佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
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どうしても、消費税法の入門書に「諸外国は〜」を入れたいと言うならば、次のような形にしてみてはどうでしょうか。
1 消費に対する課税をするにはどのような課税モデルがありうるか、ゼロベースで制度構築をしてみる
2 それらモデルは、消費活動を歪ませないか、効率的に運用できるか(事業者、課税庁とも)を検討する
3 各国の制度はどの課税モデルに当てはまるか、あるいはどのくらい偏差があるかを検討する
こういった検討をしてみることで、「諸外国が」みんなインボイス推しだからといって、それが唯一の正解とは限らない、あくまでも一つのモデルだ、といったことが分かるのではないでしょうか。
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また、「消費税は預かりものなんだから納付して当然、益税絶許!」という主張も、本体・消費税を分断するモデルを採用した場合にそういえるだけであって。理念型の付加価値税からすれば、あくまでも利益の一部にすぎず、「法人税」などと特段大きな違いはないことになります。
というか、別税に見せかけているだけで、実態は法人税との「二重課税」のようにも思えます。
消費税は「間接税」であって負担者は消費者に決まってんじゃん、事業者に対する「直接税」である法人税と「二重課税」だとか、何を阿呆なことを言っているのか、と思うかもしれません。
が、生産者から消費者までの流れの中で、常に消費者だけが丸々税負担をしていると思っているのならば、それは大きな勘違いであって、必ずしもそうではない実態があります。
消費税のあらまし(令和4年6月)
第1 消費税はどんな仕組み? 1.基本的な仕組み P.1
上記の「■消費税の負担と納付の流れ」の図だと、生産者から消費者まで綺麗に税額転嫁が流れていく様が描かれています。あたかも、各段階の売上・仕入金額が事前に決まっていて、そこに消費税がそっと乗っかっているかのように。
が、消費者の立場で考えたときに、そのモノを買うのに100,000円以上は出したくないとして、別途10,000円のっかるのが消費税なら許す(が本体なら許さない)、などということにはなりませんよね。本体だろうが消費税だろうが、トータルいくら出せるかで考えるはずです。
トータルの支払額が大事、ということで、対消費者には「総額表示」が義務付けられていますし、極端な話「110,000円」と税額を明記しないことすら許容されているところです。
No.6902「総額表示」の義務付け
そうすると、小売業者としては、自社で税抜100,000円の売上(=30,000円の粗利)を確保したいと思っても、対消費者との値決めの問題で税込100,000円にせざるをえない、という事態が生じます。すなわち、本来消費者に負担させたい消費税相当額の一部を、小売業者が負担することになると。
販売価格決定のプロセスは、税抜で値決めをしてからおもむろに消費税をのっける、などというものではなく。消費税を含めた税込価格で決めることになります。
図式的にいえば、「税抜価格+消費税10%」という《外付け型》ではなく「税込価格うち10/110が消費税」という《内蔵型》で表現するほうが実態にあっています。
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反対の仕入側の取引については、これまでですと、自社が課税事業者であるかぎりは、仕入先が課税事業者かどうかを気にすることなく、価格決定をすることができていました。
ところが、インボイス導入によって、途中に未登録者が挟まると税額転嫁の流れが分断されてしまうことになりました。そして、値決めをするにあたっては、仕入先の属性に応じて場合分けをしなければなりません(卑近な例でいえば、同じ値段でコーヒー飲むならインボイスもらえるところで飲む、みたいな話)。
力関係によって本体価格へ及ぼす影響が大きくなるはずです。
このあたりが、「財務省、公正取引委員会、経済産業省、中小企業庁、国土交通省」といった錚々たる官庁が雁首揃えて「Q&A」を公表しておきながら、結局のところ「当事者同士でよく話し合って決めてね。」とぶん投げてしまっている、例の『価格交渉』の問題に繋がります。
免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A
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小売業者にとっての最悪なパターンを数値例で整理しておきます。
【理想】 税込売上11000 税込仕入7700(インボイス有)
→粗利3000(10000-7000)
消費税300(1000-700)
理想は、粗利3000を確保するために、消費者に消費税分をちゃんと転嫁できることです。
【最悪】 税込売上10000 税込仕入7700(インボイス無)
→粗利1390(9090-7700)
消費税910(910-0)
最悪のパターンは、仕入先がインボイス未登録な一方、消費者には消費税を転嫁できなかった場合です。
仕入先は未登録のくせに値下げしないのは何なんだ、と思うかもしれません。が、未登録でも課税事業者である場合もあるわけで、必ずしもお値段据え置きが不当ということにはなりません。また、そこからしか仕入れられないという関係性によって、受け入れざるをえない場合もあるでしょう。さらに、上述したとおり、独禁法等による圧力もありますし。
結果、粗利が53.6%(3000→1390)削られるという酷い結果に(本当に計算合ってます?)。
インボイス導入により、商流の中の一番の弱者に不利益が集中的に流れ込むことになります。当然に消費者が消費税を全て負担するなどというの、夢想にもほどがある(控除対象外消費税→損金で、トータルの税負担はいくらかは軽減されますが)。
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このように上流でも、税額転嫁できないこととなった痛みを誰が負担するか、という問題が生じることになります。
生産者から消費者まで商流が繋がっている現実のもとで、消費者だけが税負担をする課税モデルを構築したいのならば、少なくとも、インボイスの有無によって税額転嫁の流れを分断しようとする仕組みでは実現困難でしょう。それこそ、未登録者を事業取引の世界から排除するしかない(弱者を排除することで結果残った者たちが公平になるという、グロテスクな世界)。
と、消費から離れたところで事業者にしわ寄せが生じてくるとなると、事業者の事業活動に課税しているのと変わりないことになってきます。課税対象を所得とするのか、付加価値とするのか、それ以外の何かとするのか、活動成果の切り出し方の違いにすぎません。法人事業税付加価値割なんて、思いっきり付加価値に対する課税だし。
法人税にしても、力関係に応じて税負担を相手方に転嫁させることは可能です。制度の仕組みが税額転嫁を予定している/していない、などということは、現実に税額転嫁できるかどうかにとって決定的なものではありません。
強制力のある特別法をつくってはじめて、無理矢理にでも税額転嫁を機能させることができるにすぎません。
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念のため、私自身は「二重課税」それ自体が悪だとは捉えているわけではありません。
浅妻章如「ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか」(中央経済社2020)
また、上記では「インボイスが税額転嫁を分断している」と悪し様に表現しましたが、これは「消費税の最終負担者は消費者である」というお題目を前提としての評価にすぎません。
消費税法には消費に課税するとも消費者が税負担するとも一言も書いていないのだから、必ずしも消費者に税額転嫁させる必要はない、というならば、それはそれでひとつの立場でしょう。
であるならば、詐言を弄して実態とかけ離れた物言いをするのはやめて、現実の課税実態に正面から向き合いましょう、ということです。
次週へ続きます。
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)
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