2022年10月03日

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)

 消費税法、はじめの「学習書」としては、これ一択になるんじゃないですかね。



佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)

 が、手放しで評価するには躊躇するところがあり・・。



 佐藤英明 スタンダード所得税法 第3版(弘文堂2022)
 渡辺徹也 スタンダード法人税法 第2版(弘文堂2019)


 本書の構成は以下の通り。
 Chapter1・4が西山先生、Chapter2・3が佐藤先生という分担になっています。

 Chapter1 消費税法の基礎理論
 Chapter2 消費税法の基本構造
 Chapter3 国境を越える取引と消費税
 Chapter4 消費税法の個別問題

 佐藤先生執筆部分は、記述が、学習者へのわかり易さ全振りとなっていて、とても読みやすいです。
 抽象的な記述がでてきても、どういう意味だろうと思った瞬間に具体例が差し込まれるので、思考を止めずに読み続けることができます。

 それなりに知識・経験のある税理士が読んでも、知識・経験のスキマを言葉を尽くして埋めてくれるので、よりスピード感をもって読み進めることができます。

 また、条文の解きほぐしもやってくれているので、法人税法・所得税法に比べてサボりがちな消費税法の条文読みの助けにもなります。
 

 他方で、西山先生執筆部分、パッと見の印象でも文章固めだな、と感じるのですが、たびたびつっかえる(たぶんですけど、税法の専門家としてはこちらがスタンダードで、逆に佐藤先生がおかしい・・)。

 たとえば、インボイス導入すんの当然だろ、という文脈で書かれている次の記述(P226)。

 「電気通信利用役務の提供についてリバースチャージ方式で課税をする際に(p.172)、その電気通信利用役務の提供について、「事業者向けの役務提供」と「消費者向けの役務提供」に分けなければならないのに、役務提供先が事業者かどうか識別できる手段がない状況では、制度がうまく機能しません。そこで、消費税の納税義務のある事業者を識別するための手段として、適格請求書発行事業者登録制度を設け、これをもって課税事業者登録制度としたのです。」

 これ、意味とれますか?

 佐藤先生がきちんと書かれているとおり(P178)、現行法の「電気通信利用役務の提供」は、個別の役務提供先ごとに事業者向けかどうかを判定するのではなく、サービスの属性によって判定することになっています。ので、インボイス登録しているかどうかは「事業者向け」かどうかの判定とは関係ありません。このことはインボイス導入後も改正されることにはなっていません(今のところ)。

 インボイス導入により変更となるのは、サービスの属性により「消費者向け」と判定された場合に、提供元がインボイスを発行しなければならなくなるという点です(現登録制度がスライドする)。
 もし提供元がインボイスを発行してきたとしても、当該サービスの属性が事業者向け/消費者向けのいずれに該当するかは、提供先自身の責任において判断しなければなりません。

 仮に、「事業者向け」判定をインボイスと結びつけようとしても、日本法においては〈インボイス未登録者である課税事業者〉というカテゴリーも存在するため、この扱いをどうするかも検討しなければなりません。
 というか、インボイスって、「提供元」が登録してれば仕入税額控除できるという制度であって、「提供先」の属性判定のために使うようなものではないはずです。

 下記記事でも書きましたが、このような記述、日本法ではないどこかのリバースチャージ方式を想定して書いているのでしょうか。

引けない消費税 〜リバースチャージと控除対象外消費税

 それならそうとちゃんと明記すべきだし、そもそも、日本法の制度理解が不十分な状態な初学者に、ここではないどこかの制度を前提に話をすべきかは疑問です。
 本書のChapter3を真面目に読み込んでいる初学者ほど、混乱させられる罠。

 頭のいい学者先生がこういう感じなのだとしたら、我々野良税理士なんかが、正確に理解できるような代物ではないのでしょう。
 完全な邪推ですが、頭のいい人が庶民向けに分かりやすく書こうとすると、こういうバグが発生するのかもしれません。本人の中では当然正しく理解していることでも、レベルを落として説明する術をもっていないせいで、こういう記述になってしまうと(ここが、佐藤先生の記述がわかり易すぎて逆におかしい、という評価につながる)。

 インボイス絡みで「電気通信利用役務の提供」を持ち出すならば、インボイス導入ばかりが先走ってこれら既存の制度との整合性が検証されていない、といった点を指摘すべきではないでしょうか。


 以下、その他本書それ自体の、というよりも、本書を読んでいて思い浮かんだことを箇条書きで列挙しておきます。ただ、消費税法について実務を離れて真面目に考える、ということをしたのが、恥ずかしながら今回初めてなので、色々思い違いをしている点があるかと思います。

 なお、以下の指摘が西山先生執筆部分に偏っているのは、佐藤先生執筆部分が(良くも悪くも)学習者向けに消費税法の基本を丁寧に説明する、という入門書としてのラインを徹底しているせいで、褒めちぎるしかないのに対して、西山先生執筆部分は、そのラインを踏み越えた記述に及んでしまっているせいかと思います。


 クロスリファレンスが充実しているのに対して「事項索引」が貧弱なんですが、消費税法だけの入門書だとこんなもんですか?(類書を読んだことがないので分からないだけです)


 一般的な用語である「免税事業者」を使わずに、すべて「小規模事業者」という用語に置き換えて記述がされています。
 理論的に免税じゃないということと9条の見出しにそう書いてあるから、ということのようで。

 が、文字通りの小規模な事業者であっても、課税選択をすれば課税事業者になるわけで、消費税が課税されない事業者のことを指して「小規模事業者」と呼ぶのは違和感があります。一般用語っぽい言葉に、特定の法的意味をもたせるのがおかしいんでしょうね。

 そもそも『入門書』だというならば、一般的な用法に対する反逆は、(本書でいうと)「Next Step」で疑問を呈しておく程度にとどめておくことであって、本文を全面的に書き換えるようなものだとは思えません。条文本体で定義づけされた用語ではなく、ただの見出しだし。
 どうしても良心が許さないのならば、「私は疑問だが仕方なく一般用例に従っておく」とでも留保しておけばいいわけで。

 全くの余談ですが、『契約社員』という用語、常々気に食わないと思っています。
 一般的には「有期雇用」の労働者をさして使われるのですが、「無期雇用」だって雇用契約(労働契約)を締結しているわけで、なぜ有期雇用だけが契約社員と呼ばれるのか。
 といった疑問がありながらも、一般に倣って「契約社員」(心の中で有期雇用社員に変換)と言うことにしています。


 日本法の仕入税額控除の性質が「権利」なのか単なる「計算要素」なのかはっきりしない、権利だと性質決定すれば様々な帰結が導きだせる、的なことが書いてあるのですが、こういう性質論から演繹的に何某かの解釈を導くことって、スタンダードな解釈なんですか?

 下記記事などでも展開しているとおり、私自身は個別の条文を踏まえずに「趣旨」や「性質」から何某かの帰結を導こうとすることに対しては懐疑的です。

僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1

 が、私のような考えのほうが、マイナーなんでしょうね。


 「諸外国では〜」「EUでは〜」という記述、頻繁に出てくるのですが、初学者向けの書籍において必要なのかどうか。
 もちろん、知識として不要ということを言っているのではなく、限られた紙幅の中ではもっと日本法の記述を手厚くすべきなのでは、という趣旨の疑問です。


 当初、これ以下にもかなりのツッコミを書き連ねていたのですが、異常に長くなりすぎたので、一旦ここで区切って次週に続きます。書評に擬態して書くには、相応くない気がしますので。

【このあたりと同じノリ】
白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)
浅妻章如,酒井貴子「租税法」(日本評論社2020)

益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)
合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)
さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)
「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)
posted by ウロ at 09:42| Comment(0) | 租税法の教科書
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。