2023年02月06日

益税・損税・二重課税1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編17)

 sin(サイン)、cos(コサイン)、tan(タンジェント)

て感じで声出ししてもらえれば幸いです。

 消費税法に関する一連の記事。都度都度考えながら作成しているので、揺れがあるような気がします。
 ということで、あらためて問題点を整理しておきます。

空想消費税法 vs 条文消費税法 〜消費税法の理論構造(種蒔き編16)


 まず、「益税」と言われているものについて。

【事例1】(インボイス前)
 A(免税事業者):
  Bに対して、本体80000に消費税名目で8000をのせて売った。
 B(課税事業者);
  消費者に対して、本体100000に消費税名目で10000をのせて売った。
 C(消費者):
  Bから110000で買った。


 Aは、免税事業者のため消費税を納付しません(以下、法人税は考慮外とします)。
 Bは、10000から8000を控除した2000を消費税として納付します。
 結果、消費者が負担したはずの消費税10000のうち8000が国に流れてこないことになります。

 この、Aが8000を納付しないことをもって、「益税」「Aは消費税を着服している」などとして批判の対象とされていたわけです。
 このかぎりでは、至極ごもっともな主張のように思えます。

 では、次のような事例ではどうでしょうか。

【事例2】(インボイス前)
 A(免税事業者):
  本来は税込88000で売りたかったが、Bがどうしても80000しか出せないというので、消費税額相当分を値引きして売った。
 B(課税事業者):
  消費者に対して、本体100000に消費税名目で10000をのせて売った。
 C(消費者):
  Bから110000で買った。


 Aは、免税事業者のため消費税を納付しません。
 Bは、10000から7272(80000×10/110)を控除した2728を消費税として納付します。
 結果、消費者が負担したはずの消費税10000のうち7272が国に流れてこないことになります。

 さて、この事例では一体誰が消費税を着服しているのでしょうか。
 【事例1】との比較でいうならば、Bが着服しているといえるのではないでしょうか。

 では、Aが「課税事業者」だったらどうなるでしょうか。
 まずは通常の事例から。

【事例3】(インボイス前)
 A(課税事業者):
  Bに対して、本体80000に消費税名目で8000をのせて売った。
 B(課税事業者):
  消費者に対して、本体100000に消費税名目で10000をのせて売った。
 C(消費者):
  Bから110000で買った。


 Aは8000を消費税として納税します。
 Bは10000から8000を控除した2000を消費税として納税します。
 結果、国には10000(8000+2000)が消費税として流れてくることになります。

 では、次の事例はどうでしょうか。 

【事例4】(インボイス前)
 A(課税事業者):
  本来は本体80000に消費税8000をのせて売りたかったが、Bがどうしても80000しか出せないというので、消費税分値引きして売った。
 B(課税事業者):
  消費者に対して、本体100000に消費税名目で10000をのせて売った。
 C(消費者):
  Bから110000で買った。


 Aは課税事業者のため、Bから消費税をもらったつもりはないのに、消費税相当額7272(80000×10/110)を納税しなければなりません。Aが消費税としてもらった(つもりか)どうかとは関わりなく、課税事業者が課税売上をあげた以上は問答無用で課税されることになります。
 Bは、10000から7272を控除した2728を消費税として納税します。

 結果、国には、消費者が負担した10000(7272+2728)が流れてくることになります。

 【事例3】と【事例4】の違いは、AとBとの利益状況が異なるという点にあります。他方で、国にとっては消費税10000を満額回収できているため、いずれでも構わないことになります。


 【事例1】と【事例2】との対比からいえることは、「益税」とはいっても当然に免税事業者だけが「益」を得ているとは限らないということです。
 消費者の負担した消費税10000が満額国に流れてこないのだとして。それを誰が着服しているかは、もっぱらABCの力関係によって変わってくるものです。

 また、【事例3】と【事例4】からすると、同じことは課税事業者同士であっても起こるということです。課税事業者間の取引だからといって、綺麗に消費税が転嫁されていくとは限りません。

 これらのことからすると、益税が不当だとして批判すべきなのは、【事例1】のAと【事例2】のBであって、【事例2】のAは何ら非難に値しないのではないでしょうか。

 さらにいえば、【事例1】のAにしても、Aの認識としては、88000が適正な本体価格であり免税事業者だから別途消費税はもらっていない、と考えていたかもしれません。消費税名目で8000をのせたというのも、Bの要請に従ってそのように表示させられただけかもしれません。

 仮にこれらの場面を規制したいのだとしても、
 ・免税事業者が消費税名目で請求する(あるいは請求させる)ことを禁止する
 ・免税事業者が消費税名目で請求したら(させたら)課税する(加算税的なものとして)
というルールを導入しておけば十分なはずです。

 ところが、実際には「インボイス制度」を導入するという遣り口によって、益税を滅することとなりました。


 ということで、インボイス後の帰結について、まずは通常の事例から。

【事例5】(インボイス後)
 A(非適格・免税事業者):
  Bに88000で売った。
 B(適格・課税事業者):
  Aから88000で仕入れて消費者に110000で売った。
 C(消費者):
  Bから110000で買った。


 Aは、免税事業者のため消費税を納付しません。
 Bは、消費者からもらった10000を消費税として納税します。Aが非適格なので控除はできません。
 結果、消費者の負担した消費税10000が、正しく国に流れてくることとなります。

 インボイス前はAが着服していた8000について、インボイス後はBに控除させないというかたちで国に流れてくることとしたわけです。
 国に10000流れてくることそれ自体はいいとして。その手段として、Aに8000を吐き出させるのではなく、Bの控除を否定するというかたちで実現するのが正当なのかどうか。

 なお、以下の事例も含めて、事例の中にBが「適格事業者」であることを記載していますが、B自身が「適格事業者」であることは全く何の影響もありません。

 次は値引き事例です。

【事例6】(インボイス後)
 A(非適格・免税事業者):
  本来は88000で売りたかったが、Bから値引きを要請されて80000で売ることになった。
 B(適格・課税事業者):
  Aから80000で仕入れて消費者に110000で売った。
 C(消費者):
  Bから110000で買った。


 Aは、免税事業者のため消費税を納付しません。
 Bは、消費者からもらった10000を消費税として納税します。Aが非適格なので控除はできません。
 結果、消費者の負担した消費税10000が、正しく国に流れてくることとなります。

 Bとしては自社の利益を確保しなければならないため、Aに消費税相当額の値下げを要求することになります。
 お国のほうでは「当事者でよく話し合って決めてね」などと言っていますが、現実的には【事例6】のように値下げとなるのがほとんどではないでしょうか。


 【事例5】と【事例6】とを比べると、いずれも消費者の負担した消費税10000を、国が満額回収できていることになっています。このかぎりではいかにも正当な制度のように思えます。

 が、国が税収を確保したことのしわ寄せとして、ABが完全なゼロサムゲームに突入させられることになっています。国が負担しなくなった部分につき、AとBとのいずれが負担するかの争いが始まったということです。
 さらにいえば、消費者をも巻き込んだ三つ巴ということになるでしょう。

 長くなったので、次回「損税」の話から続けます。

益税・損税・二重課税2 〜消費税法の理論構造(種蒔き編18)
posted by ウロ at 10:10| Comment(0) | 消費税法
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