2023年10月02日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編36)

 タイトルほどには大層なものではなく。
 Q&Aなどでは横並びで記述されがちな《インボイスいらない特例》について、条文の書きぶりを確認しようというものです。

 まずは、インボイス施行前がどうだったかを分析し、次回でインボイス施行後の姿を分析します(個々の条文引用はしませんので、各自でご確認ください)。


 まず、(旧)法30条7項で、仕入税額控除にあたっては、帳簿及び請求書等(以下、等は略します)の保存が必要であることが規定されています(以下、「旧」は省略)。ただ、同項の括弧書きのなかで、
 ・少額
 ・特定課税仕入れ
 ・その他の政令で定める場合
は、帳簿のみ保存でよいとされています。

 法30条7項
  原則:帳簿及び請求書 保存必要
  例外:帳簿のみ保存必要。
     少額、特定課税仕入、その他の政令で定める場合 →令49条1項


 委任を受けた令49条1項では、次のものを帳簿のみ保存でOKとしています。

 令49条1項
 一 3万円未満
 二 3万円以上 交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるとき →通11-6-3
         原則:帳簿にやむを得ない理由+「住所」を記載
         例外:帳簿にやむを得ない理由のみ記載。「住所」を省略できる
            国税庁指定 →通11-6-4
 三 特定課税仕入


 3万円未満は無条件でOK、3万円以上は帳簿に「やむを得ない理由」と仕入先の「住所」を追記する必要があると(特定課税仕入は以下省略)。
 また、国税庁長官の指定がある者からの仕入の場合は、「住所」の追記は不要とされています。


 なお、法の「その他の」の使い方に若干の違和感があります。
 というのも、通常「その他の」を使う場合は、『警察、消防その他の公的機関』のように、何かしら共通の性質をもつものを包含する関係になっていることが多いからです。が、令の1号〜3号を見れば分かるように、ここでは単に請求書不要の場合が寄せ集められているだけで、『公的機関』のような共通項が見いだせません。
 強いて言えば、「その他の政令で定める場合」の『場合』が共通項だということになります。

 もちろん、単に違和感があるというだけで、間違っているわけではありませんが。


 「やむを得ない理由」の中身について、政令には記載がなく、通達11-6-3が勝手に中身を敷衍しています。
 「勝手に」というのは、住所省略できる場合の通達11-6-4とは異なり、政令が正面から委任していないからです。

 で、「やむを得ない理由」の中身についての通達から先に触れると、次の通りとなっています。

 通11-6-3 交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるとき
  1 自販機
  2 入場券(回収される)
  3 交付請求したが、受けられなかった
  4 確定していない
  5 その他これらに準ずる理由


 政令なり省令に編成されていてもおかしくない中身ですが、通達のままで役割を終えました。

 次に、帳簿の「住所」を省略できるのは、次の場合となります。

 通11-6-4 帳簿の「住所」を省略できる場合(国税庁指定)
  1 汽車、電車、乗合自動車、船舶又は航空機
    一般乗合旅客自動車運送事業者・航空運送事業者
  2 郵便役務
    郵便役務提供者
  3 出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当
    使用人等
  4 再生資源卸売業+準ずるもの(不特定かつ多数)
    買取の相手方


 この通達で、いまいちしっくりこない点がふたつ。

 ひとつは、通達11-6-4に列挙されているのは、「やむを得ない理由」がある場合であることが前提になっているはずです。が、これらは11-6-3の「やむを得ない理由」には列挙されていません。
 これらは、5の「準ずる理由」に含まれていると読めばよいのでしょうか。

 もうひとつは、1であがっている「者」が乗合自動車と航空だけで、汽車・電車と船舶に対応する「者」が抜けている点です。なんか私が見落としているだけでしょうか。


 これらとは別ラインで、帳簿の記載事項についての例外規定があります。

 まず、原則が30条8項です。

  法30条 8項
  帳簿の記載事項 原則:仕入先の「氏名」を記載する


 この「氏名」についての例外が令49条2項と3項に規定されています。

  令49条2項
   例外:再生資源卸売業+準ずるもの(不特定かつ多数) 帳簿の「氏名」を省略できる
  令49条3項
   例外:帳簿の「氏名」を媒介者等とすることができる


 2項は省略できる規定、3項は置換できる規定となっています(置換は以下略)。

 通達11-6-4の4と令49条2項のどちらが先なのかまでは調べていませんが(同時?)、再生資源卸売業等だけが、氏名省略と住所省略の両方に含まれていることになっています。


 さて、これら規律を単純にまとめると次のようになります。
 ◯は記載必要、×は記載不要です。

  帳簿のみ  理由 住所 氏名
  自販機   ◯  ◯  ◯
  入場券   ◯  ◯  ◯
  不交付   ◯  ◯  ◯
  未確定   ◯  ◯  ◯
  準ずる   ◯  ◯  ◯
  電車等   ◯  ×  ◯
  郵便役務  ◯  ×  ◯
  出張等   ◯  ×  ◯
  再生資源等 ◯  ×  ×

 再生資源等だけが住所・氏名とも省略可能ということになっています。
 が、実務的な感覚からすれば、その他に関してももっと緩めだったのでは、という感じがするのではないでしょうか。

 「やむを得ない理由」そのものについては通達11-6-3がオープンな書きぶりになっているので、広げて読むことも可能です。他方で、(政令委任ありの)「住所」省略規定(通達11-6-4)と、「氏名」省略規定(令49条2項)については限定列挙になっているため、こちらは融通無碍に拡張することは困難です。

 にしても、《請求書いらない特例》の要件の根幹たる「やむを得ない理由」の中身について、法令が何らの定めもしておらず、通達に勝手に規定されるがままだったということであり。インボイス前の仕入税額控除制度、ずいぶん緩やかな体制だったということが分かるのではないでしょうか。


 というように、《請求書いらない特例》は法律、政令、通達が渾然一体となって一連のルールを形成しているのであって。正確な理解をするには、ひとつひとつ紐解く必要があります。

 次回、これと同じノリでインボイス施行後の《インボイスいらない特例》を検討します。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編37)
posted by ウロ at 09:33| Comment(0) | 消費税法
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