2023年07月10日

安部 慶彦「詳解 合同会社の法務と税務」(中央経済社2023)

 「合同会社」って、一方では設立費用をお安く上げるためだけに利用されていたり。他方では複雑怪奇なスキームの中に組み込まれて利用されていたり。ニーズが極端に分かれている。

 前者については、運用段階では合同会社特有の論点というのはほとんど無く。後者も合同会社単体の論点というよりはあれやこれやの組織体の組み合わせによって生じる論点が中心だったり。

 という状況の中で、その中間あたりで、正面から合同会社を活用してみようという人間が読める本というのがほとんど見受けられない、というのが現状でした。


 そんな中で本書は、正面から合同会社を使えるようにするための知識・知恵が盛り込まれている、今までにあまりなかったタイプの本だと思います。

 安部 慶彦「詳解 合同会社の法務と税務」(中央経済社2023)

 この手の本は、「条文引き写し系」のつまんない本になりがちなところ。特に、単著で法務と税務が両方カバーされている場合、どちらかがおろそかになりがち。

 に対して本書は、一読しただけでも確かな実務経験に基づいた地に足のついた記述であることが理解できると思います。


 合同会社を理解するにあたって、どうしても我々は「株式会社」とのアナロジーで理解しようとしがちです。

 僕たち私たちの前田会社法入門なんて、本文860頁中、合同会社の項目は5頁だけ。

 前田庸「会社法入門 第13版」(有斐閣2018)

 供え本(備え本)たる江頭株式会社法の場合は、タイトルどおりはじめから省略されています。

 江頭憲治郎「株式会社法 第8版」(有斐閣2021)

 しっかり「会社法」を勉強したつもりでも、その知識はやたらと「株式会社」に偏っているはずです。
 そこを本書では、逐一株式会社との対比で合同会社について説明をしてくれているので、偏った脳に自然な形でインストールができるようになっています。大変な親切設計。


 税理士的には、「計算」のところを数字をあてはめながら説明してくれているところが、特によかったです。
 類書だと、おなじみの掛け算・割り算の数式だけ貼り付けて終わってしまうところ。数式の意味するところを具体的なイメージをもって理解することができます。

【数式vs息吹】
三木義一「よくわかる税法入門 第17版」(有斐閣2023)


 ただ、本書でかなり論点に深入りしてくれているおかげで、見えてきたところなんですが。

 未だに見解の定まらない論点というものがいくつかあり。実務で出くわしたらなかなか怖いなあと。
 フルスロットルで合同会社を全面活用する場合の落とし穴となりうるような。

 なるべくそのあたりに触れないようなかたちで運用していくのが、日常系税務の実務家としての、オススメの遣り口。
posted by ウロ at 11:28| Comment(0) | 会社法・商法
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。