条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編36)
※令和6年3月30日に、R5告示第26号→R6告示第10号に改正入っていますが、従前のまま記述します。
消費税法施行令第49条第1項第1号に規定する国税庁長官が指定する者を定める件の一部を改正する件
◯
帳簿及び請求書等が必要だという法30条7項の原則自体は同じです。ただ、請求書等の中身が1項に従い「インボイス」になりました。
法30条7項
原則:帳簿及び請求書等
例外:帳簿のみ。困難、特定課税仕入、その他の政令で定める場合 →令49条1項
大幅に変わったのが「帳簿のみでOK」の例外規定のほうです。
従前の「少額・特定課税仕入・その他の政令で定める場合」が「困難・特定課税仕入・その他の政令で定める場合」となりました。
これだけだとそこまで大きな変化ではないと思うかもしれません。が、委任を受けた令49条1項もあわせてみていただくと、お分かりいただけるかと。
令49条1項 帳簿のみの保存でよい場合
一 次の課税仕入
イ 船舶、バス、電車・軌道(3万円未満)
ロ 入場券(簡易インボイス回収される)
ハ 下記の者が適格者以外から棚卸資産として買い取った場合
1 古物商 古物
2 質屋営業 質物
3 宅建業 建物
4 再生資源業 再生資源
ニ 請求書を受けることが困難として財務省令で定める場合 →規15の4
原則:帳簿に困難な事情+「住所」を記載する
例外:帳簿に困難な事情のみ記載。「住所」を省略できる 国税庁指定 →告示26
ニ 特定課税仕入
規15条の4 請求書を受けることが困難な場合
一 自販機(3万円未満)、郵便ポスト
ニ 出張・転居 通常必要(非課税部分に限る) 使用人等
三 通勤手当 通常必要(非課税部分に限られない) 通勤者
旧政令では、「やむを得ない理由」の中身を何も規定せず、旧通達11-6-3が勝手に充填していました。
これが新政令では、政令自身で規定+省令(規15条の4)に委任という体制になりました。いずれも限定列挙として記述されているので、「困難である場合」を勝手に広げることはもはやできません。
たとえば、「適格者なのにインボイスを交付してくれない」という場合、旧通達なら「やむを得ない理由」ありとなったところですが、インボイス制度のもとでは「困難である場合」には当たらないということになってしまいます。
なお、1号のイロハが「困難である場合」を列挙しているのか、それとも困難である場合とは別の「その他の」ものとして列挙しているのか、はっきりしません。が、同号ニが「イからハまでに掲げるもののほか」と書かれていることから、イロハも「困難である場合」を列挙していると理解しておきます。
・
他方、「住所」省略規定については、引き続き国税庁長官の指定に委ねることになっています。
なんでかはよく分かりませんが、基本通達へは編成せず、単独の告示(国税庁告示R5第26号)として出されています。
告示26号 困難である場合で帳簿の「住所」の記載を省略できる場合
一 船舶、バス、電車・軌道(3万円未満)
二 郵便ポスト
三 出張・転居、通勤手当
四 古物商、質屋、宅建(業務帳簿に氏名・住所を記載しなくてよい場合に限る)
四 再生資源(事業者以外からの買取に限る)
なお、「告示」の法源性については、興津征雄先生の丁寧な解説をご参照ください。
興津征雄「行政法I 行政法総論」(新世社2023)
告示26号については、通達に組み込まれていた旧法時代からすでに法源性を有していたのか、それとも新法で告示として独り立ちした時点から法源性を備えたのか。どちらなのかよく分かりませんが、わざわざ告示として独立させたというのは、法源性を明確にするためなんでしょうかね。
旧:政令⇒旧通達11-6-4
新:政令⇒告示
・
帳簿の記載事項についての例外規定が別ラインなのは従前どおりです。もちろん、中身は変容しています。
まず、原則部分については法30条8項が定めています。
法30条8項 帳簿の記載事項
原則:仕入先の「氏名」を記載する
この「氏名」についての例外が令49条2項と3項に規定されています。
令49条2項
例外:告示26号のうち不特定かつ多数 帳簿の「氏名」を省略できる
令49条3項
例外:卸売市場、媒介者、執行機関の「氏名」とすることができる
2項は省略できる規定、3項は置換できる規定となっています。
3項について、以前検討したとおり、《媒介者交付特例》は専ら売手側の特例であって。買手にとってはただ置き換わるだけのもの止まりです。
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編30)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編32)
2項では、「住所」省略規定である告示26号をお借りしているのですが、「不特定かつ多数」という絞りがかかっているので、古物商等や再生資源が該当することになります。
◯
ということで、以上の規律をそのまままとめると次の通り。
◯は記載必要、×は記載不要です。
帳簿のみ 理由 住所 氏名
交通機関 ◯ × ◯
入場券 ◯ ◯ ◯
古物商等 ◯ △ △
再生資源 ◯ △ △
自販機 ◯ ◯ ◯
郵便ポスト ◯ × ◯
出張等 ◯ × ◯
△とあるのは、省略できる場合とできない場合があるということです。
氏名省略までできるのは、古物商等と再生資源(の一部)だけとなります。
なお、Q&Aをみるとあたかも、入場券は「入場券等」とだけ追加すればよい、自販機の場合は「◯◯市 自販機」と住所まで追加する必要がある、と書いてあるように読めてしまいます。
が、これはそれぞれ、「理由」の記載例と「住所」の記載例を別々にあげてあるだけです。入場券の場合も住所を追加する必要があるわけですが、ここの記述だけでは読み取りづらい。
言わずもがな、自販機の場合も、原則どおり仕入先の「氏名」を記載する必要があるわけですが、立案者的には、これをどうやって遵守してもらうつもりなのでしょうか。
◯
ということで、次回、インボイス前後の構造の変化についてみていきます。
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編38)
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