2023年10月16日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編38)

 前2回で検討したインボイス前後の《請求書いらない特例》の条文構造について、比較をしてみます。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編36)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編37)

 あくまでも構造分析で、中身には深く立ち入りません。

※令和6年3月30日に、R5告示第26号→R6告示第10号に改正入っていますが、従前のまま記述します。
消費税法施行令第49条第1項第1号に規定する国税庁長官が指定する者を定める件の一部を改正する件

【請求書いらない特例(インボイス前)】
 ア 請求書不要+住所必要 令49条1項
 イ やむを得ない理由   通11-6-3(委任なし)
 ウ 住所省略できる    令49条1項→通11-6-4(委任あり)
 エ 氏名省略できる    令49条2項

【請求書いらない特例(インボイス後)】
 ア 請求書不要+住所必要 令49条1項
 イ 困難である場合    令49条1項+規15の4
 ウ 住所省略できる    令49条1項→告示26(委任あり)
 エ 氏名省略できる    令49条2項→告示26(委任あり)
 ※通11-6-3は廃止、通11-6-4は告示26へ移行。


 一見して違いが分かるのがイです。
 請求書を不要にできる場合について、従前は通達だけに規定されっぱなしだったものを、政令・省令に取り込んだことになります。ただ、政令に列挙されている「場合」と省令に列挙されている「場合」とで、何か質的な違いがあるのかどうかは、よく分からないところですが。

 結果、インボイス後は政令及び明示の委任の範囲内で一連のルールがカバーされたことになります。
 もちろん、細かい解釈通達は残っています。が、インボイス前のように、政令の委任も無しに「やむを得ない理由」の中身を通達が勝手に定めるなどという、ド派手なものはなくなりました。


 次に帰結の違いです(記載必要◯、記載不要×)。

【請求書いらない特例(インボイス前)】
  帳簿のみ  理由 住所 氏名
  自販機   ◯  ◯  ◯  通11-6-3
  入場券   ◯  ◯  ◯  通11-6-3
  不交付   ◯  ◯  ◯  通11-6-3
  未確定   ◯  ◯  ◯  通11-6-3
  準ずる理由 ◯  ◯  ◯  通11-6-3
  電車等   ◯  ×  ◯       令49条1項→通11-6-4
  郵便役務  ◯  ×  ◯       令49条1項→通11-6-4
  出張等   ◯  ×  ◯       令49条1項→通11-6-4
  再生資源等 ◯  ×  ×       令49条1項→通11-6-4、令49条2項


 電車等以下については、「やむを得ない理由」として個別に列挙されていません。記載事項省略ルールの中だけに出てきます。これについては「準ずる理由」に含まれるという理解を示しておきました。
 「準ずる理由」というオープンな規定があるおかげで、請求書不要となる理由を広範に取り込むことが可能になっていたわけです。

 また、住所省略ルールと氏名省略ルールとは、別々の規律として規定されていました。

【請求書いらない特例(インボイス後)】
  帳簿のみ  理由 住所 氏名
  交通機関  ◯  ×  ◯  令49条1項、令49条1項→告示26
  入場券   ◯  ◯  ◯  令49条1項
  古物商等  ◯  △  △  令49条1項、令49条1項・2項→告示26
  再生資源  ◯  △  △  令49条1項、令49条1項・2項→告示26
  自販機   ◯  ◯  ◯  規15の4
  郵便ポスト ◯  ×  ◯  規15の4、 令49条1項→告示26
  出張等   ◯  ×  ◯  規15の4、 令49条1項→告示26


 「準ずる理由」のようなオープンな事由がなくなり、「不交付」や「未確定」についても規定が無くなりました。「困難な場合」が政令・省令で完結することになってしまったため、ここに規定されていないものを「困難な場合」だと主張することは(少なくとも文言上は)不可能となっています。

 住所・氏名省略ルールについては、いずれも告示26号に委ねることになっています。
 ただ、氏名を省略できるのが不特定かつ多数から「買う」場合に限られているので、古物商等と再生資源(のうち業務台帳に記載しない場合)だけが、住所・氏名とも省略できることになっています。

 インボイス前後で比較すると、「古物商等」「再生資源」は、インボイス前後いずれでも最優遇されていることが分かります。「古物商等」なんて、インボイス前は再生資源に「準ずる事業」扱いだったものが、わざわざ独立のカテゴリとして新設されています。

 また、「自販機」は、インボイス前後いずれでも住所を省略できないことになっています。通11-6-4を告示26に移行するタイミングで「自販機」を加えてあげればよかったのに、と思うのですが。
 なぜか自販機に厳しい(いやまあ、コインパーキングなどにはもっと厳しいわけですが)。


 インボイス後は、「困難」なら何でもかんでもインボイス不要とはなっておらず。政令・省令に限定列挙されている事情に該当しなければなりません。
 そうすると、困難な中でなぜそれら事情だけがインボイス不要とされているのか、その正当化根拠が求められることになるはずです。

  そのような観点から整理すると、次のようになるでしょうか。

 1 交通機関(免除)、郵便ポスト(免除) →どうせ適格者だから
 2 入場券 →一度発行はされているから
 3 自販機(免除) →適格者かどうか区別してられないから?
 4 出張等(不可) →利用先はほとんど適格者だから?
 5 古物商等・再生資源(不可) →????

 「免除」とあるのは売手側が発行免除されているもの、「不可」とあるのは発行が不可能なものです。
 1、2が正当なのはよいとして。3あたりから微妙になってきます。

1 交通機関(免除)、郵便ポスト(免除)
 発行免除されているのだから、当然保存しなくてもよいはず、という形式論はさておき。実質的な根拠としては、どうせ適格者なんだから「課税なき控除」は生じないから、ということでよいのでしょう。

2 入場券
 こちらは簡易インボイスが発行されていることが前提となっているので、手元になくても問題ないでしょう。

3 自販機
 自販機がインボイス不要とされること自体はよいのでしょうが。
 この特例の問題は、コインパーキングなどはインボイスを発行するためのコストを掛けなければならないのに自販機はそれが不要となる、という違いを正当化できるのか、という点にあります。
 買手側からしても、面倒くさいことに変わりはないですし。

4 出張等
 これが発行不可なのは、あくまでも支払先は「使用人等」とされているからです。
 出張日当ならまだしも、実費精算する場合でもインボイス不要となるわけで、このことに正当性があるのかがよく分かりません。

5 古物商等・再生資源
 これについては全く根拠が思いつきません。
 要件としても、積極的に「非適格者」からの買取であることを確認した上で控除できるとしているわけで。やはり特定業種だけに与えられた《特権》だと捉えるしかないのではないでしょうか。


 ということで、次回は「委任立法」という観点から、法30条7項と令49条1項との関係について、検討をしてみます。これについては、前回も引用した下記書籍を読んだ影響によるものです(すぐ影響される)。

 興津征雄「行政法I 行政法総論」(新世社2023)

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その4) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編39)
posted by ウロ at 10:06| Comment(0) | 消費税法
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