というほどのものではなく、課税するにもやり方ってもんがあるでしょう、というお話。
《免税事業者は消費税をネコババしている》思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編24)
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たとえば、次のような税制、皆様どのように評価されるでしょうか。
ア 全事業者に、売上高の5%分の「償却資産税」を課税する。
イ 自社が保有している償却資産につき、指定された方法で申告した場合にかぎり、当該資産に対応する「償却資産税」を減額する。
ウ 結果として、当該方法で申告をしなかった事業者は、資産を一切保有していなかったとしても、売上高の5%分の「償却資産税」が課税されるということになる。
「一定規模の稼ぎがあればそれなりの固定資産をもっているはずだ、余計な課税をされたくなければきちんと申告しろ」という制度設計になっています。また随分とぶっ飛んだ税制だな、と思われたかもしれません(さしあたり"償却資産税BEYOND"と呼ぶことにします)。
が、次のような税制ならどうでしょうか。
ア 全事業者に、売上高の10%分の「付加価値税」を課税する。
イ 適格事業者の発行したインボイスのある課税仕入をした場合にかぎり、当該インボイス記載の付加価値税分の減額をする。
ウ 結果として、インボイスをもらえなかった事業者は、課税仕入をしていたとしても、売上高の10%分の「付加価値税」がそのまま課税されるということになる。
要するに、インボイス制度のもとにおける消費税法そのものです("消費税INVOICE")。
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「償却資産税BEYOND」も、事業者がきちんと申告するかぎりは、保有している資産以上の課税負担が生じることにはなりません。そうではあるのですが、たとえば過去の航空写真などから、当該場所に何らの資産が存在しないことが明らかだったとしても、指定された方法で申告しないかぎりは、減額することはできません。
結果として、実体として存在しないことが明らかな資産に課税されてしまうということです。
現行の償却資産税が、事業者が申告しないかぎり資産の存在を把握できず、どうにか現地調査をしてその一端がつかめる程度、という現状が問題だというのは、そのとおりなのだと思います。だからといって、問答無用で課税しておいてから、資産がないことを申告してくれたら減額する、という遣り口が、支持されるとはとても思えません。
償却資産税は、資産を保有していることに担税力を見いだして課税しているはずです。資産を保有しないことが明らかならば、課税されるべきではないでしょう(なお、固定資産税が登記基準なのは、誰に帰属しているかはともかく実在はあるから、ということで正当化できるでしょうか)。
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のはずなんですが、「消費税INVOICE」のほうは、なぜかそのような方向からの批判を受けることがありません。非適格である課税事業者Bがきちんと消費税を納税しているにもかかわらず、Bから仕入をしたAが仕入税額控除の適用を受けられないという状態、「償却資産税BEYOND」と同じだと思うのですが。
もちろん、事業者全員が適格事業者になれば解決することではあります。が、だからといって、非適格者が事業取引に参加しなくなるまでは過大課税をし続けてもいい、などということにはならないでしょう。
Bが消費税を納税しているかなんて、課税庁は容易に把握できるのであって。にもかかわらず、「インボイスがないから」という理由だけでA側の控除が否定されるという理不尽さ。要するに、「消費税INVOICE」というのは、付加価値という中身のあるものとは異なる、別の何かに課税している、ということになるのでしょう。
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「固定資産税BEYOND」がおかしいと感じるにもかかわらず、「消費税INVOICE」をおかしいと感じないのならば、ご自身の《税法感覚》を疑ったほうがいいと思います。
ということで、「とりあえずで課税対象にしておくけど、申告したときだけ減免してあげる」という遣り口、決して許されるべきではないと思うのです。が、「租税法律主義」を始めとする、租税法の一般原則として唱えられているあれやこれや、こういった問題に対しては全くの無力です。
「益税撲滅」という大義名分の下で合意形成ができてしまえば、実際の中身が「損税拡大税制」になってしまっても、最早対抗するすべがない。
中里実,藤谷武史「租税法律主義の総合的検討」(有斐閣2021)
《課税作法論》という新分野の登場が期待されるところです。
インボイス行為無価値論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編26)
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