2022年10月31日

二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)

 先週からの続き。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)

 インボイス導入後の消費税法、売上と仕入で二元的に理解するしかないのではないかと感じています。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)

 というのも、

・売上側は、実際に消費税分を転嫁できたかどうかにかかわらず、問答無用で「売上×10/110」分の消費税を掠め取られてしまう。
・仕入側は、課税事業者からの課税仕入であっても、インボイスがないかぎり税額控除できない。さらにインボイスがあっても、用途区分により控除額が制限される(特定収入とかは略)。

と売上側と仕入側とで全く別世界が展開されているようにみえるからです(積上・割戻といった枝葉の問題は省略)。

 「税額転嫁」というマジックワードで、あたかも商流を一本につなげているように見せかけています。が、実際のところ、売上側を向いたときと仕入側を向いたときとで、異なるルールが適用されることになっています。

 法人税における益金/損金だって、不算入にする場合は個別に規定されているのであって。ここまでド派手な違いではないと思います。

 インボイスがなければ税額控除できないので、理念型の付加価値税のように「課税売上−課税仕入=付加価値」と、ストレートに表現することはできません。
 同じ課税仕入なのにインボイスがなければ付加価値が減らない、などというのはどう考えても現実とあわない。形式の整ったインボイスでないかぎり、登録事業者からの課税仕入ですら控除できないですし。

 登録制度とインボイス制度とが抱き合わせで導入されることになっていますが、益税を撲滅するためであれば、登録制度単体だけでも十分足りたはずです(登録事業者からの課税仕入であれば、インボイスがなくても税額控除できることとする)。

 もはや、インボイス導入後の仕入税額控除は、付加価値という実態に課税するために控除しているのではなく。むしろ措置法上の税額控除制度のように、何某かの政策目的に協力したことによる恩恵として控除していただいているもの、と捉えたほうが落ち着きがよいかもしれません。
 少なくとも、この程度のものを「権利」だなどというのは、なにかの冗談としか思えません。インボイスがあれば引けるしなければ引けない、ただそれだけのことです。

 このことをあるがままに理解しようとするならば、

  ・売上側は売上に対する課税制度(売上税) 《激強》
  ・仕入側はインボイスによる税額控除制度  《激弱》

と、それぞれ別の理屈で作動している制度と捉えることになるかと。
 両者を連動させて累積を徹底排除しよう、という気概はもはやない。「疑わしきは課税者の利益に。」に政策転換したということでしょう。

 このような課税ベース拡大に偏った、アンバランスな制度に課税制度として合理性があるかといえば、私にはとてもあるとは思えません。が、現実にはこのような制度に仕上がっているわけです。
 賛成するにしても反対するにしても、正確に制度理解をするべきでしょう。少なくとも、財務省・課税庁による誤導的なイメージに何の疑いもなく倣うのは愚か。


 ところが、税理士執筆にかかるインボイス解説書ですら、「売上にかかる消費税は国の税金の預かり物」「益税はネコババ」などといった表現をしたものが見受けられます。
 税理士にもかかわらず、よく考えもせず当局のプロパガンダにノセられているとは、率直にいって虫酸が走る。

 税額転嫁できない事業者への対応として、従前のように国の負担で補填するか、それともインボイス導入によって当該事業者自身に負担させるか、といった政策決定の問題であって。免税事業者が本来貰えないはずのものを着服している、というのは決めつけの角度がきつすぎる。

 また、特別法は無くなってしまいましたが、今後も転嫁対策に国のリソースを費やすというのであれば、国・事業者のコストアップが、インボイス導入による税収アップを凌駕することにならないか。よくよく検証すべきかと思います。

 続きます。

合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)
posted by ウロ at 10:12| Comment(0) | 消費税法
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