無限課税変 〜消費税法の理論構造(種蒔き編21)
【事例17】(インボイス前)
E(課税事業者):
Dに44000で売った。
D(課税事業者):
Eから44000で仕入れてAに66000で売った。
A(免税事業者):
Dから66000で仕入れてBに88000で売った。
B(課税事業者):
Aから88000で仕入れて消費者に110000で売った。
C(消費者):
Bから110000で買った。
・納税額
E 4000
D 2000(6000-4000)
A 0
B 2000(10000-8000)
計 8000
【事例17】では、課税事業者が
ア 消費者に売ったら(B→C) 10000
イ 免税事業者に売ったら(D→A) 6000
エ 免税事業者から買ったら(A→B) △8000
消費税が発生することになっています。
インボイス推進派の皆さんは、エだけをみて「A(免税事業者)が8000を着服している!」とAを泥棒扱いしていたわけです。で、そのままの勢いでインボイス制度が出来上がってしまいました。
が、イがあるおかげで、実際の税収ロスは2000だけです。また、不足分2000を一体誰が着服しているかは、上記各取引における「適正価格」というものが分からなければ、犯人を突き止めることは不可能なはずです。
にもかかわらず、「Aが消費税8000を受け取っているにもかかわらず納税していない」という表層的な現象だけを捉えて、Aが8000を着服していることにされてしまったわけです。
○
これがインボイス後、国の税収が10000に回復したかというと、まさかのオーバーキル!
【事例16】(インボイス後)
E(非適格・課税事業者):
Dに44000で売った。
D(非適格・課税事業者):
Eから44000で仕入れてAに66000で売った。
A(非適格・免税事業者):
Dから66000で仕入れてBに88000で売った。
B(適格・課税事業者):
Aから88000で仕入れて消費者に110000で売った。
C(消費者):
Bから110000で買った。
・納税額
E 4000
D 6000(6000-0)
A 0
B 10000(10000-0)
計 20000
【事例16】では、課税事業者が
ア 消費者に売ったら(B→C) 10000
イ 免税事業者に売ったら(D→A) 6000
ウ 非適格である課税事業者に売ったら(E→D) 4000
消費税が発生することになっています。
「益税絶許!」としてエを撲滅するところまではいいとして。イはそのままキープ、さらにウを爆誕させることにより、税回収率200%の遙か高みへ到達することに。
○
インボイス導入の目的は「消費者の負担した消費税が全て国に流れてくるようにしよう」というものだったはずです。が、実際に出来上がった制度の機能をみると、それ以上の税までもを巻き上げています(ネコババ容認税制からカツアゲ税制へ)。
インボイス推進派の皆さんは、お役所のプロパガンダにノセられて、
国家財政+課税事業者+消費者 VS 免税事業者
という対立構造だと思って、推進活動を行っていたのかもしれません。
が、インボイス後は思いっきり過大課税が生じることとなったわけで、「国家VS民間」という形で対抗すべきだったのではないでしょうか。
○
ではあるのですが、非常にたちが悪いのが「登録しさえすればイウは無くなる」という制度設計になっているところです。そのせいで「イウという余計な税を発生させているのは登録しない事業者が原因だ!」と、非適格事業者を悪者に仕立て上げることが可能となっています。
いわば、インボイス制度の中に、適格者・消費者が非適格者を排除しようとする誘因が組み込まれているということです。要するに《オフィシャル村八分》。
おそらくですが、インボイス制度がこのような理不尽な制度であることを裁判所で主張したとしても、裁判所的には「登録するかは任意だし、登録しさえすれば余計な税負担は生じないんだから」とかいうことで、特に問題視はしないよう思います。
インボイス制度なんていう、お国の税制の根幹に関わるものについて、裁判所が納税者阿り系の判決を出すことは、とても期待できない。
○
そもそもですが、【事例17】で誰が益税を着服しているかが特定できないのと同様、【事例16】で誰が損税を蒙っているのかも、特定できなかったりします。
そのため、インボイス制度がどれだけ理不尽な制度だとしても、誰も自分の損害を主張することはできないのではないでしょうか。もちろん、訴え提起自体は誰でもできるわけですが、原告適格なり損害論なりで主張が撥ねられるのでは、ということです。
もしもですが、日本版インボイス制度を設計した人が、誰にも訴えようがないことを見越しつつ、あえて過大課税となるように設計したのだとしたら、悪魔的な発想の持ち主だと思います(《立案の悪魔》)。
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