《媒介者交付特例》がキモいのだが(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編30)
今回は「キモい」の核心に迫ります。
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《媒介者交付特例》のキモさの引き立て役として、同じ条数に収まっている《公売特例》に登場してもらいます。
消費税法施行令 第七十条の十二(媒介者等による適格請求書等の交付の特例)
5 事業者(適格請求書発行事業者に限る。)が、国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号)第二条第十二号(定義)に規定する強制換価手続により執行機関(同条第十三号に規定する執行機関をいう。以下この条において同じ。)を介して国内において課税資産の譲渡等を行う場合には、当該執行機関は、当該課税資産の譲渡等を受ける他の者に対し法第五十七条の四第一項(第一号に係る部分に限る。)の規定により記載すべき事項に代えて当該執行機関の名称及びこの項の規定の適用を受ける旨を記載した当該課税資産の譲渡等に係る適格請求書又は適格請求書に記載すべき事項に係る電磁的記録を当該事業者に代わつて交付し、又は提供することができる。この場合において、当該執行機関は、財務省令で定めるところにより、当該適格請求書の写し又は当該電磁的記録を保存しなければならない。
《公売特例》
A 滞納者
B 執行機関(媒介者)
C 買受人
原則:AがCに対し、Aの番号が書かれたインボイスを発行する義務がある。
特例:BがCに対し、「B名称+公売特例適用」が書かれたインボイスを発行すればよい。
【要件】
・Aが適格者
執行機関が適格者である必要はなく、またAからBへの通知も不要となっています。
《公売特例》についても要素を分解しておくと、次のとおりとなります。
ア Aはインボイスを発行しなくていい ⇒わかる
イ Bがインボイスを発行すればいい ⇒わかる
ウ AはインボイスにAの番号を書かなくていい ⇒わかる
エ Bは適格者でなくてもいい ⇒わかる
こちらのほうが、媒介者特例としてのあるべき姿に近いです。Bが適格者であることとかBの番号をインボイスに記載するとか、買手Cにとって余計なものを要求していませんので。
そしてまた、Aが適格者でありさえすればインボイスにAの番号を記載しなくていい、というのも《実体課税》としての望ましい姿ということができます。
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では、同じ条数の中に収まっていながら、なぜ媒介者交付特例と公売特例とでこのような差があるのか(以下、媒介者交付特例の媒介者Bを「一般媒介者」と呼びます)。
ふと思ったのが、一般媒介者が適格者であることを要求しているのは、決して家賃にかかる消費税に対する何かしらの証明を求めているのではなく。単に、「適格者なら信用できるはず」という根拠薄弱な想い入れに基づいたものなのではないでしょうか。
一般媒介者Bが「適格者」だということは、お国の課税制度に素直に従ってくれている良い人なんだから、Aが適格者であることをきちんと確認した上でCにインボイスを発行してくれるはずだと(なお、非適格者に対する酷い扱いは、これまでの記事で検討したとおり)。
これとの対比で、「執行機関」はお国の組織なので、まあ適格者でなくても大丈夫だろうと(国が登録しないなんてことはないでしょうが、要件として明示されていない以上はこういう理解になるかと)。
めちゃくちゃ変なことを言っている自覚はあります。が、そもそも「媒介者Bの番号を記載すればいい」なんてストレンジな制度を理屈付けしようと思ったら、説明のほうもストレンジ不可避でしょうよ。
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これでどうにか説明できそう、と思ったのですが。5項(以下、令70条の12は略します)で引用されている国税徴収法2条12号の取り込み方に、若干の疑問。
「国税徴収法」から定義をお借りしているということから、てっきり、公売特例が適用されるのは「租税債権」に基づく執行手続に限られるのかと思っていました。もしそうだとすると、公売特例の趣旨を『たとえお国(の組織)であろうとも、非適格者ならば信用できない。が、税徴収の場面に限っては処理をスムースにすすめるためルールを緩めよう。』と捉える必要があります。
が、よくよく読んでみると、5項でいう強制換価手続には「租税債権」を回収する以外の執行手続も含まれているのではないかと思うようになりました。
国税徴収法 第二条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
十二 強制換価手続 滞納処分(その例による処分を含む。以下同じ。)、強制執行、担保権の実行としての競売、企業担保権の実行手続及び破産手続をいう。
国税徴収法の中に「強制執行」(担保権実行等は略します)という用語がでてくるのは、すでに私債権に基づき強制執行が開始されているところに、徴収当局が乱入してくる場面を規律する必要があるからです。
ただ、5項は強制換価手続の定義だけを取り出してお借りしているので、単に「強制執行」という用語だけが5項に取り込まれることになります。「租税債権」が絡む場面だという限定は、国税徴収法の中に収まっているかぎりで事実上そうなるというだけであって。国税徴収法から外に取り出した時点で外れてしまいます。
そうすると、5項は「租税債権」が絡む場面にかぎらず、純粋な「私債権」だけが回収対象となっている強制執行の場面にも適用されることになります。
運営発行の資料含め、5項を《公売特例》呼ばわりしているわけですが、この読み方が正しいとすると《競売特例》でもあるということになります。
しかしまあ、お国の側も、インボイスが取引の阻害要因であることは、十分自覚があるようです。だからこそ、お国が運営する執行手続がスムースに進められるよう、特例を設けているわけですよね。
なお、毎度おなじみ『税制改正の解説』では、「滞納者」としか書かれていないことから、「租税債権」が絡む場面に限定されているかのような書きぶりになっています(P.697)。
令和4年度 税制改正の解説(財務省)
が、上記の通り、条文上はそのような限定はされていないのであって。
運営が「俺はこういうつもりで作った」(立案者意思)なんて言っているのは、プロット段階でちょろっと口出しをした《自称》共同制作者のアレオレ詐欺みたいなものです。税法解釈においては、オリジナル(条文)から読み取れる趣旨に限定すべき、というのがこれまで本ブログで再三述べてきたところです。
アレオレ租税法 〜立案者意思は立法者意思か?
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さて、媒介者交付特例のキモさの根源。この適格者に対する根拠のない信頼感を感じ取ったからだというのが、私自身の分析結果。
適格者であるというだけでお国の組織と同格扱いしちゃうなんて、その感覚キモい!ということかと。
しかも、お国が勝手に信頼しちゃっているだけならともかく。媒介者Bの番号が書かれたインボイスなんて不完全なものでもよいと扱うことで、買手側にも適格者に対する信頼を強要しているわけですよね。
『俺の愛した適格者を、お前も愛せよ。』みたいな話。
ただ、これはあくまでも私の感じたことであって。皆様方もそれぞれキモいとお感じになったポイントがあるのではないでしょうか。
それぞれ、その感覚をお大事になさってください(《感情税法》の世界)。
キモいに関しては以上のとおりですが、この特例についてはもうちょい引っかかる部分があるので、次週に続けます。
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編32)
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