2023年05月15日

免税事業者Requiem(第1曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編27)

 インボイス制度導入の踏み台とされ、やがて滅びゆく定めの免税事業者。
 はなむけ代わりに、消費税法上どのように規定されているかを確認しておきます。

インボイス行為無価値論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編26)


 前提となる原則のほうから(条文は大幅に省略いれてます)。

第四条(課税の対象)
1 国内において事業者が行つた資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課する。
第五条(納税義務者)
1 事業者は、国内において行つた課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある。
第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 三 個人事業者 事業を行う個人をいう。
 四 事業者 個人事業者及び法人をいう。
 九 課税資産の譲渡等 資産の譲渡等のうち、第六条第一項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう。
第六条(非課税)
1 国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第一に掲げるものには、消費税を課さない。


 ・事業者が資産の譲渡をしたら消費税を課する(4条)。
 ・別表第一の資産の譲渡には消費税を課さない(6条)。
 ・事業者は課税資産の譲渡について消費税を納める義務がある(5条)。

 一旦、課税対象となるもの(4条)/ならないもの(6条)をあげておいてから、誰が納税するかは別途定める(5条)、という二段構えの構造になっています。
 課税される対象(課税客体)と納税すべき人(納税主体)を区別して規定しているということです(主客二元構造)。


 次に、いわゆる「免税事業者」についての規定。

第九条(小規模事業者に係る納税義務の免除)
1 事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者については、第五条第一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する。ただし、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
2 前項に規定する基準期間における課税売上高とは、次の各号に掲げる事業者の区分に応じ当該各号に定める金額をいう。
一 個人事業者及び基準期間が一年である法人 基準期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等の対価の額(第二十八条第一項に規定する対価の額をいう。)の合計額から、イに掲げる金額からロに掲げる金額を控除した金額の合計額を控除した残額


 ・基準期間の課税売上高が1000万円以下の事業者は、消費税を納める義務を免除する。

 5条に対応する例外規定となっています。免税事業者であっても4条の適用は受けたまま、ということです。
 この書きぶりからすると、免税事業者であろうがなかろうが、事業者が行う課税資産の譲渡は4条により消費税の課税対象となるが、免税事業者であれば、9条によって5条の納税が免除される、と理解することができます。

 4条:資産の譲渡は課税対象
 5条:譲渡した事業者に納税義務あり ←9条:免税事業者は納税義務免除


 このあたりで出てくるおなじみの論点が、免税事業者の基準期間の課税売上高は、「税抜」に引き直して判定するのかどうか、というものです。

 実務的には、税抜としないでそのまま判定するということで、結論自体はもはや動かしようがないです。
 問題は、この結論をどのように説明するかという点で、消費税法の構造に対する理解が問われます。


 9条2項1号で引用されている28条1項の「課税資産の譲渡等の対価の額」は次の通りです。

第二十八条(課税標準)
1 課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。)とする。


 課税事業者であれば、括弧書きの「含まないものとする」規定により、税抜で判定することになります。
 他方で、免税事業者の場合、ここでいう「課されるべき消費税額」をどう読むかが問題です(地方税は省略)。以下、譲渡対価の額として「110000」を想定しながら記述します。

 この点、上記の《主客二元構造》を前提として、そこに「本体(100000)とは別に消費税(10000)がそっと乗っかっているだけ」という通俗的な見方をあてはめると、

 ・免税事業者であっても4条により課税対象となる。
 ・課税対象である以上、消費税10000をのっける必要がある。
 ・が、もらった消費税は9条で納付しなくてよくなる。

と理解することになるかと思います。
 で、免税事業者であっても本体とは別に消費税をもらうことになっているため、これを除いて判定しなければならない、と考えることになるでしょう。

 このような見解、インボイス導入にあたって「免税事業者は消費税をネコババしている!」と叫び散らしていたことと整合しており、その当否はともかく主張としては一貫しているといえるでしょう。

  免税事業者は、本体とは別に消費税をもらっているので、
 →もらった消費税を納付しないのはネコババだ!
 →もらった消費税は除いて判定すべきだ!

 ところが、免税事業者をネコババ呼ばわりしていた人たちも、ここでは「税抜にしない」という結論を取るものと思われます。もしそうだとしたら、免税事業者をネコババ呼ばわりしておきながら、消費税はもらっていないと扱うことになり、どう考えても矛盾します。

  免税事業者は、本体とは別に消費税をもらっているので、
 →もらった消費税を納付しないのはネコババだ!
 →もらった消費税は消費税じゃないから除かないで判定すべきだ!(???)

 どのように整合性をとるつもりなのでしょうか。


 私が思うに、条文上の消費税法の構造をみてみると、売上課税ルールは本体と消費税を「一体」として扱っているように理解できます。インボイス制度における仕入控除ルールが本体と消費税を「別物」と扱っているのとは違って。
 同じ取引なのに、売上側からみると「一体」、仕入側からみると「別物」とかどう考えても不自然で、これまでの記事でも散々批判してきたところです。が、現実の制度がそうなっているんだから仕方ない。

 その点はさておき、売上側からみた本体・消費税の関係は、《ゴムまり理論》のごとく、消費税があればその分本体が縮小する・消費税がなければ本体はそのまま、というイメージになります(《ゴムまり理論》を註釈なしで記述するのは気が引けますが、あえて説明すまい)。

 これを、本体と消費税は別々に存在すると考えるから、おかしなことになるわけです。というか、存在するのは対価の額110000と消費税10000だけで、本体はただの差額概念と捉えておいたほうがよいかもしれません。
 ただし、これは売上側からみた場合であって、仕入側からみると税抜本体が突如実体を持つことになります。
           売上側  仕入側
  対価の額 110000 実在   合計
  内消費税  10000 実在   実在
  税抜本体 100000 差額   実在

 このような見方からすれば、

  課税事業者:
  対価の額110000が課税対象となり、そこから消費税10000を算出する
  免税事業者:
  対価の額110000が課税対象となるが、納税義務が免除されるから消費税は算出されない

と理解することができます。
 課税資産の譲渡をすれば等しく課税対象とはなるものの、免税事業者の場合には「課されるべき消費税額」が算出されない、ゆえに税抜にしないでそのまま判定する、という結論を導くことができます。「免税事業者は転嫁することを予定していない」云々といった、消費税法に記述されていない空理空論を持ち出す必要はありません。


 インボイス推進派の皆さんですら、本当は「免税事業者は消費税をネコババしていなかった」と思っていたのだとしたら、とんでもない冤罪で滅ぼされようとしていることになります。気づかないままの犯行だとしても、それはそれで恐ろしいですが。

 が、すでに制度が出来上がってしまったわけで、せめて献花ぐらいは捧げてしかるべきではないでしょうか。

免税事業者Requiem(第2曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編28)
posted by ウロ at 10:10| Comment(0) | 消費税法
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