許容されていない規定なのではないかということです。
これに基づくの「これ」は、地方税法○○条といった特定の条項ではなく、「地方税法」全体を指していると読むということでしょうか。
「どうやって」読み替えるかについては政令で規定するとして、その前提である「何を」読み替えるについては法律で規定しておくべきかと。
○
しばしば「税制改正大綱」と異なる規律が改正内容に盛り込まれることがあります。
今回も、大綱にはなかった「所得金額調整控除」についての読み替えが本施行令に盛り込まれています。
大綱はあくまでも政府・与党が作った案にすぎません。国会で成立した法律が正式バージョンなのであって、法律が大綱と異なること自体は何の問題もありません。
問題は、大綱にも法律にも規定のないものを、いきなり「政令」で盛り込むことが許されるのかどうかということです。
もちろん、公的年金等控除と規律をあわせるという「内容」自体は妥当なものだと思います。が、国会を経由していないものをいきなり政令に盛り込んでもよいのか、という「正統性」には疑問があります。
しかも、自分のところの法律(地方税法)ではなく、他所の法律(所得税法)の読み替えを、いきなり政令で行ってしまってもよいのかどうか。
そういう意味でもやはり、「何を」読み替えるのかまでは法律で規定しておくべきだと思います。
○
今回の改正により、2の計算過程に地方税法(施行令)オリジナルの要素が入り込むことになりました。
1 年金収入 所
2 年金所得 所+地令
3 総所得金額 地
4 所得控除 地
5 課税総所得金額 地
6 所得割額 地
1・2と3〜6で役割分担をしていた従前の姿が崩れたことになります。かなり大きな構造の変化だと思うのですが、そこまで大きな扱いになっているようには思えません。
確かに、「例による」の中での調整なので、枠組み自体はまだ維持されています。が、その中身はもはや独自の規定を設けているのとほとんど変わりません。単なる表向きの書き方の違いでしょう。
であればいっそのこと、すべて地方税法で自己完結できるようにしてしまえばいいのではないか、と思うのですが。
財務省と総務省の縄張りとか、そういうことは私には分かりませんが、「例による」の枠組みを維持すべきよんどころない事情でもあるのでしょうか。
○
より根本的な問題としては、そもそも地方自治体の税金について法律でびっちり書き込むことが「地方自治の本旨」にかなうのかどうか、という憲法レベルの問題があります。
そういった観点からすると、例によるを維持するか独自の規定を設けるかなんていうのは、あくまでも国の「法律」の中での小競り合いにすぎません。地方税法でどこまで規律し、地方税条例でどこまで独自の規定を設けるか、といった大きな問題からすれば些細なことかもしれません。
あるいは、ふるさと納税の指定取消しの問題など、よりシビアな問題が地方税法の世界には存在しています。
本記事で論じたことなどは、これらの問題に比べれば大して実害のない問題といえるでしょう。が、「納税者の予測可能性」を重視するならば、分かりやすい地方税法の実現というものも目指すべきことなのではないでしょうか。
2022年05月16日
例による×読替規定の鬼コンボ(その2) 〜地方税法の「合計所得金額」
posted by ウロ at 15:08| Comment(0)
| 地方税法
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