2023年01月30日

空想消費税法 vs 条文消費税法 〜消費税法の理論構造(種蒔き編16)

 現実の消費税法をどこまでガン無視すれば、『インボイスさえあれば「消費者向け/事業者向け」を区別できる』(以下《向けテーゼ》といいます。)ようになるか、少し考えてみます。

偽装リバースチャージとしてのインボイス制度 〜消費税法の理論構造(種蒔き編15)

 念のため。あくまでも、どうすれば《向けテーゼ》をインボイス制度に組み込むことができるか、というただの思考実験にすぎません。立法論として本気で提唱しているわけではありません。


 インボイス制度を《事業取引参加許可証》のようなものとして設計してみたらどうでしょうか。
 単に、売上側がインボイスを発行できるようにするためだけの、ショボい制度ではなく。

 この制度のもとにおける消費税法の基本構造は、次の通りとなります。

A 売上側は、あいかわらず「問答無用の譲渡課税」のまま。
B 「非適格者」からの仕入は仕入税額控除できない。
C 仕入側が「非適格者」の場合も仕入税額控除できない。

 というように、仕入側が適格事業者であることも、仕入税額控除の要件として要求することとします(ここでいう「非適格者」というのは、インボイス非登録の事業者と消費者を含む造語です)。

 「消費者向け/事業者向け」はどこにいったのかというと、「仕入側が適格事業者かどうかで仕入税額控除の適否が決まる」というところです。

 ・仕入側が適格者(事業者向け) →仕入税額控除できる
 ・仕入側が非適格者(消費者向け) →仕入税額控除できない
 
 サービスの性質で区別するのではなく、仕入側が適格事業者かどうかで区別するんだと。こういう扱いにしてはじめて、《向けテーゼ》が機能することになるはずです。

 現実の制度では、売上側がインボイス登録しないと仕入側が損する、という《他罰的》な制度となっています。に対して、本制度では仕入側が登録しなければ仕入側自身が損する制度として機能させることにできます。

 リバースチャージについては、『課税したいが国外事業者から徴収するのしんどい。』という、執行実務上のご都合から出てくるものだと思うので、一旦脇におきます。
 

 結果、仕入税額控除ができるのは、「適格者→適格者」のパターンのみとなります。

   売上側  仕入側
 ア 適格者 →適格者  ○
 イ 適格者 →非適格者 ×
 ウ 非適格者→適格者  ×
 エ 非適格者→非適格者 ×

 現実の制度と大きくズレるのはイかと思います。売上側がインボイスを発行しても仕入側が非適格者なら仕入税額控除できないことになるので。
 非適格者は事業取引に参加する資格がない者として扱われるので、仕入税額控除の適用を受けることはできないとすることになります。

 なお「免税事業者」については、上記ルールのもとでは、仕入側が非適格者であれば仕入税額控除が全面否定となります。そのため、売上側の問答無用課税を9条で免除しておくだけで足り、仕入側は30条に免税事業者用の除外規定を設ける必要はないこととなります。
 仕入税額控除の上記ルール(適→適のみ控除可)を普通に適用すれば、免税事業者は勝手に排除されるということです。


 「リバースチャージ」については、
  ・売上側が適格者なら自分で納税させよう。
  ・仕入側が非適格者なのに納税義務を転換するのはかわいそう。
ということで、「ウ 非適格者→適格者」の場合に採用の余地があります。

 現実の制度では、サービスの性質から「消費者向け/事業者向け」を区別した上で、消費者向けは「登録者/非登録者」で扱いを変える、事業者向けはリバースチャージを適用する、と二段階で判断することになっています。に対して、ここでは、「適格者/非適格者」の組み合わせのみから判断することとしています。

 上記ルールでは、ウは仕入税額控除ができないこととしましたが、リバースチャージを採用するならば仕入税額控除もできることとしなければならないでしょう。現実の制度でも、「特定課税仕入」はインボイスの有無にかかわらず控除できることとなっているところですし。
 要するに、インボイスがあろうがなかろうが、徴収するなら控除もさせるべきということです。「控除なき課税」(損税)を積極的に産み出していくインボイスとは、コンセプトが全く異なります。


 以上、妄想を全面展開してみました。

 もちろんこんなもの、現実の消費税法の規律からはどうしようもなくかけ離れているわけです。が、インボイスを「消費者向け/事業者向け」を区別するものとして機能させるためには、これくらいぶっ飛ばないと無理なはずです。
 実際に、例の教科書が、ここまでのド妄想を抱きながら《向けテーゼ》を主張をされたとは思えません。が、その真意は、野良税理士にはとても想像の及ばない領域です。

 妄想とはいいつつも、今回のインボイス制度より先の、課税当局側の将来構想の中には、これほどまでに課税ベースが肥大化した姿があってもおかしくない、とは思っています。
 売上側で納税する消費税を仕入側が控除できなくても構わない、という制度を許容してしまった時点で、売上側は課税対象を広げつつ仕入側は控除対象を狭める、という方向に進めることに対する歯止めはなくなりました。
 インボイス前の制度は、あくまでも小規模事業者を保護するかぎりでの不一致(益税)を許容していたに過ぎません。ところが、インボイス後は、根拠不明の損税が正面から導入されてしまいました。

【なぜなのか?】
 ・仕入控除ルールの中の売上側と仕入側
  →一致していなければならない(控除できるのは納税したものだけ)
 ・売上課税ルールと仕入控除ルール
  →不一致でも構わない(控除できなくても課税してよい)

 ここは意地でも、それぞれのルールはいずれも一致していなければならない、という原則は維持しておくべきでした。
 こういった原理論的な主張は、本来学者先生の役割なはずなんですけど。例の教科書をはじめとして、そのあたりに対して、あまりに無頓着ではないかというのが私の所感。

 「益税滅ぶべし」「諸外国に倣うべし」というプロパガンダに惑わされて、大事なものを失ってしまったように思えて仕方がない。

益税・損税・二重課税1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編17)
posted by ウロ at 10:09| Comment(0) | 消費税法
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