2023年05月29日

免税事業者Requiem(第3曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編29)

 免税事業者、インボイス誕生によって滅びゆく運命にあるわけですが。

免税事業者Requiem(第2曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編28)

 より悲惨なのが「非適格である課税事業者」。
 インボイス誕生とともに産み出されたかと思いきや、直ちに滅びゆく定めにあるという。


 インボイス施行後の「免税事業者」の取扱いは、
 ア 免税事業者による売上は、消費税の納付義務を免除する
 イ 免税事業者による仕入は、仕入税額控除の適用を除外する。
 ウ 免税事業者からの仕入は、インボイスがないので仕入税額控除を否定する。
というものです。

 この記述だけだと分かりにくいですが、結果の側からみると、消費税法における免税事業者は「消費者」と同じポジションに引きずり下ろされた、ということになります。

 そもそも、「消費者」というカテゴリ自体が消費税法には存在しないのですが、消費税法における「消費者」の取扱いは、
 ア 個人が物を売っても、事業でなければ課税対象とならない。
 イ 個人が物を買っても、事業者でなければ仕入税額控除の適用を受けられない。
 ウ 個人から物を買っても、インボイスがなければ仕入税額控除を否定する。
ということになっています。

 免税事業者と消費者とで理由づけが違うところはありますが、結論としては同じことになります。面白いのが(面白くない)ウで、免税事業者・消費者から仕入れた側の仕入税額控除については、「非適格者」からの仕入だから、という全く同じ理由で否定されるところです。
 「課税仕入」は、モノ・サービスの性質で判定することとなっており、その中には免税事業者・消費者からの仕入も含まれたままです。インボイス制度によってはじめて、これらの仕入が追い出されることになります。

 これに関連して。
 誤解されがちなのがインボイスが不要となる「古物商・質屋特例」の適用範囲について。この特例は、上記ウの例外にあたります。
 よくある税務お役立ちブログだと、「消費者」から取得した場合を前提に記述されていたりして、では免税事業者から仕入れた場合はどうなるのか、ということがはっきりしない。

 この点については、条文をみればすぐわかります。
 「他の者(適格請求書発行事業者を除く)」(令49条1項1号ハ)から取得した場合に適用されると書いてあるので、免税事業者からの取得でもこの特例が適用されるということになります。

 ついでにいうと、「適格者」がインボイスを発行してくれなかった場合はこの特例を適用できないということです。「インボイスがもらえなかったら」という要件ではなく、「非適格者から取得したら」という要件になっているので。
 適格者が発行してくれない場合については、法30条7項但書の「やむを得ない事情」を証明する必要があります。


 話が脱線したように思われるかもしれませんが、これは非適格三兄弟のうち、一番の被害者である「非適格である課税事業者」の悲惨さを引き立てるためです(以下、「非適格事業者」と略しますが、ここに免税事業者は含めません)。

 すなわち、「非適格事業者」の消費税法上の取扱いは、
 ア 非適格事業者による売上は、消費税を納税させる。
 イ 非適格事業者による仕入は、インボイスがあれば仕入税額控除を認める。
 ウ 非適格事業者からの仕入は、インボイスがないので仕入税額控除を否定する。
となっています。

 アで非適格事業者に納税させておきながら、ウで非適格事業者から仕入れた事業者の仕入税額控除は否定しています。ここがインボイス制度最大の問題点として、これまでも再三批判してきたところです。
 喩えて言うならば、「上半身は事業者、下半身は消費者」として扱っているようなものです。

 これとの対比で、「免税事業者」がまるごと消費者扱いされているのは、その帰結の当否は別として、態度としては一貫しているわけです。「非適格事業者」が上半身と下半身とで別もの扱いされていることの理由が謎すぎる。

 件の教科書では売上課税と仕入控除の関係について『消費税は税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』(以下『両輪駆動』と略します)などというイメージづくりをして、あたかも綺麗な制度であるかのような印象操作をしています。が、こちらも喩えをもって対抗するならば、インボイス制度のもとにおける非適格事業者に対する仕打ちは以下のとおりとなります。

  課税馬 ←非適格事業者→ 控除馬

 手抜きですみません。まあ、あまり生々しいとセンシティブになってしまいますし。
 これが何を意味しているかというと。上記アを課税馬、ウを控除馬とし、それぞれに両手・両足をくくりつけてから両側に・・・という様子を表しています。
 私には、非適格事業者に対するインボイス制度の仕打ち、このような残虐なもののように思えます。適格事業者に対しては『両輪駆動』などといって平常運転をしているインボイス制度が、非適格事業者が事業取引の世界に闖入してきた途端、残虐な拷問道具に切り替わるということです。


 現行税制の中で暴力的な制度だと感じるもの、皆様それぞれの経済状況に応じて思うところは違うでしょう。が、残虐性という意味では、「インボイス制度における非適格事業者の取扱い」というのがトップクラスなのではないでしょうか。しかも、表向きは『両輪駆動』などと謳って残虐性を隠蔽しているあたり、極めて陰湿。

 実務家としては、制度が施行される以上、粛々とこれに従って処理をせざるをえないわけです。が、だからといって、課税庁側の口車にのって、非適格者を非国民扱いするのだけはやめてあげてほしい。
posted by ウロ at 10:26| Comment(0) | 消費税法
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