予定は予定 〜消費税法の理論構造(種蒔き編20)
《消費税法に書かれていること》
1 どのような場合に税が発生するか →事業で資産を譲渡したら
2 誰が納税する義務があるか →譲渡した事業者
3 誰が税負担をするか →???
この視点を意識しながらインボイス制度を記述してみると、かなり異常な制度ではないかと思わされます。
Dの上流にEを配置した事例で検討してみます。
【事例16】(インボイス後)
E(非適格・課税事業者):
Dに44000で売った。
D(非適格・課税事業者):
Eから44000で仕入れてAに66000で売った。
A(非適格・免税事業者):
Dから66000で仕入れてBに88000で売った。
B(適格・課税事業者):
Aから88000で仕入れて消費者に110000で売った。
C(消費者):
Bから110000で買った。
Eは課税事業者なので4000を消費税として納税します。
Dは課税事業者なので6000を消費税として納税します。Eが非適格なので仕入税額控除はできません。
Aは免税事業者なので消費税を納税しません。
Bは課税事業者なので10000(10000-0)を消費税として納税します。Bが非適格なので仕入税額控除はできません。
結果、消費者の負担した消費税10000に加えて4000+6000が国に流れてくることとなります。
非適格である課税事業者や免税事業者が流通過程に闖入することで、なぜか消費者の負担した消費税以上の金額が発生することになります。
○
では、この事例でどのような場合に税が発生しているといえるでしょうか(1)。
誰が納税するか(2)、誰が税負担するか(3)といった視点を除外して、どのような場合に税が発生するかだけを見てみると、つぎのように整理することができます。
課税事業者が
ア 消費者に売ったら(B→C) 10000
イ 免税事業者に売ったら(D→A) 6000
ウ 非適格である課税事業者に売ったら(E→D) 4000
消費税が発生する。
言うまでもないことですが、アが本来消費税法が課税しようとした(とお国の側が自称している)税です。問題はイウといった税までもが発生してしまっていることです。
アについては消費者に転嫁することが「予定されている」と言えたとして、残りのイウは誰がどのように負担することが「予定されている」ものなのでしょうか。いわゆる《転嫁対策》にしても、アが事業者間で綺麗に流れるようにするところまでは正当なものだとして、イウについてまで適切な税転嫁というものが想定できるのでしょうか。
○
念のため、同様の事例でインボイス「前」だとどうなるか、検討しておきましょう。
【事例17】(インボイス前)
E(課税事業者):
Dに44000で売った。
D(課税事業者):
Eから44000で仕入れてAに66000で売った。
A(免税事業者):
Dから66000で仕入れてBに88000で売った。
B(課税事業者):
Aから88000で仕入れて消費者に110000で売った。
C(消費者):
Bから110000で買った。
Eは課税事業者なので4000を消費税として納税します。
Dは課税事業者なので2000(6000-4000)を消費税として納税します。
Aは免税事業者なので消費税を納税しません。
Bは課税事業者なので2000(10000-8000)を消費税として納税します。Bが非適格なので仕入税額控除はできません。
結果、8000(2000+2000+4000)が国に流れてくることとなります。
どのような場合に税が発生しているか(1)を整理すると、次の通りとなります。
課税事業者が
ア 消費者に売ったら(B→C) 10000
イ 免税事業者に売ったら(D→A) 6000
エ 免税事業者から買ったら(A→B) △8000
消費税が発生する。
インボイス後のウに対応するものがなく、エのマイナスが登場します。
インボイス推進派の皆さんは、エだけに着目して「益税絶許!」と叫んでいたわけです。が、インボイス前でもイがあることにより、国の「税収ロス」は△8000ではなく△2000で済んでいたことになります。
○
「消費税回収率」というのをどうやって測定するのかよく分かりませんが、【事例16】のような結果が積み重なれば、下手すると100%を超えることになるのではないでしょうか。単純にいえば、【事例16】で全額回収できた場合の回収率は200%ですよ。
そんな心配するまでもなく、非適格の(課税・免税)事業者なんてもの、速やかに殲滅されるということですか。
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