2023年02月27日

予定は予定 〜消費税法の理論構造(種蒔き編20)

 そもそもですが、消費者だけが消費税を負担している、などというのは極めて非現実的な想定です。

錬金術型消費課税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編19)

 前回までの事例では単純化のために、たとえばBであれば、本体100000に消費税10000をそっと乗っけて消費者に販売していることとしました。
 が、もしかしたらBは本当は税抜110000(税込121000)で売りたかったが、消費者に値下げを要請されて税込110000で売らざるをえなかったのかもしれません。そして、これによって生じた損失を最終的に誰が負担させられるかはABDの力関係によって決まってきます。

 【事例13】は、さらなる追い打ちとして、免税事業者の購入活動に対する税負担(6000)を誰が負担するかが問題となっていたわけです。


 消費税における税転嫁についての標準的な説明として、たとえば以下のようなものがあります。

消費税の転嫁対策について(財務省)
『消費税は、価格への転嫁を通じて、最終的には消費者が負担することが予定されている税です。』

 どういうわけか分からないのですが、ここで「予定されている」という表現がでてきます。

 消費税法上、消費者が税負担をすることが書かれているならば「規定されている」と表現するところです。が、実際にはどこにもそのような規定はないので、そのように記述することができません。

 では、「予定されている」とは、法的にどういう意味なのでしょうか。
 ごくごく単純な事例で検討してみます。

【事例14】(インボイス前)
 B(課税事業者):
  消費者に110000で売った。
 C(消費者):
  Bから110000で買った。


 消費税法が規定しているのは、「Bが事業で資産を譲渡したら対価の×10/110をBが納付する義務がある」というだけです(以下、税率10%の地方税込みで表現します)。

《消費税法に書かれていること》
・どのような場合に税が発生するか →事業で資産を譲渡したら
・誰が納税する義務があるか →譲渡した事業者が
・誰が税負担をするか →???

 誰が税負担をするかについて、消費税法は沈黙しています。
 素直に理解すれば、納付義務者である譲渡者が負担するもののように思えます。が、「間接税だから」という何ら法的根拠のない理屈を持ち出して、どうしても消費者が負担していると言いたいみたい。

 では、他の税目だとどうかといえば、分かりやすそうな「贈与事例」で検討してみましょう。

【事例15】
 B(贈与者):
  Cに11000贈与した。 
 C(受贈者):
  Bから11000受贈した。


 この場合、もらった側のCが贈与税を納税するわけですが、では当然にCが税負担しているかといえば、必ずしもそうとはかぎりません。
 贈与税納税後の手取額から逆算して、いくらかを乗っけて贈与額を決めているかもしれません。この場合は、経済的には贈与者たるBが贈与税を負担しているといえるはずです。

《相続税法に書かれていること》
・どのような場合に税が発生するか →贈与で財産を取得したら
・誰が納税する義務があるか →財産を取得した個人
・誰が税負担をするか →???

 このように、少なくとも当事者の意思に基づく行為において、誰が最終的な税負担をするかについて、税法の側で決定することは不可能ではないかと思います。
 税法が決められることは、誰が納税するかまでであって、その先誰が税負担をするかは当事者の力関係次第となるのでしょう。


 ちなみに、《税目タイトル》だけでいうと、
 ・贈与税 贈与に課税する
 ・消費税 消費に課税する
もののように思えます。が、納税義務者は
 ・贈与税 受贈者が納税(贈与者でなく)
 ・消費税 販売者が納税(消費者でなく)
と、税目タイトルとは違う人が納税することになっています。
 そして、誰が税負担するかは当事者の力関係次第で決まります。

 このことがおかしい、ということを言いたいわけでなく。税目タイトルだけからは、何事か意味のあることを導くことはできない、ということです。消費税と名乗っているんだから、当然に消費者が負担することになっているんだろう、などと思うのは、ただの気のせいです。
 そして上述のとおり、何に課税されているか、誰が納税するか、誰が税負担するか、はそれぞれ別問題として区別する必要があるということです。


 以上、「予定されている」などとお澄まし顔でのたまわっているものの、せいぜいが「消費者に転嫁してほしいな」という願望の表明にすぎないのでしょう。しかもその願望は、何ら法の裏付けもない、誰かが勝手に抱いているものにすぎません。

 お国の政策として「転嫁対策」が実施されたものの、あくまでも事業者間取引どまりです。最後、小売業者から消費者への転嫁についてはどんな対策が取られたというのでしょうか。
 もしかしてですが、ひたすら「予定されている」と唱え続けることで、消費者も自分たちが負担しなければならないと信じ込んでくれるはず、という作戦でしょうか。
 
 しかしまあ、法律に規定されてもいない、誰かの勝手な願望に基づいて法制度を運用しようとする所作、私にはホラーだと感じるのですが。

無限課税変 〜消費税法の理論構造(種蒔き編21)
posted by ウロ at 10:45| Comment(0) | 消費税法
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