2023年02月13日

益税・損税・二重課税2 〜消費税法の理論構造(種蒔き編18)

 前回はインボイス前後の「益税」の中身について検討しました。

益税・損税・二重課税1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編17)

 今回は「損税」の話。インボイス制度最大の問題点です。

 ゼロサムゲームまでなら受け入れざるをえないとして。それ以上の侵食がなされているのではないかということです。

【事例7】(インボイス後)
 A(非適格・課税事業者):
  Bに88000で売った。
 B(適格・課税事業者):
  Aから88000で仕入れて消費者に110000で売った。
 C(消費者):
  Bから110000で買った。


 Aは、課税事業者のため8000を消費税として納税します。非適格であっても、課税事業者であるかぎりは問答無用で課税されます。
 Bは、消費者からもらった10000を消費税として納税します。Aが非適格なので控除はできません。
 結果、消費者の負担した消費税10000に加えて、なぜか8000も国に流れてくることとなります。

 現代の《錬金術型税制》ですね。

 Bの利益状況は【事例5】同様です。そのため、次の通り【事例6】と同様の値下げ要求をすることになるのが現実的でしょう。

【事例8】(インボイス後)
 A(非適格・課税事業者):
  本来は88000で売りたかったが、Bから値引きを要請されて80000で売ることになった。
 B(適格・課税事業者):
  Aから80000で仕入れて消費者に110000で売った。
 C(消費者):
  Bから110000で買った。


 Aは、課税事業者のため7272(80000×10/110)を消費税として納付します。消費税はもらっていない、という言い訳は通用しません。
 Bは、消費者からもらった10000を消費税として納税します。Aが非適格なので控除はできません。
 結果、消費者の負担した消費税10000に加えて、なぜか7272も国に流れてくることとなります。

 【事例7】と【事例8】との大きな違いは、AB間の利益状況です。

【事例7】
 A 80000(88000-8000)
 B 12000(110000-10000-88000)
 消費税 18000(10000+8000)

【事例8】
 A 72728(80000-7272)
 B 20000(110000-10000-80000)
 消費税 17272(10000+7272)

 トータル110000は同じですが、【事例8】ではAへの分配がごっそり減っています。
 数値例の都合上、Aのほうが数字が大きくなっていますが、比率で考えてみてください。

 益税と同様、損税も誰が損をするかはABCの力関係次第で決まるということです。それにしても、【事例8】のAはかなり利益を削られることになっています。

 このような帰結となるAがかわいそう、というのは当然あります。
 が、問題はやはり、消費者の負担した消費税以上の金額を消費税として課税できることに対して、これを正当化できる根拠が何もない点にあると思います。
 どうにか説明ができるのか検討はしてみたものの、どうにも思いつきません。

 「益税を滅ぼすにあたっての副作用にすぎないのであって、巻き込まれたくなければ素直に登録しろ」とでもいうことでしょうか。が、【事例7】ではインボイス登録をしないBではなく、Aが損失を被ることになってしまっています。このような《他罰的》な制度に正当性があるのかどうか。

 「だったら非適格者と取引しなければいい」ということかもしれません。が、その点についても完全自由ではなく、独禁法・下請法などによる規制がかけられています。


 さて、消費者の負担した消費税が増幅される現象、「二重課税」ではないのかと思うわけです。
 一方では課税しておきながら、他方では控除させないなんて、二重課税以外の何ものでもないはずです。

 二重課税というと、
 ・同一主体、同一物に対して複数税目が課税される(年金に関する所得税と相続税など)
 ・同一主体、同一物に対して複数国家が課税する(国際的二重課税)
といった場面が、主として問題とされています。

 が、インボイスが生み出した「損税」についても、消費者の負担した消費税以上のものに課税しているわけで、「二重課税」のカテゴリーに含めてもいいはずです。
 のはずなんですが、別主体に同一税目が課税されるパターンだからなのか、二重課税として騒がれることはありません。もっぱら、事務負担しんどいとか小規模事業者かわいそう、といった方面からの批判ばかりが目立ちます。
 上述した「年金に関する所得税と相続税」のような極めてテクニカルな論点と比べても、ド正面からの二重課税だと私には感じるのですが、どうにも温度差がありすぎるのは不思議。
 「贈与したら贈与者と受贈者、ともに贈与税が課税される」なんてことになったら、大騒ぎになるはずなんですけども。


 「インボイス制度が消費税の本来の姿」みたいな物言いをする人が税理士の中にもいるのですが、なぜ益税だけをみて損税をみないでいられるのか。

 消費者の負担した消費税が免税事業者のもとで消失することが許せないのならば、同様に、消費税の負担した消費税以上の税額に増幅されることも許さないでほしい。
 しかも、益税の場面でABCいずれが着服しているかは力関係によって変わりうるのに対し、損税の場面で国が不必要に税収を得ていることは、動きようのない事実です。

 私の見立てでは、現実のインボイス制度は
 ・売上側:課税売上を上げれば問答無用で課税される(売上税)
 ・仕入側:課税仕入をしてもインボイスがなければ控除しない
と、課税ベース拡大に都合のよいように制度を接ぎ木しただけの、原理も何もない制度、と評価しています。

 法人税法のように、あれやこれやの例外規定がありつつも《益金−損金=課税所得》という定式に揺るぎがないのとは、比べようもない節操の無さ。
 もし真面目に、消費に課税するつもりがあるのであれば、消費者の負担した消費税以上の課税負担が生じることなど、認めるはずないわけで。
 一体何に担税力を見出して課税していると説明するつもりなのか。

 《偽装売上税》あるいは《なんちゃって付加価値税》というのが、実際のインボイス制度に対する正しい評価なのではないでしょうか。

錬金術型消費課税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編19)
posted by ウロ at 09:26| Comment(0) | 消費税法
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