ざっくりレベルで交通整理だけしておきます(条文は8割特例のみ)。中身はかなりの生煮え状態です。
・
条文(平成27年法附則38条)の書きぶりからは、「旧30条では控除できていたのに、新30条では控除できなくなる場合」を対象としているように読み取れます。
では、具体的に、以下の者からの課税仕入のどこまでがこれにあたるでしょうか(インボイスなしでも区分記載請求書は発行されているものとします)。
1 消費者
2 免税事業者
3 課税事業者(非適格者)
これらはあたるということで問題ないですよね。運営謹製「Q&A」にもまんまそのとおり記載されています。
が、お得意の「等」が入っていないことから、この3つしかないと考えているのかどうか。
インボイス制度に関するQ&A(国税庁)
免税事業者からの仕入れに係る経過措置(P137)
「適格請求書等保存方式の下では、適格請求書発行事業者以外の者(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入れについては、仕入税額控除のために保存が必要な請求書等の交付を受けることができないことから、仕入税額控除を行うことができません(新消法30F)。
ただし、適格請求書等保存方式開始から一定期間は、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています(28年改正法附則52、53)。」
4 事業者向け電気通信利用役務の提供者
「特定課税仕入」は課税仕入とは別枠なので対象外です。
5 課税事業者(適格者)+インボイス
6 消費者向け電気通信利用役務の提供者(登録あり)+インボイス
こちらは新30条の適用ありなので対象外となります。
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ここまではストレートに結論導けるのですが、問題はここから。
7 消費者向け電気通信利用役務の提供者(未登録)
旧30条だけみれば適用できることになるので、対象となるでしょうか。
あるいは、平成27年法附則38条もあわせて読めば旧30条の適用が除外されることになるから、対象外となるでしょうか。
政令(平成30年令附則24条)には結論が書いちゃってあるのですが、これが法律の解釈から出てくるものなのかどうか。
8 課税事業者(適格者) インボイスなし
適格者がインボイスを発行してくれず、従前の区分記載請求書の形式のままだった場合です。
この場合も旧30条なら適用されていたとして対象となるでしょうか。
運営の「Q&A」は意識的にこの場合を除外しているように読めますが、果たして条文解釈としてそのような結論が導き出せるでしょうか。
というのも、たとえば《古物商特例》などは明確に適格者からの買取りを除外しているわけですが、8割特例についてはそれが読み取れない。新30条は「インボイスに記載された消費税額を控除できる」と書いてあるだけなので、適格者が区分記載請求書しか発行してくれない場合は新30条が適用されない⇒8割特例適用ありとなってしまうように読めてしまいます(読み込みが甘い?)。
運営の「Q&A」及びそれを母体とするこの世の全ての「インボイス解説本」では、8割特例の適用範囲が「誰から仕入れたか」で規律されているかのように記述しているものと思われます。が、現実の条文は、誰から仕入れたかにかかわらず「旧適用あり⇒新適用なし」かどうかで判定することになっています。
どこでこんな認識のズレが生じてしまったのでしょうか。ちなみに、条文見出しはただの飾りです。
9 消費者向け電気通信利用役務の提供者(登録あり) 登録番号記載なし
登録しているのに請求書に「登録番号」を記載してくれなかったが、区分記載請求書の要式は満たしていた場合です(ためにする事例)。
この場合、旧30条だけみれば対象となりそうですが、7と同様、平成27年法附則38条と合わせて一本で旧30条の適用が除外されるから、対象外となるでしょうか。
・
一覧にすると以下のとおり。
「旧30◯⇒新30×」となる場合が対象となるはずで、123が対象の典型例、456が対象外の典型例となります。789がはっきりしないという状況です。
旧30 附則 ⇒ 新30
1 ◯ × 対象
2 ◯ × 対象
3 ◯ × 対象
4 − − 対象外
5 ◯ ◯ 対象外
6 ◯ ◯ ◯ 対象外
7 ◯ × × 対象外?
8 ◯ × 対象?
9 ◯ × × 対象外?
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版補遺
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版余滴
◯旧法
(仕入れに係る消費税額の控除)
第三十条 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この条及び第三十二条から第三十六条までにおいて同じ。)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる課税標準額に対する消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る支払対価の額に百十分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)、当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額(当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この章において同じ。)につき課された又は課されるべき消費税額(附帯税の額に相当する額を除く。次項において同じ。)の合計額を控除する。
附 則 (平成二七年三月三一日法律第九号)
(国外事業者から受けた電気通信利用役務の提供に係る税額控除に関する経過措置)
第三十八条 事業者が、新消費税法適用日以後に国内において行った課税仕入れのうち国外事業者(新消費税法第二条第一項第四号の二に規定する国外事業者をいう。以下附則第四十条までにおいて同じ。)から受けた電気通信利用役務の提供(同項第八号の三に規定する電気通信利用役務の提供をいい、同項第八号の四に規定する事業者向け電気通信利用役務の提供に該当するものを除く。以下この条及び次条において同じ。)に係るものについては、当分の間、新消費税法第三十条から第三十六条までの規定は、適用しない。ただし、当該国外事業者のうち登録国外事業者(次条第一項の規定により登録を受けた事業者をいう。以下附則第四十条までにおいて同じ。)に該当する者から受けた電気通信利用役務の提供については、この限りでない。
◯新法
(仕入れに係る消費税額の控除)
第三十条 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この条及び第三十二条から第三十六条までにおいて同じ。)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る適格請求書(第五十七条の四第一項に規定する適格請求書をいう。第九項において同じ。)又は適格簡易請求書(第五十七条の四第二項に規定する適格簡易請求書をいう。第九項において同じ。)の記載事項を基礎として計算した金額その他の政令で定めるところにより計算した金額をいう。以下この章において同じ。)、当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額(当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この章において同じ。)につき課された又は課されるべき消費税額(附帯税の額に相当する額を除く。次項において同じ。)の合計額を控除する。
附 則 (平成二八年三月三一日法律第一五号)
(適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入れに係る税額控除に関する経過措置)
第五十二条 事業者(新消費税法第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。以下この条及び次条において同じ。)が、五年施行日から五年施行日以後三年を経過する日(同条第一項において「適用期限」という。)までの間に国内において行った課税仕入れ(新消費税法第三十条第一項の規定の適用を受けるものを除く。次条第一項において同じ。)のうち、五年改正規定による改正前の消費税法(以下この条及び次条において「旧消費税法」という。)第三十条の規定がなお効力を有するものとしたならば同条第一項の規定の適用を受けるものについては、同条第九項に規定する請求書等又は当該請求書等に記載すべき事項に係る電磁的記録(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(平成十年法律第二十五号)第二条第三号に規定する電磁的記録をいう。次項並びに次条第一項及び第二項において同じ。)を新消費税法第三十条第九項に規定する請求書等とみなし、かつ、当該課税仕入れに係る支払対価の額(同条第八項第一号ニに規定する課税仕入れに係る支払対価の額をいう。次条第一項及び附則第五十三条の二において同じ。)に百十分の七・八(当該課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等(新消費税法第二条第一項第九号の二に規定する軽減対象課税資産の譲渡等をいい、消費税法第七条第一項、第五条の規定による改正後の同法第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。第三項及び次条第一項において同じ。)に係るものである場合には、百八分の六・二四)を乗じて算出した金額に百分の八十を乗じて算出した金額を新消費税法第三十条第一項に規定する課税仕入れに係る消費税額とみなして、同条の規定を適用する。この場合において、同条第八項第一号ハ中「である旨)」とあるのは、「である旨)及び所得税法等の一部を改正する法律(平成二十八年法律第十五号)附則第五十二条第一項の規定の適用を受ける課税仕入れである旨」とする。
附 則(平成三〇年三月三一日政令第一三五号)
(国外事業者から受ける電気通信利用役務の提供に係る税額控除に関する経過措置)
第二十四条 事業者が、五年施行日から令和十一年九月三十日までの間に国内において行った課税仕入れのうち、二十八年改正法第十八条の規定による改正前の二十七年改正法附則第三十八条第一項本文の規定がなお効力を有するものとしたならば同項本文の規定の適用を受けるものについては、二十八年改正法附則第五十二条及び第五十三条の規定は、適用しない。
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