《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
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税制の基本型について、通常は《国×納税者》の二項対立で捉えておけば足ります。
たとえば「法人税」において、売手の売上計上基準と買手と仕入計上基準が異なっていたとしても、どちらかにあわせなければならない、などということはなく。国×売手、国×買手のそれぞれの課税関係が別々に問題になるだけです。
また、二項対立の税制で「特例」といえば、国が損して納税者が得する制度ということになります。売手が特例によって得をしたからといって、それによって買手が損することにはなりません。
他方で、税制の中には《三つ巴》のものがあって。
典型例が「源泉徴収」絡みです。表向きは《国×徴収される者》との間は無関係で、《国×徴収する者》だけに課税関係があることになっています。が、《国×徴収する者》のしわ寄せが《徴収する者×徴収される者》に及ぶことがあり。徴収される者も安穏とはしていられません(なお、そのとき国は高みの見物をしています)。
「消費税法」も同じく三つ巴、というのが私の見立て。
ですが、そこでいう三者は《国×課税事業者×消費者》では決してなく。《国×売手事業者×買手事業者》というのが実相で、インボイスの正式導入によって、その度合はさらに深まったように思います。
「消費者」は、消費税法の世界においては売手事業者の向こう側にいる人で、外部の人どまりです。
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さて、なぜこのような助走をとったかというと。
上述したとおり、通常、税制における「特例」と呼ばれるもの、何かしら納税者側に有利なもののはずです。が、これは二項対立系の税制であればそのとおりなのですが、三つ巴系の税制においては、必ずしもそうとは限りません。
たとえば、《公共交通機関特例》であれば、
・交通機関は少額の旅費にまでインボイスを発行しなくてもすむ(発行義務の免除)
・利用者は少額の旅費にまでインボイスをもらわなくてもすむ(仕入税額控除の緩和)
と、売手・買手双方にとってメリットがあります。
他方で、国はインボイスがないものについても税額控除を認めないといけないので、(ある意味)損をすると。
では《媒介者交付特例》においてはどうなっているでしょうか。
以下、プレーヤーごとにみていきます。
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《想定事例》
A 貸主(委託者)
B 不動産管理会社(受託者・媒介者)
C 借主 10社
事業用の賃貸ビル(オフィスビル)1棟で、借主が10社いると想定してください。
A 貸主(委託者)
原則:C1〜C10に対し、A番号のインボイスを発行しなければならない。
特例:BだけにA番号を通知すればいい。
特例によって圧倒的に楽になります。
B 不動産管理会社(媒介者)
原則:なし
特例:AからA番号の通知を受ける。
B番号のインボイスをCに発行する。
インボイス控えをAに交付し、保存する。
Aが自分でインボイスを発行する場合と比べると、当然手間は増えます。
が、B番号で済むので、自社発行の請求書(仲介手数料とか更新手数料を請求しているやつ)と同じ書式で済ませることができます。
ここまではいいとして、問題は借主Cです。
C 借主
原則:AからA番号のインボイスをもらう。
特例:BからB番号のインボイスをもらう。
これだけ書くと、インボイスをもらう人が入れ替わるだけじゃん、と思うかもしれません。
が、実際にCが税額控除を取るためには、次の確認が必要となります。
原則:
ア Aからもらったインボイスが形式要件を満たすかを確認
イ Aの番号が支払時も有効かを確認
特例:
ア Bからもらったインボイスが形式要件を満たすかを確認
イ Aの番号が支払時に有効かを確認
ウ Bの番号が支払時に有効かを確認
エ AがBに通知をしていたかを確認
実務的に、ここまで実際にやるかどうかは別として。
Aの番号は、インボイスに記載しなくてもいいというだけで、それが有効であることは媒介者交付特例によって仕入税額控除を受けるためには必要な要件です。
媒介者交付特例を受けるかどうかは、売手側(媒介者主導?)によって勝手に決められてしまうことで、買手側で原則どおりAが発行せよと強制できるものではないでしょう。
特例イエについては管理会社Bがきちんとやってくれているはずだ、なんていうのは、まるで保証のない空手形。もちろん、要件満たさず税額控除がとれなかった場合に、ABに損害賠償請求をすることは考えられるでしょうが、対税務署対応ということでいえば、やはりCが自分で確認しなければなりません。
このように、売手・媒介者が楽になるのと引き換えに、そのしわ寄せがもれなく買手側に押し付けられています。
特例といいながら、買手にとっては税額控除の要件が加重されてしまっています。
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また、《公売特例》と比べてみても、《媒介者交付特例》の異様さが際立ちます。
C 買受人
原則:
ア A(債務者)からもらったインボイスが形式要件を満たすかを確認
イ Aの番号が支払時に有効かを確認
特例:
ア B(執行機関)からもらったインボイスが形式要件を満たすかを確認
イ Aの番号が支払時に有効かを確認
《公売特例》の場合には、原則/特例とで、負担が増えることにはなっていません。ただ、A番号を自分で調べないといけないのか、B(執行機関)が教えてくれるのか、実務的には気になるところ。
というか、Aが適格者かどうかが事前にわからなければ、入札価額も決められないんじゃないかと思いますが。
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ちなみに、お国の機関を通した執行手続なんだから、税関で「輸入消費税」を掠め取られるのと同じように、執行機関が消費税を掠め取ることにしちゃってもおかしくないのでは、とも思います。
現行法上、消費税以外の「消費税等」はそういう感じになっているのですが(国税通則法39条、国税徴収法11条)、肝心の消費税については対象から除外されています。随分慎ましいなあと(なお、喩えとして「◯◯と△△ズ」から◯◯が脱退したみたいな、と言おうとしましたが、実名だと差し障りがありそうなので、各自で思い浮かべていただければ)。
【仕入税額控除の要件】
輸入取引:税関が発行した輸入許可書を保存すればよい。
執行手続:執行機関が発行した買受証明書を保存すればよい(ありうる制度構想)。
さすがに、輸入消費税のごとく、売手が消費者・免税事業者であっても構わず徴収する、というわけにはいかないでしょう。なので、執行機関において売手が適格者かどうか確認し、適格者ならインボイス発行、非適格者ならインボイス不発行とすればよいのではないでしょうか。で、インボイス発行したら最優先で消費税を頂いてしまうと。
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このように、消費税法上における各種の「特例」、売手側・買手側双方にとっての優遇措置であるものと、そうでないものが混在していることになっています。
だというのに、巷のインボイス解説本の中には、これら特例を無造作に横並びで扱っているものが大半。実際に使ってみたら(使われてみたら)どうなる?ということを具体的に考えてもいないんでしょう。運営の情報をコピペしているだけ、というのがよく分かります。
インボイス制度の施行が目前に迫っていて、私の個人的な関心事からすれば、大量発生している《インボイス本》に対して何かしらの総括をしておきたいところ。ですが、いまいちまとめきれない。
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