2023年09月18日

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)

 前回は「古物商特例」の要件と機能を、通常の取引の場合と比較して検討しました。

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)

 で、今回が本論です。

 前回の検討結果を貼り付けておきます。

【古物商特例】
  ・控除できる
   1 法人+適格者+インボイス(原則)
   2 個人+適格者+インボイス+事業用資産(原則)
   6 法人+非適格者(特例)
   7 個人+非適格者(特例)
  ・控除できない
   3 法人+適格者
   4 個人+適格者
   5 個人+適格者+インボイス+家事用資産

 以下、次の事例を想定しながら検討します。

【事例】
 A(消費者・非適格者)⇒ B(買取業者・課税事業者) 11000
 B(買取業者・課税事業者)⇒ C(消費者・非適格者) 16500

 Bが、Aから自家用車を11000で買取り、Cに16500で販売したと。

 原則ルールどおりであれば、BはCから預かった消費税「1500」をそのままお国にお返ししなければなりません。当然のことながら、BはAに消費税をお預けしていないので、控除額は0です(以下、わざと「預かり」等の表現をとります)。
 ところが、特例が適用されることにより、Aに預けてもいない1000を控除した「500」だけ納税すればよいことになります。

 これ、どう考えても「課税なき控除」ですよね。インボイスの導入により撲滅しようとしたはずの。1000の「益税」が生じてしまっていますよ。

 なお、Aが「非適格者である課税事業者」ならば課税ありとなります。本ブログにおいては「控除なき課税」が生じているとして散々批判の対象としたところです。が、本特例の場面では、結果的に課税と控除が一致することになります。

 【非適格者である課税事業者Aからの古物買取り】
  A +11000 1000納税 (問答無用の売上課税ルール)
  B -11000 1000控除 (原則控除不可。特例で控除可に)

 問答無用の売上課税ルールと、非適格者からの仕入でも控除できるというイカれたルールが悪魔合体することで《課税=控除》が実現されるという、悪夢のような展開。


 では、誰が益税1000を着服しているか。《免税事業者は消費税をネコババしている》思想からすれば、Aがネコババしていることになりそうです。

 が、今までご自分で何かしら業者に買い取ってもらった経験のある方は、そのときのことを思い出してもらいたいのですが。たとえば「査定価格10万円です」となったとして、そこに消費税を上乗せして支払ってくれたでしょうか。おそらく10万円ポッキリしかもらっていないのでは。
 にもかかわらず、消費税をネコババしているなんて言われるとしたら、とんでもない言いがかりだと感じるのではないでしょうか。

 もちろん、「消費者」として買い取ってもらったのなら、消費税をもらっていないというのはそのとおりです。買取業者の側からすれば、消費者には消費税を支払っていないということです。
 支払っていないのに控除できるのだとしたら、買取業者のほうがネコババしていることにならないでしょうか。

 では、「法人」「個人事業」として買い取ってもらった場合はどうかというと、やはり消費税込みの価格で買い取られたんじゃないでしょうか。「思ったほど売却益上がらないなあ。」と感じるとしたら、それは消費税込みでしかもらっていないからです(消費税分目減りしている)。

 というか、そもそも「事業/家事」いずれで売るか、課税事業者かどうかなんて、買取の際に確認していなかったんじゃないですか。誰が売手であろうと、一律で税込での買取をしていたかと。

 そうすると、古物商取引において益税を得ているのは、買手である古物商のほうなのではないでしょうか(もちろん場合によりますが、それは免税事業者が益税を得ているとは限らない、というのと同じ話です)。


 「家事用資産」の場合、適格者からの買取りだと控除されないが、非適格者からの買取りなら控除されることになります。これ、どうにもバランス感覚がおかしくなる。家事用資産は事業じゃないから控除できないとしておきながら、非適格者からなら家事用資産でも控除できると。

 ・原則:家事用資産→インボイス発行できない→控除できない
 ・特例:非適格者→インボイス発行しなくていい→控除できる

 以前検討した《媒介者交付特例》については、キモいという感想を抱いたものの、あくまでも売手が「適格者」であるというラインを超えることはありませんでした。

《媒介者交付特例》がキモいのだが(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編30)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編32)

 ところが、本特例は、売手が「非適格者」であれば控除できる、他方で「適格者」であってもイケてないパターン(345)は控除できない、という逆転現象を生じさせてしまっています。

 売手が個人で、課税「あり/なし」と控除「あり/なし」のパターンを並べてみます(法人は省略)。
 ここでも、通常の取引と古物商特例を対比させます。

 【通常の取引】
  ・課税あり×控除あり
    2 個人+適格者+インボイス+事業用資産
  ・課税なし×控除なし
    5 個人+適格者+インボイス+家事用資産
  ・課税なし×控除あり ←納税者有利
    無し
  ・課税あり×控除なし ←課税側有利
    4 個人+適格者
    7 個人+非適格者

 インボイス制度の導入によって、「課税なし×控除あり」のパターンを撲滅することができました。
 適格者がインボイスを発行すれば控除できる、それ以外は控除できない、というきれいなルールとなっています(5のインボイスは偽インボイスです)。

 【古物商特例】
  ・課税あり×控除あり
    2 個人+適格者+インボイス+事業用資産
    7a 個人+非適格者(課税事業者)(特例)
  ・課税なし×控除なし
    5 個人+適格者+インボイス+家事用資産
  ・課税なし×控除あり ←納税者有利
    7b 個人+非適格者(免税事業者)(特例)
    7c 個人+非適格者(消費者)(特例)
  ・課税あり×控除なし ←課税側有利
    4 個人+適格者

 特例の適用により、7が3つ(課税事業者・免税事業者・消費者)に分裂して、「控除あり」に編入されることに。このうち、課税事業者(7a)は課税=控除となることから、結果としては問題ないです(上述した悪魔合体)。

 問題なのが免税事業者(7b)と消費者(7c)。インボイス制度によって撲滅したはずの「課税なし×控除あり」を復活させてしまっています。
 

 免税事業者に対しては、あたかも親の仇のごとく徹底的に潰しにかかっていたというのに。なぜに特定業種に対しては「スンッ」て感じでスルーしているのか。
 弱小免税事業者との取引により生じる益税と、特例業種との取引により生じる益税とで、一方は撲滅、他方は温存とするほどの違いは何なんでしょうか。「平等」という観点からすれば、「規模」で線引きするよりも「業種」で線引きするほうが筋が悪いはずなんですが、なぜ、前者が駄目で後者は良いとなるのか。

  免税事業者(益税)⇒消費者  「許せない!!」
  消費者⇒買取業者(益税)   「・・・・・。」

 「滅せよ免税事業者!」を唱えるのはいいのですが、これら矛盾について、どのように折り合いをつけているのか、ぜひご教示いただきたいところ。私のような野良税理士には思いつかないような、鮮やかな理由付けがあるのでしょうか。

 もちろん、何かしらの政策的な理由があっての特例なのでしょう。が、それがどのような理由にせよ、何かしらの理由付けさえあれば「課税なき控除」を正面から認めてもいいというのであれば、あれほどまでに頑なな、免税事業者排斥運動はなんだったのでしょうか。

 さすがに、買取業者が「インボイスの施行にともない『販売価格』に消費税を乗せさせていただきます(が『買取価格』は税込のまま)。」とか言い出したら、免税事業者に向けていた憎悪をこちらに向けてくれますよね。

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)
posted by ウロ at 10:49| Comment(0) | 消費税法
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