2023年01月16日

偽装リバースチャージとしてのインボイス制度 〜消費税法の理論構造(種蒔き編15)

 インボイス施行前後の「電気通信利用役務の提供」の条文構造について、整理をしておきます。

電気通信利用役務の提供の構造1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編13)
電気通信利用役務の提供の構造2 〜消費税法の理論構造(種蒔き編14)

《インボイス前》
 ・消費者向け
  売上側 課税標準 課税資産の譲渡等(消費税額相当額除く) ×7.8
  仕入側 税額控除 課税仕入(消費税額相当額含む) ×7.8/110
  仕入側 経過措置 控除なし。ただし登録国外事業者からの仕入なら控除あり。

 ・事業者向け
  仕入側 課税標準 特定課税仕入(消費税なし) ×7.8
  仕入側 税額控除 特定課税仕入(消費税なし) ×7.8/100
  仕入側 経過措置 課税売上割合95%以上なら特定課税仕入なし

《インボイス後》
 ・消費者向け
  売上側 課税標準 課税資産の譲渡等(消費税額相当額除く) ×7.8
  仕入側 税額控除 インボイス記載の消費税額

 ・事業者向け
  仕入側 課税標準 特定課税仕入(消費税なし) ×7.8
  仕入側 税額控除 特定課税仕入(消費税なし) ×7.8/100
  仕入側 経過措置 課税売上割合95%以上なら特定課税仕入なし

 便宜上、同じ形で並べてあります。が、「消費者向け」は売上側に適用されるルールと仕入側に適用されるルールがあるのに対し、「事業者向け」は全て仕入側に適用されるルールとなっています。

 インボイス施行前後で変わったところはというと、消費者向けの登録国外事業者制度がインボイス制度に吸収されたというだけで、実質は何も変わっていません。
 ガワだけをみて「吸収」と表現していますが、消費者向けの登録制度が先行スタートしていて、それに一般の国内課税仕入も追いついた、というほうが正確かもしれません。


 なぜ、事業者向けはインボイス制度に吸収せず、リバースチャージ方式を残したのでしょうか。

 リバースチャージ方式による場合に税収が増えるとしたら、「控除対象外消費税」が生じることによるおこぼれを狙うくらいしかない。
 に対して、《偽装リバースチャージ》としてのインボイス制度を適用してしまえば、「控除対象外消費税」によるおこぼれだけでなく、「インボイス漏れ」によるおこぼれも拾えたはずです。
 加えて、幸運にも国外事業者が素直に納付でもしてくれれば、さらなる税収アップも見込めるわけですし。

 リバースチャージ:
  どうせ国外事業者が納税しないなら、仕入側に(控除と同時に)納税させよう。
 インボイス:
  どうせ国外事業者が納税しないなら、仕入側の控除を否定しよう。

 事業者向けもインボイス制度に統合してしまえば、仕入に課税しつつ仕入税額を控除するなんて制度もなくなるし、輸入仕入も含めてインボイス記載の消費税額を控除する制度に一元化できるわけです。
 結果、売上側の譲渡課税と仕入側のインボイス控除とで、きれいに分断ができることになります(二元的消費税法の完成)。「電気通信利用役務の提供」に関する規律としては、「内外判定」の特別ルールが残るだけとなります。


 現状の「登録国外事業者登録制度」の登録状況から鑑みるに、真面目に登録する国外事業者なんてほとんどいないのではないでしょうか。そのような状況で「事業者向け」にもインボイスを導入してしまえば、「控除なき課税(損税)」が増えるじゃんラッキー、と思いきや。

 モノとは違って税関を通るわけではないので、現実的にみて、国外事業者に対する徴収可能性は極めて低いのでしょう。ので、国外事業者からの納税などは期待せずに、国内の仕入側に手間を負わせるにとどめたのかもしれません。

 他方で、消費者向けについては、さすがに消費者に手間を掛けさせるわけにはいかないからということで、頑張って国外事業者から徴収していくことにしたと(サービスの属性による区別なので、必ずしも「消費者」とはかぎりませんが)。


 消費者向けがインボイスに統合されたことで、国外事業者の登録が進むでしょうか。国外事業者にとっては何も状況は変わっていないわけで、とても進むとは思えません。

 非登録の「国内」事業者は、インボイスによって事業取引から追放されようとしているのに対して、非登録の「国外」事業者は、相変わらず安全地帯から取引が可能、ということにならないでしょうか。
 インボイス推進派の皆さんは、インボイス導入によって国内事業者を分断させておきながら、国外事業者に対する課税強化が図られない現状をどう思うのでしょうか。

 消費税法に「電気通信利用役務の提供」に関する規律を持ち込んだのは、内外の競争条件の平等化を図るためだったはずです。今般、内外ともインボイスで統一することにより、形式的にはルールは同じに揃いました。
 が、ルールを共通化することによって、内外の執行可能性とか捕捉率の違いというものが、正面から問題となってきます。内外でルールを揃えたことでかえって、消費税に関しては国内事業者が国外事業者と対等に争うことはできなくなります。

【インボイス前】
    ルール 運用
 国内:ゆるい 強い
 国外:厳しい 弱い

【インボイス後】
    ルール 運用
 国内:厳しい 強い
 国外:厳しい 弱い

 インボイス推進派の皆さんは、国内事業者間の分断を煽っている場合ではなく。国外事業者と戦うための条件整備を求めるべきだったのではないでしょうか。


 と、単に条文をコピペ陳列しただけで、ここまでの整理ができました。

 とすると、なおさら『インボイスさえあれば「消費者向け/事業者向け」が区別できる!』などいう、奇妙な主張が出てきた理由が理解不能です。

 インボイスが関わってくるのは、「消費者向け/事業者向け」の性質決定がされた後の、消費者向けのほうの仕入控除の段階ではじめて出てくるものです。
 インボイス施行前にしても、《先取りインボイス制度》としての登録国外事業者登録制度があったわけで、これをインボイスに置き換えれば容易に想像できたはずのものです。

 そこで、次回、どれだけ現実の消費税法をガン無視して妄想度を高めていけば、インボイスが「消費者向け/事業者向け」の区別に機能する制度を構想できるか、少し考えてみます。

空想消費税法 vs 条文消費税法 〜消費税法の理論構造(種蒔き編16)
posted by ウロ at 10:54| Comment(0) | 消費税法
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