益税・損税・二重課税1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編17)
益税・損税・二重課税2 〜消費税法の理論構造(種蒔き編18)
が、「免税事業者」のパターンでも、損税・二重課税が生じることになります。
○
前回からの続きということで、【事例9】からスタートさせます。
前回は単純化のため省略した、Aの上流に位置するDを登場させます。
以下、価格は税込で表示します。
【事例9】(インボイス前)
D(課税事業者):
Aに66000で売った。
A(課税事業者):
Dから66000で仕入れてBに88000で売った。
B(課税事業者):
Aから88000で仕入れて消費者に110000で売った。
C(消費者):
Bから110000で買った。
Dは課税事業者なので6000を消費税として納税します。
Aは課税事業者なので2000(8000-6000)を消費税として納税します。
Bは課税事業者なので2000(10000-8000)を消費税として納税します。
結果、消費者の負担した消費税10000(6000+2000+2000)が国に流れてくることとなります。
では、免税事業者が間に挟まるとどうなるか。
【事例10】(インボイス前)
D(課税事業者):
Aに66000で売った。
A(免税事業者):
Dから66000で仕入れてBに88000で売った。
B(課税事業者):
Aから88000で仕入れて消費者に110000で売った。
C(消費者):
Bから110000で買った。
Dは課税事業者なので6000を消費税として納税します。
Aは免税事業者なので消費税を納税しません。
Bは課税事業者なので2000(10000-8000)を消費税として納税します。
結果、消費者の負担した消費税10000のうち、8000(6000+2000)しか国に流れてこないこととなります。
この現象が不当だとして、インボイス制度が導入されることとなったわけです。
○
では、インボイス後はどうなるか。
【事例11】(インボイス後)
D(適格・課税事業者):
Aに66000で売った。
A(適格・課税事業者):
Dから66000で仕入れてBに88000で売った。
B(適格・課税事業者):
Aから88000で仕入れて消費者に110000で売った。
C(消費者):
Bから110000で買った。
Dは課税事業者なので6000を消費税として納税します。
Aは課税事業者なので2000(8000-6000)を消費税として納税します。
Bは課税事業者なので2000(10000-8000)を消費税として納税します。
結果、消費者の負担した消費税10000(6000+2000+2000)が国に流れてくることとなります。
全員が適格・課税事業者であるかぎりは、【事例9】と結論は変わりません。
では、免税事業者が間に挟まるとどうなるか。
【事例12】(インボイス後)
D(適格・課税事業者):
Aに66000で売った。
A(非適格・免税事業者):
Dから66000で仕入れてBに88000で売った。
B(適格・課税事業者):
Aから88000で仕入れて消費者に110000で売った。
C(消費者):
Bから110000で買った。
Dは課税事業者なので6000を消費税として納税します。
Aは免税事業者なので消費税を納税しません。
Bは課税事業者なので10000(10000-0)を消費税として納税します。Bが非適格なので仕入税額控除はできません。
結果、消費者の負担した消費税10000に加えて6000が国に流れてくることとなります。
免税事業者が間に挟まることで、なぜか消費者の負担した消費税以上の金額が課税されることになります。
○
では、Bが自社の利益を確保するためにAに値下げを要請してきた場合はどうなるでしょうか。
【事例13】(インボイス後)
D(適格・課税事業者):
Aに66000で売った。
A(非適格・免税事業者):
Dから66000で仕入れてBに80000で売った。
B(適格・課税事業者):
Aから80000で仕入れて消費者に110000で売った。
C(消費者):
Bから110000で買った。
Dは課税事業者なので6000を消費税として納税します。仮にAが値下げを要請してきたとしても、自社の利益を確保する必要があるため、応じるわけにはいきません。
Aは免税事業者なので消費税を納税しません。
Bは課税事業者なので10000(10000-0)を消費税として納税します。Bが非適格なので仕入税額控除はできません。
結果、消費者の負担した消費税10000に加えて6000が国に流れてくることとなります。
国の利益は【事例12】と同じですが、大きく異なるのがABDの利益状況です。
【事例10】
D 60000(66000-6000)
A 22000(88000-66000)
B 20000(110000-88000-2000)
消費税 8000(6000+2000)
Aの2000が不当な「益税」だとして、インボイスを導入することで国に流れてくるようにしたわけです。
【事例12】
D 60000(66000-6000)
A 22000(88000-66000)
B 12000(110000-88000-10000)
消費税 16000(6000+10000)
ところが、【事例12】にそのままインボイスを導入すると、Aの利益はそのままでBが大損し、なぜか国が不当な利益を得る結果となりました。
【事例13】
D 60000(66000-6000)
A 14000(80000-66000)
B 20000(110000-80000-10000)
消費税 16000(6000+10000)
そこでBが値下げを要請すると、Bは【事例10】と同じ利益状況まで回復することができました。が、今度はAが壊滅的なダメージを受けることに。
○
一体これらの事例で何が起こっているのかというと。
国が不当に利得している6000につき、ABDのうちの誰がババを引くか押し付けあっている、ということです。益税とされた2000まではいいとして、さらに6000を誰かが負担しなければならなくなっています。
事業者である以上、自社の利益の最大化を図るのは当然のことであって。BなりDの行動は、そう批判できるものでもない。
消費者の負担した消費税以上の金額を徴収しておきながら、よくもまあ「あとは当事者間でよく話し合ってね。」なんて言えたものですよね。まずはその不当に利得した6000を民間に返しなさいよ、と思います。
インボイス前の免税事業者の益税をあれだけ悪し様に罵っておきながら、インボイス後は自分がのうのうと益税(=納税者側からみた損税)を貪るという、悪魔の所業。
○
このように、消費者の負担した消費税以上の金額が課税されることについて、インボイス推進派の方々はどのように説明していただけるのでしょうか。
消費者が負担した消費税がきちんと国に流れていくように、という趣旨でインボイスを導入しておきながら。実際には、消費者の購入活動のみならず、免税事業者や非適格である課税事業者の購入活動にまで税負担が発生する結果となっています。
免税事業者を事業取引から徹底的に排除し尽くすまでの過渡期なんだから、まあどんまい、とでもいうつもりでしょうか。
○
私には、「憲法論」のレベルで問題視すべきもののように思うのですが。
残念ながら、この手のお国の政策の根幹にかかわる事項に関して、裁判所が国民に対するウケ狙いで積極的な判断をすることは望めない、というのが現状かと思います。
組織再編税制における適格要件については「趣旨解釈」とやらで限定解釈をかましたわけですが。
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
だとしたら、ここでも消費者の負担以上の税負担が生じていることに対して「消費税法の趣旨に反する」とかいって限定解釈できるはずでしょう。が、お国が不当にネコババしているのは間違いないものの、ABDのうち一体誰の財産権がどれだけ侵害されているのか、特定できなかったりします。この、誰も訴えようがない、という状態を逆手にとってあえてこのような座組みを仕組んでいたのだとしたら、とても恐ろしい。
予定は予定 〜消費税法の理論構造(種蒔き編20)
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