2022年12月26日

幻想消費税法 vs 条文消費税法 〜消費税法の理論構造(種蒔き編12)

 前々回・前回、条文を貼っ付けただけなので、一応整理をしておきます。

条文構造(インボイス前) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編10)
条文構造(インボイス後) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編11)


 私自身、消費税法は実務から入ったクチなので、最初のころは、

  仮受消費税−仮払消費税=納税額

という計算構造なのだと勝手に思っていました。
 そして、帳簿入力さえ正しく処理されていれば、申告書は数字飛ばすだけで完成できてしまうので、わざわざ条文を読む必要もありませんでした。

 「滅せよ益税!」を唱えている方々の脳内消費税法も、事業者は本体とは別にお国に代わって消費税をお預かりしている、というイメージを前提としているように思えます。

 が、条文に書かれていることとは全く違うわけで。


 ということで、条文の計算構造を抽出。
 「国内課税仕入」のみを想定して記述します。また、例外としての積上げ・割戻しの選択適用は考慮外とします。

 《インボイス前》
  ・売上税額
   税込金額から消費税額相当額を控除して課税標準を算出する
   課税標準に税率をかけて税額を算出する
  ・仕入税額
   税込金額から割り戻して算出する

 《インボイス後》
  ・売上税額
   税込金額から消費税額相当額を控除して課税標準を算出する
   課税標準に税率をかけて税額を算出する
  ・仕入税額
   インボイス記載の消費税額

 売上側は全く変更なしで、仕入側だけが変更されたということが分かりました。
 インボイス前は売上側・仕入側とで同種の計算方式だったものが、インボイス後は仕入側にだけ厳格な形式要件が課せられることになりました。

 売上側がそのままなのに、仕入側だけが限定されたせいで、「非登録である課税事業者は納税しなければならないが、同事業者から仕入れた課税事業者は控除できない」(控除なき納税)という事態が生じてしまったわけです。

 これをどのように正当化するかについて、条文を読んでも、そう書いてあるという以上のものは導きだすことはできませんでした。


 また、免税事業者が「益税」を得ているという風評に対しても、条文上は自分のところの譲渡に課税されないというだけで。お国のために預かった消費税をネコババしている、などということではないことが分かります。

 しかも、納税義務が免除されるとあわせて税額控除も受けられないことになっているわけで、一方的に利益だけを得ているとはかぎりません。
 むしろ、消費者と同様、消費税を負担する側にまわっているようにも思えます。


 条文の作りからすると、売上側の譲渡課税と仕入側の税額控除はそれぞれ別々の制度として機能しているようにみえます。免税事業者について、売上側・仕入側それぞれに除外規定があるのも(9条と30条)、制度して分かれていることが前提になっているからではないでしょうか。

 インボイス前はいずれも同種の計算方式によっていたことから、両制度が一体となって「付加価値」に課税している、と説明することも可能でした。
 ところが、インボイス後は、売上側は、インボイスとは全く無関係に、すべての課税取引に課税されたままです。他方で、仕入側は「もらった消費税と払った消費税は一致すべき!」というスローガンのもと、売上側からインボイスを貰わなければ控除ができないことになりました。
 売上側と仕入側とが別々に規定されているという隙を突かれた格好になります。

 法人税法における益金/損金であれば、ズラしたい場合は個別に算入・不算入ルールを設けるところです。が、消費税法の仕入税額控除については、課税仕入まるごとルールチェンジしてしまったわけです。「益金は発生主義、損金は現金主義」くらいのノリ。

 売上に課税する場面: 仕入側と一致しなくていい (控除なき課税はOK)
 仕入で控除する場面: 売上側と一致しなければならない! (課税なき控除は禁止!)

 「もらった消費税と払った消費税は一致すべき!」といいながら、課税拡大方向への片面適用で満足してしまうの、なぜなのか。
 もちろん、課税当局の立場からすれば、課税ベースが拡大することや課税処分がしやすくなる方向の改正を歓迎するのは当然の態度です。が、学者先生なり税理士までもが課税庁と一緒になって、なんの躊躇もなくインボイス導入に積極的でいられるのか、私にはどうにも理解が及びません。

 『インボイスがあれば電気通信利用役務における「事業者向け/消費者向け」の区別ができる!』とかいう例の主張、もしかしてですが、インボイスさえあればあらゆる場合で売上側と仕入側の消費税を一致させることができる、とでも思っているんですかね。
 もちろん、そういう制度を構想することはできるのかもしれません。が、少なくとも、日本の《片面適用型インボイス》とは似ても似つかない制度であることに違いはありません。


 ふと思ったのですが、「消費税はお国のための預かりモノ」という主張、条文の書きぶりとは反するが制定時の《立案者意思》がそうだった、とでもいうことなんですかね(歴史を辿るのは苦手なので、私自身は未確認です)。

アレオレ租税法 〜立案者意思は立法者意思か?

 そうではないとしても、これほど条文に反していることを堂々と主張されているんだから、それなりの根拠があるはずです。
 まさかタイトルの「消費」という二文字だけから、本体である条文を無視した解釈を導き出している、なんてことはないですよね。

電気通信利用役務の提供の構造1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編13)
posted by ウロ at 08:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 消費税法
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