2022年09月26日

鹿田良美「判例から読み解く よくわかる相続税法」(有斐閣2022)

 相続税法の入門書風なタイトルに釣られて買ってしまいましたが、中身は全然違いました。
 や、もちろんこんな露骨な釣りタイトルに、いつまで経っても騙されるこちらが全面的に悪いのです。



鹿田良美「判例から読み解く よくわかる相続税法」(有斐閣2022)

 著者ご自身も「おわりに」で、「よくわかる相続税法になっていない」と自白されているのですが、これを「はじめに」ではなく「おわりに」に書くところが、なんとも。
 最初の「ガイダンス」では、相続税法全体の構造をコンパクトに分かりやすくまとめられているので、入門書としての期待感が高められてしまったのですが、それ以降はひたすら判決のご紹介のみ。

 あくまでも、私のような心の汚れた者による邪推にすぎませんが、最初数ページの「試し読み」で〈擬態入門書〉であることがバレることへの対策ではないか、と思わざるをえない。


 本書の特徴を一言でいうと、『判決文記載の事実の解きほぐし方が上手な本』だというのが私の評価。
 タイトルや最初のガイダンスから想起されるような『相続税法の入門書』などでは、およそない。

 通常の書籍で判決が引用される場合、規範部分は原文のまま引用されることが多いのですが、事実部分は簡単に要約されるか完全に省略されてしまうのがほとんど。
 そうすると、いざ判決原文を読もうとしても、規範部分はある程度読み慣れているものの、事実の読むのがしんどい、ということが起こりがちです。
 ですが、当該判決が判例としてどのような射程をもつかを検討するには、規範部分を読むだけでなく、事実を細かく分析しなければなりません。

 本書では、事実の説明に図表が多用されているなど、判決文の事実部分が理解しやすくなっています。そのため、自力で事実部分を読むにあたってのアプローチの仕方として、非常に参考になります。

 事実の解きほぐしをここまで丁寧にやっている本、あまり見かけないので、はじめからこの点を目的としてであれば、購入する価値はあると思います。
 特に実務家は、時間が限られていることを言い訳に、規範部分から逆算して判断の分かれ目になったと思われる事実だけをつまみ喰いしがち。ですが、判決文記載の事実をちゃんとひととおり読む、という訓練をやっておいたほうがよいです(自戒)。
 そのための補助線としてならば、本書はとても役に立つはず。

 なお、上記では「判決文記載の」事実という表現をしました。
 これは、裁判では当然のことながら「証拠」「事実認定」レベルでの争いもあるわけですが、その点は本書は正面から扱っていない、という意味合いでです。



 加藤新太郎「民事事実認定の技法」(弘文堂2022)


 ですが、ここから先、本書を「判例」本として読むとしたら、非常に物足りないと感じると思います。

 というのも、本書の判決へのアプローチを標語的にいうと、
  〈判決を判決として読む〉
にとどまり、
  〈判決を判例として読む〉
ということをしていないからです。

 たとえば、第4講と第4講補講では、農地を売買した場合、農地に関する
  売主の相続財産は、どの時点から農地→代金請求権となるのか
  買主の相続財産は、どの時点から引渡請求権→農地となるのか
についての判決が扱われています。

 で、それぞれの個別事案の帰結については、当然のことながら記述はされているのですが、
  ・他の事例で農地が問題となった場合、何をもって財産の変動があったことになるか
  ・農地ではなく一般の土地の場合はどのような事情により判断されることになるか
  ・土地以外だったらどうか。
などといった分析がなされていません。
 当該事案ではこう判断されました、というところまで。

 我々が過去の判決を読むのは、他人の揉め事を眺めたいといったゲスい根性から、などでは決してなく。今後同種の事案が生じた場合に、どのように判断がされる可能性があるかを予測するためです。
 ですが、本書は素材としての判決を詳細な事実分析とあわせてご提供してくれてはいるものの、それ以上の踏み込みがほとんどなされていない、という状態になってしまっています。

 一昔前によく見かけた、「ケースブック」という名の法科大学院教材の、判決搭載数をごっそり減らして詳細な事実分析をプラスしたバージョン、とでも形容すればイメージができるでしょうか。
 独学者にはとても使いこなせない例のアレ。本書も、適切な指導者のもと利用することが望まれているのでしょうか。

 はじめから内容に即したタイトルを冠してくれていれば、私も難癖をつけるようなことはしなかったはず。残念感ばかりが心に残る結果となってしまいました。


 かねてより、個別税法の教科書を待望しており、私の中では、所得税法・法人税法については、さしあたり「スタンダード」シリーズが鉄板となっています。そして、そこに新しく消費税法が加わるということで期待をしているところです。



 佐藤英明 スタンダード所得税法 第3版(弘文堂2022)
 渡辺徹也 スタンダード法人税法 第2版(弘文堂2019)
 佐藤英明・西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)

 本書が、相続税法の穴埋めとなってくれるかと期待して読んでみたものの、その結果は上記のとおり。

 や、重ねて言いますが、本書の内容をよく確かめもせず、相続税法の入門書だと勝手に期待して勝手に裏切られている私が悪いのです。
posted by ウロ at 09:40| Comment(0) | 租税法の教科書
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