2023年08月07日

《媒介者交付特例》がキモいのだが(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編30)

 媒介者交付特例を「キモい」呼ばわりしたのは、人類史上、私が初めてではないかと自負しております。
 が、だからといって《先行者利益》を貪るつもりはなく。この気持ち、以下の説明をもって皆さんにも共有していただきます。

免税事業者Requiem(第3曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編29)


 「媒介者交付特例」について説明しておくと、次のようなものです。

《媒介者交付特例》
 A 売手(委託者)
 B 媒介者(受託者)
 C 買手

 原則:AがCに対し、Aの番号が書かれたインボイスを発行する義務がある。
 特例:BがCに対し、Bの番号が書かれたインボイスを発行すればよい。

 【要件】
  ア ABとも適格者(適格請求書発行事業者)
  イ AがBに対し、取引前までに自分が適格者であることを通知

消費税法施行令 第七十条の十二(媒介者等による適格請求書等の交付の特例)
1 事業者(適格請求書発行事業者に限る。)が、媒介又は取次ぎに係る業務を行う者(適格請求書発行事業者に限る。以下この条において「媒介者等」という。)を介して国内において課税資産の譲渡等を行う場合において、当該媒介者等が当該課税資産の譲渡等の時までに当該事業者から登録を受けている旨の通知を受けているときは、当該媒介者等は、当該課税資産の譲渡等を受ける他の者に対し法第五十七条の四第一項(第一号に係る部分に限る。)の規定により記載すべき事項、同条第二項(第一号に係る部分に限る。)の規定により記載すべき事項又は同条第三項(第一号に係る部分に限る。)の規定により記載すべき事項に代えて当該媒介者等の氏名又は名称及び法第五十七条の二第四項の登録番号を記載した当該課税資産の譲渡等に係る適格請求書、適格簡易請求書若しくは適格返還請求書(以下第七十条の十四までにおいて「適格請求書等」という。)又は適格請求書等に記載すべき事項に係る電磁的記録(法第五十七条の四第五項に規定する電磁的記録をいう。以下この条及び次条において同じ。)を当該事業者に代わつて交付し、又は提供することができる。


 どういう意味で特例なのかというと、
  ・発行義務者:発行するのは売手Aではなく媒介者Bでよい。
  ・記載事項:売手Aの番号でなく媒介者Bの番号でよい。
ということになります。

 この時点で「キモっ!」って感じていただけたならば、私と感覚が近い方だと思われます。
 まだいまいちピンとこないという方のために、もう少し踏み込みます。

 以下、イメージしやすい例として、事業用賃貸物件(オフィスビル)の「不動産管理」を想定します。家賃のやり取りをするにあたって、どのようなインボイスが必要となるか、という問題です。

《不動産管理(事業用賃貸物件)》
  A 貸主(委託者)
  B 不動産管理会社(受託者・媒介者)
  C 借主

 なお、不動産管理において、AがBを「介して」Cに貸付けをしていると言われると、違和感があります。が、運営の見解では、請求書発行とか集金の代行程度でも「媒介者交付特例」の適用あり、としているので、不動産管理にも適用されるという理解を前提としておきます。


 これまでの一連の記事でも検討したとおり、インボイス後の消費税法の基本構造は次のようになりました。

  売上:問答無用の実体課税ルール
  仕入:実体+厳格な形式による税額控除ルール

 売上側の課税ルールは、形式は気にせず課税資産の譲渡という実体があるかぎりは課税されます。こちらは従前どおりです。
 他方で、仕入側の税額控除ルールについては、実体があるだけでは足りず、インボイスという厳格な形式がないかぎりは控除されないこととなりました。

 このハイブリッドぶりが奇妙なのはさておき。控除側に厳格な形式要件が課せられていることを正当化する根拠として、「インボイスは売手側の『課税証明書』だからだ」といったことが言われることがあります。
 もちろんこの理由付けに対して私が否定的なのは置いておくとして。

 この根拠を頭の片隅においた上で「媒介者交付特例」の中身を分解してみていくと、
  ア Aはインボイスを発行しなくていい ⇒わかる
  イ Bがインボイスを発行すればいい ⇒わかる
  ウ AはインボイスにAの番号を書かなくていい ⇒わかる
  エ BはインボイスにBの番号を書けばいい ⇒キモっ!

 エがキモいんですよ。

 Cにとって、自分が家賃に含めて支払った消費税がきちんと納税されているかどうかは、Aが適格者であるかどうかにかかってきます。Bが適格者かどうかなんて全く全然何にも関係ないです。

 「Aの番号を省略してもいい」というのは、たとえば「旅費特例」のような発行義務免除系の特例もあることからすれば、理解できます。が、なぜここでBの番号が出てくるのか。Cにしてみれば、Bから「俺は消費税を納税してるぜ!」なんてアピールされたところで、「いらない情報」でしょう。

 なお厳密には、「課税証明」と言うならばAが適格者である必要もなく。課税事業者でありさえすれば非適格者でもいいわけで。
 この「非適格である課税事業者」の存在についても、本ブログで散々イジってきたところ。ですが、今回は触れません。

 「インボイス本来の目的からすればBの番号はいらないはずだ」というのは、制度設計として「おかしい」というだけであって。これだけでは決して「キモい」という感情にまでは到達しません。

 では、私が「キモい」と思う正体は何でしょうか。
 すでに共感いただいている方もいらっしゃるかもしれませんが、次週に続けます。

《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
posted by ウロ at 10:13| Comment(0) | 消費税法
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