2022年11月07日

合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)

 「二重課税」どころの話じゃないと思うんですよ。
(以下、慣用的に「二重課税」と表現しますが、2つ以上の税目を視野に入れています)

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)


 「二重課税」問題について、教科書レベルだと、せいぜい「法人税と所得税」に関する古色蒼然とした議論とか、あるいは「長崎年金二重課税訴訟」などの局所的な判決後追いな記述くらいしか展開されていないのがほとんど。

長崎年金二重課税訴訟の要件事実(と称するところのもの)

 各章ごとにつらつらと税目が陳列されているだけで、それら税目の中に(不当な)二重課税と評価されるものはないのか、より広い視点から検討したものが見当たらない。
 もちろん、学術論文レベルではちゃんとあるのかもしれません。が、学習段階で無造作に税目ラッシュを浴びせるのが適切な教育といえるのか、疑問ありです。


 ここでは「法人」に課税される主な税目を、何に対する課税かという視角から分類してみます(地方税は「割」で分解)。

ア 所得に課税するもの
 ・法人税
 ・地方法人税
 ・法人税割(法人住民税)
 ・所得割(法人事業税)
 ・特別法人事業税

 地方法人税、法人税割の課税標準は法人税額ですが、所得課税といってよいでしょう。
 というか、税金に税金をかけるって、よくよく考えると変ですよね。

イ 収入に課税するもの
 ・収入割(法人事業税)
 ・特別法人事業税

ウ 付加価値に課税するもの
 ・消費税(?)
 ・譲渡割、貨物割(地方消費税)(?)
 ・付加価値割(法人事業税)

 消費税(地方消費税)は「控除法」、付加価値割は「加算法」と計算方式は違いますが、付加価値に課税したいという目論見は同じでしょう。
 ただし、インボイス方式の消費税を付加価値税と呼んでよいかについては、前回までで論じたところです。私は、今回の整理でいうと、ウ(付加価値税)からイ(収入税)にはみ出していっているイメージを持っています。

エ 企業規模に課税するもの
 ・均等割(法人住民税)
 ・資本割(法人事業税)
 ・資産割(事業所税)
 ・従業者割(事業所税)

オ 取引規模に課税するもの
 ・印紙税

 おまけで印紙税も入れてみましたが、これもある種の「外形標準課税」ですよね。

 このような簡単な整理だけからでも、あらゆる視角から企業の事業活動を切り出して、あの手この手で課税しようとしている様が見て取れるかと思います。
 それぞれの税目は、それなりの正当化根拠をもって課税されているわけですが、すべてを合成してもなお、正当化できるようなものなのかどうか。

 ちなみに、「税効果会計」ではア(所得課税)が考慮対象となっており、その他は無視されます。これは会計基準側が中途半端というよりも、税法側が込み入りすぎで付き合いきれない、ということなんでしょう。


 また、これらの中でも、「損金算入」できるものとできないものとがあります。

【損金算入できるもの】
 事業税、特別法人事業税、事業所税、消費税・地方消費税(税込経理、控除対象外消費税)、印紙税

 そのせいで、「表面税率」のほかに「実効税率」なるものを計算しなければならないこととなっています。
 それはともかく、そもそも、なぜ税金の中に損金算入できるものとできないものがあるのか。

 特に、法人税と所得割のように、同じ分類に入っているにもかかわらず、そのような違いがある理由が不明です。
 事業者にとっては、どちらにしても事業コストとして計算するだけの話であって。もちろん、税率が同じなら損金算入のほうがうれしいわけですが、だったら、損金不算入で実効税率相当に税率を下げてもらうほうが、計算が簡単ですみます。
 しかも、事業税などは損金算入時期が「申告時」なので、所得等と税額が年度対応しません。「中間申告」のことも考慮するとさらに厄介。
 他方で、消費税等(税込経理)は、対応する年度に未払計上することも選択できるという謎仕様(一応、「期間税」ではないから、という理由付けが考えられますが、だとしたらなぜこちらが原則でないのか、という疑問が残ります。)

 おそらくですが、「事業税の本質は○○だ!」などといった性質決定が先にあって、それに従って取り扱いを決め打ちしてしまったのでしょう。ので、実際の課税方式と一致しないことになったと。
 この手の、実際の規定を脇において、立法趣旨や性質論から何某かの結論を導く手法については、本ブログにて再三警戒を呼びかけているところです。


 二重課税問題にかぎらず、こういった各種税目間の異同について、きちんと議論が展開されたものがないものか。

 租税法なんて、大多数の教科書が複数税目の寄り合い所帯なくせに、こういう税目間インターフェイスを正面から扱った記述がほとんどない。
 「総論」が総論として機能していない、というのは、どの法分野でも大して変わりがないのかもしれませんが。

【総論・各論問題】
井田良「講義刑法学・総論 第2版」(有斐閣2018)


 消費税法本体からだいぶ脱線してきましたが、そろそろまとめられるでしょうか。

さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)
posted by ウロ at 10:38| Comment(0) | 消費税法
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