2023年01月09日

電気通信利用役務の提供の構造2 〜消費税法の理論構造(種蒔き編14)

 インボイス施行により、電気通信利用役務の提供の規律がどのように変容するか。

電気通信利用役務の提供の構造1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編13)

 以下、引用する条文がぐっと減ります。


 変わったのは、仕入税額控除のところだけです。

第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この条及び第三十二条から第三十六条までにおいて同じ。)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る適格請求書(第五十七条の四第一項に規定する適格請求書をいう。第九項において同じ。)又は適格簡易請求書(第五十七条の四第二項に規定する適格簡易請求書をいう。第九項において同じ。)の記載事項を基礎として計算した金額その他の政令で定めるところにより計算した金額をいう。以下この章において同じ。)、当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額(当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この章において同じ。)につき課された又は課されるべき消費税額(附帯税の額に相当する額を除く。次項において同じ。)の合計額を控除する。

6 第一項に規定する特定課税仕入れに係る支払対価の額とは、特定課税仕入れの対価の額(対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額をいう。)をいい


 まず、「事業者向け」については、何の影響も受けていません。
 課税される仕入(4条・5条)も控除される仕入(30条)も、インボイスの有無とは無関係に算出されることに変わりはありません。

 課税ベース拡大という下心からすれば、
  課税される仕入:問答無用で課税
  控除される仕入:インボイスがなければ控除不可
という規律もありえたはずです。
 課税は広く・控除は狭くのインボイス制度の元でならば、それぐらいのことをしてきてもおかしくない。4条・5条はそのままで30条だけ書き換えれば済む話ですし。

 それをしなかったのは、やはり、(事業者向けサービスを)国外事業者から仕入れた事業者が、同じ仕入につき納税はしなければならないのに控除はできない、などという事態を招くのはさすがに誤魔化しきれない、と思ったからなんでしょうか。

 売上:国外事業者の代わりにお前が納付しろよ
 仕入:インボイスをもらえなければ控除はさせないよ

 これが別主体になった途端、受け入れてしまうのが、インボイス推進派の皆さん。


 「消費者向け」のほうは、平成27年改正附則38条が無くなっていました(同42条のほうは存続)。

(消滅)附則第三十八条(国外事業者から受けた電気通信利用役務の提供に係る税額控除に関する経過措置)
1 事業者が、新消費税法適用日以後に国内において行った課税仕入れのうち国外事業者(新消費税法第二条第一項第四号の二に規定する国外事業者をいう。以下附則第四十条までにおいて同じ。)から受けた電気通信利用役務の提供(同項第八号の三に規定する電気通信利用役務の提供をいい、同項第八号の四に規定する事業者向け電気通信利用役務の提供に該当するものを除く。以下この条及び次条において同じ。)に係るものについては、当分の間、新消費税法第三十条から第三十六条までの規定は、適用しない。ただし、当該国外事業者のうち登録国外事業者(次条第一項の規定により登録を受けた事業者をいう。以下附則第四十条までにおいて同じ。)に該当する者から受けた電気通信利用役務の提供については、この限りでない。

(存続)附則第四十二条(特定課税仕入れに関する経過措置)
 国内において特定課税仕入れを行う事業者の新消費税法適用日を含む課税期間以後の各課税期間(新消費税法第三十七条第一項の規定の適用を受ける課税期間を除く。)において、当該課税期間における課税売上割合(新消費税法第三十条第二項に規定する課税売上割合をいう。)が百分の九十五以上である場合には、当分の間、当該課税期間中に国内において行った特定課税仕入れはなかったものとして、新消費税法の規定を適用する。


 「国内課税仕入」が旧附則38条と同じ規律になったため、そこに吸収されたかたちになります(施行前取引に関する経過措置はあります)。
 消費者向けの規律が消滅した、と思いきや、消費者向けはあくまでも「国内課税仕入」の一味なので、特別の規定がないかぎりは国内課税仕入の規律に従うことに戻ります。

 結果、消費者向けについては「内外判定」だけが特別の規律として残されたということになります。
 しかしまあ、同じ「当分の間」でありながら、一方は数年でお役目御免、他方はいつまで続くかわからない、と大きく分かれる結果に。


 「消費者向け」がインボイスに吸収されたことで気づく点がひとつ。

 確かに、国外事業者が納税義務者になる場合であれば、取りっ逸れのないように登録制度を設けようというのは理解できなくはないです。他方で、国内事業者に対してもわざわざ登録制度を設ける必要があったのかどうか。

 ・売上側から回収できるか分からないから、仕入側の控除を限定しておこう。
 ・売上側が納税してくれたら過大課税になってしまうけど、税収増えるからいいよね。

と、お国の側が皮算用するのは当然といえば当然です。が、それを専門家たちすら推進しようとする動機が理解不能です。

 非登録の国内事業者(課税事業者)は、同じく非登録の国外事業者と同じように、納税してくれるかどうか分からんアウトローとして位置づけられているということですよね。

 非登録の国外事業者(事業者向け):仕入側に納付させる(リバースチャージ)
 非登録の国外事業者(消費者向け):インボイスがないから控除できない
 非登録の国内事業者:インボイスがないから控除できない


 「登録国外事業者名簿」をみれば分かる通り、登録がたいして進んでいるようにも思えないのに、インボイスに吸収されたからといって、今後国外事業者の登録が進んでいくとも思えませんが。

国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係について(国税庁)
登録国外事業者名簿

 今後は「消費者向け」についても、仕入側が課税事業者であるかぎり「リバースチャージ」を適用する、とかなっていくんでしょうかね。
 まあ、登録しなけりゃ控除できないという規律自体が、《擬態リバースチャージ》として機能しているようにも思えますが。

偽装リバースチャージとしてのインボイス制度 〜消費税法の理論構造(種蒔き編15)
posted by ウロ at 08:00| Comment(0) | 消費税法
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