《インボイスをもって益税を割く》 〜消費税法の理論構造(種蒔き編9)
今回は、インボイス施行前のものを。例によって大胆に省略入れています。
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まずは定義規定。
第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう。
九 課税資産の譲渡等 資産の譲渡等のうち、第六条第一項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう。
十二 課税仕入れ 事業者が、事業として他の者から資産を譲り受けること(当該他の者が事業として当該資産を譲り渡したとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもの)をいう。
課税仕入については、売る側からみて課税資産の譲渡にあたることになるか、という視点から定義づけがされています。しかも、事業として譲渡したならば、という仮定を使っているので、消費者から買う場合なども課税仕入に該当することになります。
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第四条(課税の対象)
1 国内において事業者が行つた資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課する。
第六条(非課税)
国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第一に掲げるものには、消費税を課さない。
第五条(納税義務者)
1 事業者は、国内において行つた課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある。
譲渡に課税となっており、消費に課税とはなっていません。
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第二十八条(課税標準)
1 課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。以下この項及び第三項において同じ。)とする。
第二十九条(税率)
消費税の税率は、百分の七・八とする。
28条の読み方が肝になるところかと思います。数値で示すと
ア 課税資産の譲渡の対価の額 11,000円
イ 消費税額等に相当する額 1,000円
ウ 課税標準額 10,000円
エ 課税標準額に対する消費税額 780円
という感じで、まわりくどい計算になっています。
これはおそらく、課税額というのは「課税標準×税率」で算出するもの、という形式を維持するためではないでしょうか。アにいきなり「7.8/110」を掛けるのは、この形式に反するんだと。
なので、イもあくまで消費税額に「相当する額」であって、課税標準に税率を掛けた結果でてくる消費税額そのもの(エ)とは別物ということになります。
この、イが消費税そのものではないという理屈により、課税事業者が実際に請求書に消費税を明記するかどうかにかかわらず、課税売上をあげた以上は問答無用で消費税が課税されてしまう、という帰結を導くことができます。
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さて、本丸の仕入税額控除です。
第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この条及び第三十二条から第三十六条までにおいて同じ。)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる課税標準額に対する消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る支払対価の額に百十分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)、当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額(当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この章において同じ。)につき課された又は課されるべき消費税額(附帯税の額に相当する額を除く。次項において同じ。)の合計額を控除する。
ここでは対比のため、特定課税仕入と輸入仕入も省略せずに引用しておきました。
それぞれ、控除できる額は次の通りとなっています。
・国内課税仕入
課税仕入れに係る消費税額
(当該課税仕入れに係る支払対価の額に百十分の七・八を乗じて算出した金額)
・特定課税仕入
特定課税仕入れに係る消費税額
(当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額)
・輸入仕入
保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額
仕入側は、売上側とは違い、いきなり「7.8/110」を掛けることになっています。
これは、税額控除の場面では「課税標準×税率」ルールに従わなくてよい、ということなんでしょう。より一層、売上側の持ってまわった感が引き立ちます。
ではありますが、税込金額からスタートする、という意味では売上側・仕入側ともその発想は同じだと評価することができます。
課税仕入の定義で触れた通り、消費者から買った場合も(国内)課税仕入に含まれるので、それらも含めて「×7.8/110」した額を控除することになります
ちなみに、特定課税仕入のほうは「特定」の定義の中に「事業者向け」がビルトインされているので、仕入先が限定されていることになります。また、仕入本体に税相当額が含まれていない前提なので、「7.8/100」掛けることになっています。
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仕入税額控除を受けるための「帳簿」「請求書」についても触れておきます。厳密には「附則」の経過措置も引用すべきなんでしょうが、長くなるので本法のみです。
第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
7 第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(同項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が少額である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。
8 前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
一 課税仕入れ等の税額が課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
イ 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
ロ 課税仕入れを行つた年月日
ハ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容
ニ 第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額
9 第七項に規定する請求書等とは、次に掲げる書類をいう。
一 事業者に対し課税資産の譲渡等を行う他の事業者が、当該課税資産の譲渡等につき当該事業者に交付する請求書、納品書その他これらに類する書類で次に掲げる事項が記載されているもの
イ 書類の作成者の氏名又は名称
ロ 課税資産の譲渡等を行つた年月日(課税期間の範囲内で一定の期間内に行つた課税資産の譲渡等につきまとめて当該書類を作成する場合には、当該一定の期間)
ハ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
ニ 課税資産の譲渡等の対価の額(当該課税資産の譲渡等に係る消費税額及び地方消費税額に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。)
ホ 書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称
消費税額そのものを記載することは求められておらず、対価の額に「相当する額」を含めて書けとなっています。
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ついでに、「免税事業者」の扱いについて。
第九条(小規模事業者に係る納税義務の免除)
1 事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者については、第五条第一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する。
この規定によって、第5条の納税義務が免除されることになります。
では、税額控除だけ受けて「還付」を求めることができるかというと、30条の最初の括弧書きで免税事業者が除外されているので、還付も受けることができません。
このように、免税事業者については、ご丁寧に、プラス側・マイナス側それぞれで除外規定が設けられています。免税事業者だから消費税法上無視する、という感じの雑な規律の仕方にはなっていないということです。
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さて、これら規律がインボイス施行後はどのように変容されているか、次回確認していきます。
条文構造(インボイス後) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編11)
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