2022年11月14日

さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)

 インボイス後の消費税、もはや事業者に対する「付加価値税」として位置づけることは無理なんでしょうね。
 では、名称どおり「消費」に対する課税といってもよいでしょうか。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)
合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)

 インボイス後に生じる以下の現象を通して考えてみます。

ア 免税事業者
 免税事業者(Aといいます)はインボイスを発行できないので、建前上、売上先から消費税をもらえないことになります。一方でAが課税仕入(インボイス有)をしても税額控除(還付)を受けることはできません。
 消費税をもらっていないことが明確であるにもかかわらず、消費税を負担しなければならないことについて、どのように説明ができるでしょうか。

イ 非登録である課税事業者
 インボイス登録をするかは任意となっています。そのため、《非登録である課税事業者》(Bといいます)というカテゴリーが存在することになります。
 Bは売上に対する消費税を納付しなければなりませんが、他方で、Bから課税仕入をした事業者(Cといいます)は税額控除を受けることができません。
 Bが消費税を国に納付しなければならないのに、Cがそれに対応する税額の控除を受けられないことは、どのように説明ができるでしょうか。


 これまでにも示唆したとおり、売上(転嫁する)側と仕入(転嫁される)側とで作動する理屈が違うと理解するしかないのではないかと思っています。

 例の「■消費税の負担と納付の流れ」の図のように、綺麗に税転嫁が流れていくというのは現実にそぐわない。

消費税のあらまし(令和4年6月)
 第1 消費税はどんな仕組み? 1.基本的な仕組み P.1

 イメージとしては、

  生産業者−製造業者−卸売業者−小売業者−消費者

という単線ではなく。

 ・転嫁する世界線(売上):  生産業者→製造業者→卸売業者→小売業者→消費者
 ・転嫁される世界線(仕入): 生産業者←製造業者←卸売業者←小売業者←消費者

と2つの別々のラインがあって、これが最終的に申告書上で重なるだけ、というのがしっくりきます(以下、便宜的に生産者側を「上流」、消費者側を「下流」といいますが貴賤の区別はありません)。


 まず、転嫁する世界線(売上)について。

 請求書に消費税を記載しなかったとしても、あるいは、経済的な意味で下流に税額を転嫁できなかったとしても、問答無用で売上×10/110(便宜的に地方税含む)の消費税をもらったことにされてしまいます。
 事業取引に参加して売上をあげた以上は、強制的に売上に課税されてしまうということです。

 自社で負担したくなければ下流に転嫁することになるわけですが、強制的に転嫁できるものでもありません。法人税などと同じで、税負担を考慮して価格設定を上増しできるか、という話です。
 あえて法人税との違いがあるとしたら、税目が「消費税」という名称なので、最終的に消費者負担となることに対して、法人税ほどの心理的抵抗が少ない、という程度でしょうか。お気持ちの問題。

 実際、条文の書きぶりも、事業者の「譲渡」に課税することになっていて。その先、消費者に転嫁することについて何某かの保証を消費税法が担保してくれているわけではありません。
 これが「源泉税」であれば、もともと受領者の所得に対する課税負担があり、それを支払者が先行して徴収している、と説明をすることができます。ところが、消費税については、消費者の消費に対する課税負担というものが消費税法に規定されていません。
 とすると、やはり事業者の譲渡に対する課税といわざるをえません。

 上記引用の「あらまし」(P.1)には、

[2]消費税の負担者
 消費税は、事業者に負担を求めるものではありません。税金分は事業者が販売する商品やサービスの価格に含まれて、次々と転嫁され、最終的に商品を消費し又はサービスの提供を受ける消費者が負担することとなります。


などと書かれていますが、常にそうだったらいいのにねレベルの与太話です。
 しかも、例の「Q&A」では、財務省は、他の官庁のご機嫌を伺ってかどうか知りませんが、他の官庁と一緒になって「(転嫁の連鎖に参加しない)免税事業者を不利益に扱うことが独禁法・下請法違反になりうる」などと脅しをかけているわけで。矛盾にもほどがある。

免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A

 このように、消費税は、事業者が事業取引の世界において売上をあげたことに対して課税するものであり、消費者が最終的に負担してくれるかどうかは企業努力次第、ということができると思います。

 そして、上記のBがインボイスを発行していないにもかかわらず消費税を納付しなければならないことについては、「事業で売上をあげたから、ただそれだけ。」という説明をすることになります。インボイス云々といった「転嫁される世界」の話は無関係なんだと。
 というか、インボイスを絡めた説明はおよそ不可能ですよね。


 では、A(免税事業者)が税額控除を受けられないことはどのように説明できるでしょうか。

 この点は、免税選択した(課税選択しなかった)ことにより、上記「転嫁する世界線」にも「転嫁される世界線」にも参加しないことを事業者自らが選択したから、という説明できるかと思います。
 免税制度というのは、税転嫁の連鎖に加わらないことを選択する制度なんだと。

 ちなみに、「簡易課税」の場合は、「転嫁する世界」に参加しつつ、「転嫁される世界」に《疑似》参加するものだということができるでしょう。

 一旦区切って、次回に続けます。

「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)
posted by ウロ at 10:55| Comment(0) | 消費税法
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