2023年09月25日

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)

 そもそもの話として、インボイス制度施行前における古物商等の取引がどのように扱われているのか、調べようと思ったのですが。

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)

 運営謹製「Q&A」服従型のインボイス解説本はもちろんのこと、消費税全体を論じた下記のような本ですら、インボイス制度施行前における古物商等の取引の取り扱いについて、何の記述もされていませんでした。

熊王征秀「消費税法講義録 第4版」(中央経済社2023)

 ただ単に、Q&Aの該当箇所をトレースしているだけで。改正前と比べてどこがどう変わったのかなんてことは、解説してくれません。


 では、過去に出版された本の中で、取り扱いが記述されているものがあるかというと。

 私の手元にあるものだと、いにしえの消費税解説本の中で、平成9年に日税連が(国税庁お墨付きで)示した『見解』の中に出てきているものを引用したのが見つかりました。

 この『見解』が現在に至るまで生きていたと仮定して、私なりに敷衍してみると次のように整理できそうです。

【消費者から買い取った場合の仕入税額控除の扱いについて】

1 インボイス前

《通常の取引》
 ア 課税仕入:消費者からの買取も該当(法2条1項12号)
 イ 税額控除:請求書がなくても控除可
 ウ 請求書: 3万円未満→少額だから不要(法30条7項、令49条1項1号)
        3万円以上→やむを得ない理由があるから不要(法30条7項、令49条1項2号)
 エ 帳簿:  氏名・住所を省略できる(令49条2項)

《古物商取引》
 ア 課税仕入:消費者からの買取も該当(法2条1項12号)
 イ 税額控除:請求書がなくても控除可
 ウ 請求書: 3万円未満→少額だから不要(法30条7項、令49条1項1号)
        3万円以上→やむを得ない理由があるから不要(法30条7項、令49条1項2号)
 エ 帳簿:  氏名・住所を省略できる(令49条2項)
        「買取台帳」を帳簿とすることができる(『見解』)

 アイウまではどちらも同じで、帳簿のところだけ、ほんのり便宜をはかってもらっているくらいの違いしかありません。
 これがインボイス後には、次のように変容します。

2 インボイス後

《通常の取引》
 ア 課税仕入:消費者からの買取も該当(法2条1項12号)
 イ 税額控除:インボイスがないので控除不可(法30条1項)
 ウ 請求書: 困難ではない(法30条7項)
 エ 帳簿:  ×××

《古物商取引》
 ア 課税仕入:消費者からの買取も該当(法2条1項12号)
 イ 税額控除:インボイスがなくても控除可
 ウ 請求書: 困難だから保存不要(法30条7項、令49条1項1号ハ)
 エ 帳簿:  1万円未満→氏名・住所を省略できる(令49条2項、告示)
        1万円以上→省略不可(告示)
        「古物台帳」を帳簿とすることができる(Q&A)

 通常の取引のウ 請求書に「困難ではない」とあるの、何となく違和感があるかもしれません。消費者からインボイスをもらうの、いかなる場合でも「困難である」(というか不可能)といえるのではないのかと。

 が、法30条7項+令49条1項の書きぶりからすると、
  古物商取引はインボイスをもらうのが「困難である場合」だから、控除可とする
  通常の取引はインボイスをもらうのが「困難である場合」でないから、控除不可とする
という建付けになっていると理解せざるをえないと思われます。

 また、エ 帳簿の「1万円以上未満/以上」という区分、消費税法本体に記述されているものではなく。
 国税庁告示が古物営業法の規律を引っ張ってきているせいで、こういう区分になっています。インボイス前の「3万円未満/以上」とは全く出自が異なるものです。

 「古物台帳」を消費税法上の「帳簿」とすることができるという点については、法令には定めはなく。おそらくですが、告示がいう「業務帳簿に記載しなくてよいなら氏名省略できる」というのを裏読みして導いたものだと思われます。
 例によって、Q&Aには結論しか書いておらず。そのような解釈プロセスが明示されることはありません。


 というように、インボイス前は、通常の取引も古物商取引も、ほとんど同じルールのもとで仕入税額控除ができていました。

 が、インボイス後になり、通常の取引の場合は全面的に控除不可となったにもかかわらず、古物商取引については、なぜかほとんど無傷で控除可のままとなっております。

 同じ「益税」を享受する者であるにもかかわらず、古物商等の特定業種だけが、なぜ益税を享受できるままとなったのでしょうか。
 何度も繰り返し述べているとおり、免税事業者排斥運動を繰り広げてきた人々の関心が、なぜこれら特定業種のほうへは向かわなかったのかも謎です。

 やはり、運営側のプロパガンダがお上手すぎた、ということなのかどうか。

※注意書き
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)
posted by ウロ at 09:11| Comment(0) | 消費税法
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