2025年10月27日

ゼロ税率の世界へようこそ 〜消費税法の理論構造(種蒔き編69)

 あと数回、消化試合・落穂拾い的な記事が続きます。

非課税売上押し付け課税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編68)

 消費税に関して、「ゼロ税率」という言葉が使われることがあります。

 これ、何ものかというと。
 以下、事例をあげて検討します(記述が散らかるので、インボイス前で想定します)。

【事例1】(国内販売)
 A(課税事業者)
  Bに88000で売った。
 B(課税事業者)
  Aから88000で仕入れてCに110000で売った。
 C(消費者・国内)
  Bから110000で買った。

【事例2】(輸出販売)
 A(課税事業者)
  Bに88000で売った。
 B(課税事業者)
  Aから88000で仕入れてCに100000で売った(輸出)。
 C(消費者・海外)
  Bから100000で買った。

【事例3】(免税事業者)
 A(課税事業者)
  Bに88000で売った。
 B(免税事業者)
  Aから88000で仕入れてCに110000で売った。
 C(消費者)
  Bから110000で買った。

【事例4】(非課税)
 A(課税事業者・管理受託業者):
  住居の管理業務を受託し、Bから委託費88000をもらった。
 B(課税事業者・建物所有者):
  Cから家賃100000をもらった。Aに委託費88000支払った。
 C(消費者・居住者):
  Bから住居を借りて家賃100000を支払った。


 【事例4】だけノリが違うのですが、まあ仕方ない。
 各事例の「納税額」は次の通り。

【事例1】(国内販売)
 A 8000(8000-0)
 B 2000(10000-8000)
 計 10000

【事例2】(輸出販売)
 A 8000(8000-0)
 B △8000(0-8000)
 計 0

【事例3】(免税事業者)
 A 8000(8000-0)
 B 0(免税)
 計 8000

【事例4】(非課税)
 A 8000(8000-0)
 B 0(0-0) 非のみ
 計 8000


 【事例1】は、消費者が負担した消費税がそのまま国に流れてきます。
 【事例2】は、国内で消費が発生しないため、消費税は発生しません(仕向地主義)。
 【事例3】は、免税事業者が挟まっているものの、消費者が負担した10000の80%は国が回収できています。
 【事例4】は、居住用賃貸自体は非課税であるものの、その前の段階で消費税が発生しています。


 「ゼロ税率」というのは、【事例4】において、居住用賃貸を非課税としておきながら、消費税が発生してしまっていることを問題視するところからきています。
 せっかく家賃に消費税をかけないことにしたくせに、Bのところで消費税が発生してしまうならば、そのしわ寄せがCにも来てしまうのではないか、という問題意識です。

 【事例4】にゼロ税率を適用するとどうなるかというと。

【事例4】(非課税)※ゼロ税率
 A 8000(8000-0)
 B △8000(0-8000)控除できる
 計 0


 BがAに支払った消費税を控除できることになり、【事例2】の輸出免税と同じ結果となります。これにより、居住用賃貸に消費税を課さないこととした趣旨を十分に発揮することができることになります。

 が、これを導入すると、文字通り国の回収額は0円となってしまいます。ので、国がこのような制度を導入する見込みは極めて薄いでしょう。消費者に対しては「消費税を課さないであげる」と言っておきながら別のところから徴収する、なんて、都合のいい《二枚舌》制度、国が手放すとは思えません。

 仮に非課税を免税扱いに変更するとして。
 輸出の場合は「国内で消費されていないから消費税を課せない」ということで、消費税が発生しないことを正当化することができます。他方で、現行法上非課税とされているものにつき、それと同等の正当化理由が見いだせるでしょうか。他の国内消費にかかる取引とのバランスの問題です。
 「仕向地主義」などというように、『主義』といえるだけの何ものかがあるかどうか。

 それはそうだとして、「消費税」を名乗っておきながら、消費者でない事業者の取引段階で突然消費税が湧き出すことの根拠も不明ではあります。もちろん、現行法が「多段階課税方式」だから、という形式的な理由は分かります。そうではなく、実質的な理由のほうです。
 消費者が負担しないことの代償として、とでもいうしかないでしょうか。


 各事例の帰結が異なる理由、もちろん、売上のカテゴリが違うから、という点にあります。が、より突っ込んで考えると、売上のカテゴリに応じて適用される「仕入控除ルール」が異なる点のほうが《本体》であることが分かります。

《仕入控除ルール》
 課税 適用あり
 輸出免税 適用あり
 免税事業者 適用されない
 非課税 用途区分で控除不可

 「法人税法」を理解するにあたっては、益金ルールと損金ルールを別々に学習してもそれほど支障はありません。他方で「消費税法」の場合は、売上課税ルールと仕入控除ルールを別々に勉強してしまうと、きちんと理解することはできないでしょう。

 輸出免税・免税事業者・非課税いずれも、売上をあげる段階では消費税が発生しないことに変わりはありません(ただしこの表現は不正確)。ので、それ以外の局面でどのような違いがあるかも同時に説明しなければ、なぜそれらのカテゴリが別々に存在しているのかを理解することはできないでしょう。

 だというのに、一般的な解説書の類では、課税対象の話、仕入税額控除の話、課税事業者/免税事業者の話と、それぞれ別々の箇所で説明されるだけで、終わってしまいがち。


 なお、「非課税取引」について、消費者にしわ寄せがいってしまうという問題意識があるのならば、「免税事業者」についても、同じ問題意識をもってほしいところ。

 すなわち、免税事業者が消費税の納税を免除されたからといって、消費税をまるまるネコババしているのではない、免税事業者のところにもしわ寄せがいくことがありうる、ということに思い至ってほしいところです。

消費税法における分断と結合 〜消費税法の理論構造(種蒔き編70)
posted by ウロ at 16:31| Comment(0) | 消費税法
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