2023年09月11日

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)

 「課税なき控除」が許せない方々、下記の「インボイスいらない特例」はどのようにお思いでしょうか。

 ・古物商
 ・質屋
 ・宅建
 ・再生資源

 以下、「古物商」に代表してもらって検討してみましょう(上記業種をまとめるときは「特定業種」「優遇業種」などといいます)。
 具体例としては、中古車買取業者が自動車を買い取る際に支払明細書を発行する場面を想定してください。

《媒介者交付特例》がキモいのだが(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編32)


 本特例の要件は次のとおり。

【要件】
 1 古物商であること
 2 非適格者からの仕入であること
 3 古物商にとって棚卸資産であること
 4 古物台帳等に記載・保存すること

 上記要件のうち、キモとなるのが2(非適格者からの仕入)です。

 たとえば、「自販機特例」の場合は、自販機を設置した人(売手)が「適格者かどうか」は確認しなくてよいことになっています。そんなもの逐一確認してられるか、ということです。
 「売手は自販機に登録番号を書いておき、買手はそれを書き写せ」くらい言うのかと思ったら、何もいらないと。ではあるものの、買手は帳簿に「相手方の所在地」を記載しなけばならないなどという、冗談みたいな要件が残されています(【追記】令和6年度改正で住所不要ということに)。

 これに対して本特例では、買取業者は「非適格者からの仕入であるかどうか」を確認する必要があります。

 さらに、この特例とは別に、適格者である個人が「家事用資産」を売却した場合は、インボイスを発行できず仕入税額控除の対象外となるため、この点についての確認も必要となります。


 そこで、買取業者がこれらルールを正しく運用するためには、以下の質問事項を用意する必要があります。

 【法人の場合】
  ・ 適格者ですか?
    はい  ⇒インボイスあれば控除可(原則)
    いいえ ⇒インボイスなしで控除可(特例)

 【個人の場合】
  ア 適格者ですか?
    はい  ⇒イ
    いいえ ⇒インボイスなしで控除可(特例)
  イ 事業のみに使っていましたか?
    はい ⇒インボイスあれば控除可(原則)
    いいえ ⇒ウ
  ウ 事業供用の割合を記入してください。
    ◯% ⇒当該割合のみインボイスあれば控除可(原則)

 買取業者がどこまで真面目に実践するかは分かりませんが、上記2つのルールに従うかぎり、ここまでの確認が必要となってしまいます。


 さて、本特例がどのように機能しているかを理解するため、「通常の取引」の場合と比較してみましょう。

 通常の取引の場合の「控除できる/できない」のパターンを並べると、次の通りとなります(家事按分については省略)。

 【通常の取引】
  ・控除できる
   1 法人+適格者+インボイス
   2 個人+適格者+インボイス+事業用資産
  ・控除できない
   3 法人+適格者
   4 個人+適格者
   5 個人+適格者+インボイス+家事用資産
   6 法人+非適格者
   7 個人+非適格者

 3、4は、適格者なのにインボイスを発行しなかった場合や要式を満たさなかった場合です。
 5は、厳密にはインボイスを発行できません。「事業用の場合と同じものを発行したとしても」という意味です。

 これが、本特例が適用されることによって、ポジションが次のとおり移動します。

 【古物商特例】
  ・控除できる
   1 法人+適格者+インボイス(原則)
   2 個人+適格者+インボイス+事業用資産(原則)
   6 法人+非適格者(特例)
   7 個人+非適格者(特例)
  ・控除できない
   3 法人+適格者
   4 個人+適格者
   5 個人+適格者+インボイス+家事用資産

 イケてない適格者グループ(3、4、5)が控除できない側にそのまま残されて、6、7の非適格者が特例によって控除できる側に入れるという、下剋上感あふれる展開に。


 ここまでは制度をそのまま説明しただけなので、次回、それで何が言いたいのか、ということを書きます。

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
posted by ウロ at 09:27| Comment(0) | 消費税法
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