条文構造(インボイス前) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編10)
条文構造(インボイス後) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編11)
幻想消費税法 vs 条文消費税法 〜消費税法の理論構造(種蒔き編12)
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国税庁のサイトに掲載されている情報、あるときは条文引き写しでさっぱり意味が取れなかったり、あるときは優しく噛み砕きすぎて書かれていないことに対する応用がきかなかったり、ちょうどいい塩梅の記述になかなか出くわさない。
国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係について(国税庁)
「電気通信利用役務の提供」についての説明は、後者の典型。
それ自体の内容はよく理解できるものの、では、消費税法にインボイスが組み込まれたらどうなるか、についての推測を働かせることができない。
そこらの《税務お役立ち記事》でも、国税庁発表の情報をベースにしているせいで、インボイスと電気通信利用役務の提供との関係のような、国税庁が触れていない情報を検討しているようなものが出てこない。
ということで、電気通信利用役務の提供の条文構造を確認してみます。今回はインボイス施行前のもの。
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まずは定義規定から。
第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。
八の二 特定資産の譲渡等 事業者向け電気通信利用役務の提供及び特定役務の提供をいう。
八の三 電気通信利用役務の提供 資産の譲渡等のうち、電気通信回線を介して行われる著作物の提供その他の電気通信回線を介して行われる役務の提供(電話、電信その他の通信設備を用いて他人の通信を媒介する役務の提供を除く。)であつて、他の資産の譲渡等の結果の通知その他の他の資産の譲渡等に付随して行われる役務の提供以外のものをいう。
八の四 事業者向け電気通信利用役務の提供 国外事業者が行う電気通信利用役務の提供のうち、当該電気通信利用役務の提供に係る役務の性質又は当該役務の提供に係る取引条件等から当該役務の提供を受ける者が通常事業者に限られるものをいう。
八の五 特定役務の提供 資産の譲渡等のうち、国外事業者が行う演劇その他の政令で定める役務の提供(電気通信利用役務の提供に該当するものを除く。)をいう。
九 課税資産の譲渡等 資産の譲渡等のうち、第六条第一項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう。
十二 課税仕入れ 事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(所得税法第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けること(当該他の者が事業として当該資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該役務の提供をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもので、第七条第一項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するもの及び第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるもの以外のものに限る。)をいう。
ここからわかることは、
・資産の譲渡等の中に、電気通信利用役務の提供と特定役務の提供が含まれている。
・電気通信利用役務の提供のうちの事業者向け電気通信利用役務の提供と、特定役務の提供が特定資産の譲渡等にあたる。
・いわゆる消費者向け電気通信利用役務の提供は定義としては存在しておらず、あくまでも事業者向け以外の電気通信利用役務の提供という位置づけ。
ということになります(以下、単に「消費者向け」「事業者向け」といったり、特定役務の提供を省略したりします。)。
資産の譲渡等
資産の譲渡・貸付
役務の提供
電気通信利用役務の提供
−事業者向け電気通信利用役務の提供 →特定資産の譲渡等
特定役務の提供 →特定資産の譲渡等
また、「課税仕入れ」は、「資産の譲渡等」を仕入れ側にひっくり返したものなので、この中に消費者向け・事業者向けいずれも含まれていることになります。
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次に、「課税の対象」「納税義務者」がどのように規定されているかというと。
第四条(課税の対象)
1 国内において事業者が行つた資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三項において同じ。)及び特定仕入れ(事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等をいう。以下この章において同じ。)には、この法律により、消費税を課する。
第五条(納税義務者)
事業者は、国内において行つた課税資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三十条第二項及び第三十二条を除き、以下同じ。)及び特定課税仕入れ(課税仕入れのうち特定仕入れに該当するものをいう。以下同じ。)につき、この法律により、消費税を納める義務がある。
・(課税)資産の譲渡等(特定資産の譲渡等除く)
・特定(課税)仕入(事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等)
「譲渡」に課税するか「仕入」に課税するかなんて、結局のところ、法律の中に書き込みさえすればどちらでもいけるということなんですよね。消費税法の《本質論》みたいなものは成り立ち得ない。
第1条が崇高な目的などを謳わずに、単なる"Object"だけを陳列しているのがここで効いてくる。
第一条(趣旨等)
1 この法律は、消費税について、課税の対象、納税義務者、税額の計算の方法、申告、納付及び還付の手続並びにその納税義務の適正な履行を確保するため必要な事項を定めるものとする。
「消費者向け」はどこにいったのかといえば、「資産の譲渡等」の中に含まれています。
同じ電気通信利用役務の提供でも、消費者向けは「譲渡」に対して、事業者向けは「仕入」に対してそれぞれ課税されていることになります。
あえて誤解されそうな言い方をするならば、「消費者向け電気通信利用役務の提供」は課税されるが「事業者向け電気通信利用役務の提供」は課税されない、ということです。
事業者向けのほうは、あくまでも「仕入」に課税されるのであって「譲渡(提供)」は課税対象となっていません。
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「消費者向け」「事業者向け」の電気通信利用役務の提供といったカテゴリを設けたことの理由の一つが、「内外判定」に関する専用ルールを設けることにあります。
第四条(課税の対象)
3 資産の譲渡等が国内において行われたかどうかの判定は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める場所が国内にあるかどうかにより行うものとする。ただし、第三号に掲げる場合において、同号に定める場所がないときは、当該資産の譲渡等は国内以外の地域で行われたものとする。
一 資産の譲渡又は貸付けである場合 当該譲渡又は貸付けが行われる時において当該資産が所在していた場所(当該資産が船舶、航空機、鉱業権、特許権、著作権、国債証券、株券その他の資産でその所在していた場所が明らかでないものとして政令で定めるものである場合には、政令で定める場所)
二 役務の提供である場合(次号に掲げる場合を除く。) 当該役務の提供が行われた場所(当該役務の提供が国際運輸、国際通信その他の役務の提供で当該役務の提供が行われた場所が明らかでないものとして政令で定めるものである場合には、政令で定める場所)
三 電気通信利用役務の提供である場合 当該電気通信利用役務の提供を受ける者の住所若しくは居所(現在まで引き続いて一年以上居住する場所をいう。)又は本店若しくは主たる事務所の所在地
4 特定仕入れが国内において行われたかどうかの判定は、当該特定仕入れを行つた事業者が、当該特定仕入れとして他の者から受けた役務の提供につき、前項第二号又は第三号に定める場所が国内にあるかどうかにより行うものとする。ただし、国外事業者が恒久的施設(所得税法第二条第一項第八号の四(定義)又は法人税法第二条第十二号の十九(定義)に規定する恒久的施設をいう。)で行う特定仕入れ(他の者から受けた事業者向け電気通信利用役務の提供に該当するものに限る。以下この項において同じ。)のうち、国内において行う資産の譲渡等に要するものは、国内で行われたものとし、事業者(国外事業者を除く。)が国外事業所等(所得税法第九十五条第四項第一号(外国税額控除)又は法人税法第六十九条第四項第一号(外国税額の控除)に規定する国外事業所等をいう。)で行う特定仕入れのうち、国内以外の地域において行う資産の譲渡等にのみ要するものは、国内以外の地域で行われたものとする。
消費者向けは3項3号により判定します。
事業者向けは、課税の対象が譲渡(提供)ではなく仕入のほうなので、3項3号は適用されずに4項により判定します。
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次に「課税標準」について。
第二十八条(課税標準)
1 課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。以下この項及び第三項において同じ。)とする。ただし、法人が資産を第四条第五項第二号に規定する役員に譲渡した場合において、その対価の額が当該譲渡の時における当該資産の価額に比し著しく低いときは、その価額に相当する金額をその対価の額とみなす。
2 特定課税仕入れに係る消費税の課税標準は、特定課税仕入れに係る支払対価の額(対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額をいう。)とする。
消費者向け:課税資産の譲渡等の対価の額(消費税額相当額を除く)
事業者向け:特定課税仕入れに係る支払対価の額
消費者向けの場合は、国外事業者が消費税額相当額をもらっているとみなして、通常の国内譲渡と同じ扱いとなります。
事業者向けの場合は、仕入側が納税する前提のため、対価の額には消費税額相当額は含まれていないことになっています。
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さて、「仕入税額控除」はどうなっているか。
第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この条及び第三十二条から第三十六条までにおいて同じ。)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる課税標準額に対する消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る支払対価の額に百十分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)、当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額(当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この章において同じ。)につき課された又は課されるべき消費税額(附帯税の額に相当する額を除く。次項において同じ。)の合計額を控除する。
6 第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額とは、課税仕入れの対価の額(対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、当該課税仕入れに係る資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該課税仕入れに係る役務を提供する事業者に課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額(これらの税額に係る附帯税の額に相当する額を除く。第九項第一号において同じ。)に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。)をいい、
第一項に規定する特定課税仕入れに係る支払対価の額とは、特定課税仕入れの対価の額(対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額をいう。)をいい、
ここは種蒔き編10でも見たところです。
6項では、第28条にも出てきた「特定課税仕入れに係る支払対価の額」の定義づけが再度でてきます。これは、売上側と仕入側とは別々の制度だという前提から、わざわざこちらでも規定されているのでしょう。
課税仕入から特定課税仕入だけが除かれていますので、消費者向けは課税仕入として、事業者向けは特定課税仕入として、仕入税額控除の計算をすることになります。
消費者向け:課税仕入れに係る支払対価の額 ×7,8/110
事業者向け:特定課税仕入れに係る支払対価の額 ×7.8/100
が、平成27年の改正附則により、次の「経過措置」が設けられています。
附則第三十八条(国外事業者から受けた電気通信利用役務の提供に係る税額控除に関する経過措置)
1 事業者が、新消費税法適用日以後に国内において行った課税仕入れのうち国外事業者(新消費税法第二条第一項第四号の二に規定する国外事業者をいう。以下附則第四十条までにおいて同じ。)から受けた電気通信利用役務の提供(同項第八号の三に規定する電気通信利用役務の提供をいい、同項第八号の四に規定する事業者向け電気通信利用役務の提供に該当するものを除く。以下この条及び次条において同じ。)に係るものについては、当分の間、新消費税法第三十条から第三十六条までの規定は、適用しない。ただし、当該国外事業者のうち登録国外事業者(次条第一項の規定により登録を受けた事業者をいう。以下附則第四十条までにおいて同じ。)に該当する者から受けた電気通信利用役務の提供については、この限りでない。
消費者向け:当分の間、仕入税額控除できない。ただし、登録国外事業者からの仕入なら仕入税額控除できる。
国外事業者が非登録の場合、国外事業者は日本国に納税する義務があるが(免税事業者除く)、同事業者から仕入れた側は税額控除ができないということになります。
一足先にインボイスを先取りしたようなものです。
附則第四十二条(特定課税仕入れに関する経過措置)
国内において特定課税仕入れを行う事業者の新消費税法適用日を含む課税期間以後の各課税期間(新消費税法第三十七条第一項の規定の適用を受ける課税期間を除く。)において、当該課税期間における課税売上割合(新消費税法第三十条第二項に規定する課税売上割合をいう。)が百分の九十五以上である場合には、当分の間、当該課税期間中に国内において行った特定課税仕入れはなかったものとして、新消費税法の規定を適用する。
事業者向け:課税売上割合95%以上なら、当分の間、特定課税仕入はなかったものとみなす。
事業者向けのほうは「特定課税仕入」がなかったものとみなすことにより、課税対象としての仕入(4条・5条)と控除対象としての仕入(30条)の両方が同時になかったことにされることになります。
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種蒔き編12で検討したとおり、インボイス施行により変容があったのは仕入税額控除の国内課税仕入のところだけでした。
そうすると、影響を受けるのは消費者向けだけで事業者向けは影響を受けていないはず、と推測することができます。
ということで、次回検討します。
電気通信利用役務の提供の構造2 〜消費税法の理論構造(種蒔き編14)
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