2025年06月30日

インボイス百景(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編62)

 条文を読んだことのない非専門家と、条文を読んだことのない専門家(?)が、《僕の考えた消費税》をぶつけ合うという、神々の争いって感じの景色は、このところ目にしなくなってきました。

 《税務お役立ち記事》のたぐいも、インボイスに関する記事なんて、もうほとんど作成されていないのではないでしょうか。

 「専門家のくせに消費税法の条文も読めないのかよ」などというつもりは毛頭なく。
 日本の消費税法なんて、消費税法を専門とする学者先生ですら奇妙なことを言い出してしまうような、特級呪物のたぐいであって。
 バミューダトライアングル的な、人の理解を狂わせる何かが働いていると思わざるをえない。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
「判例解説」の解説という禁忌(新・判例解説Watch 租税法 No.169(TKCローライブラリー))

 私の見立てでは、あたかも消費税が商流の上流から下流まで綺麗に流れていくかのようなイメージを持たせておきながら、実際の制度は、売上課税ルールと仕入控除ルールとが別原理で作動している、というギャップに、常人の理解がついていけていないから、ではないかと思っているのですが。

 が、人様を揶揄ばかりしていると「人を呪わば穴二つ」とばかりに足を掬われることもありえて。

【人を呪わば穴二つ】
眞鍋淳也「税務調査は弁護士に相談しなさい」(ディスカバー2024)
使途不明金と使途秘匿金 〜だから違うっつんてんだろ!

 ということで、以下、現実の消費税法が、売上課税ルールと仕入控除ルールをどのように作動させているか、まとめておくこととします。


 まず先に結論としての一覧表を示しておきます。

The map of INV.png


 個々の説明は次回以降で順繰りにしていきます。ここでは、インボイスによって「課税=控除」を実現しようとしたはずなのに、表でいう「あり・なし(右上)=損税」と「なし・あり(左下)=益税」に結構な数の取引類型が残っていることだけ分かっていただければ。

 インボイス推進派の皆さんが撲滅しようとした「益税ネコババ野郎」というのは、右下の「免税事業者×:課税(本則)×」となっているものです(これ一つだけ)。旧制度では「免税事業者×:課税(本則)◯」と、表でいう左下にあったものが、控除不可となって右下に移動したことになります。

 これだけのためにインボイスなどという大掛かりな制度を導入しておきながら(牛刀をもって鶏を割く)、それ以外の「あり・なし(損税)」「なし・あり(益税)」については放置しているというのが現状の制度です。


 インボイス制度の表面的な説明を聞く限りでは、「確かにインボイスは消費税制度本来の在り方だな」と思うのは分かります。インボイスによって、下記のような課税制度が実現するんだと。

妄想インボイス.png


 消費者だけが消費税を負担し、それ以外の誰もが損も得もしない世界。

 が、現実は最初の表のとおりであって。本気で「課税=控除」を実現する気があるとは思えません。
 「インボイスは消費税本来の在り方」などと言うのは、あくまでも理想としてのインボイス制度を念頭においたうえでのお話し(テイルズ、ナラティブ)に留まります。

 施行されてしまった以上、実務家としては粛々と処理を進めていかなければならないのはそのとおりなのですが。だからといって、「インボイスは正しい!」などと、物語を信じ込む必要はどこにもない。


 この表では「簡易課税」を除いてあります。
 免税事業者亡き後(リビング・デッド)、次に「益税ネコババ野郎」呼ばわりされるのは簡易課税事業者なわけですが。この表に反映しようとするとさらに汚いものになってしまうため、除外しておきました。
 その他、輸出/輸入やリバースチャージといった国外絡みの規律、「経過措置」のような期間限定ものも省略してあります。

 これらを含めれば、本当に「百景」になるのかもしれません。


 次回以降の記事では、買手を軸にした形で、それぞれの取引類型で売上課税・仕入控除がどうなっているかを検討していくこととします。
 プレイヤーとしては次の者を登場させます(国外絡みは省略)。

 1 消費者
 2 免税事業者
 3 課税(本則)適格,INV有
 4 課税(本則)適格,INV無
 5 課税(本則)非適格
 6 課税(簡易)適格,INV有
 7 課税(簡易)適格,INV無
 8 課税(簡易)非適格

 略語の説明は次の通り。
・適格/非適格
 課税事業者が、登録している場合は適格/していない場合は非適格
・INV有/無
 適格者が、インボイスを発行した場合は有/していない場合は無

 なお、インボイス施行前であれば、プレイヤーは以下の者だけで収まっていました。

 1 消費者
 2 免税事業者
 3 課税(本則)
 4 課税(簡易)

 課税事業者を、適格/非適格、INV有/無で分岐させなければならなくなったということです。


 また、「仕入控除×」の中には、厳密には30条1項で×なものと、同条2項以下で×なものが含まれています。

 「規範論」「構造論」として記述する場合は、意味合いが異なるため分ける必要があります。が、ここではあくまでも「類型論」として記述していきますので、控除不可という帰結に着目したかたちでまとめることとしました。


 なお、言うまでもないことですが、通達・Q&A・FAQによる「差し支えない」系ルールについては、当然のごとく無視します。

インボイス百景(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編63)
posted by ウロ at 12:28| Comment(0) | 消費税法
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