2023年10月30日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その5) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編40)

 前回までで省略した「特定課税仕入」と《インボイスいらない特例》の関係について、一応確認しておきます。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その4) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編39)

 事業者向け/消費者向け電気通信利用役務の提供については、以前に条文構造を整理したことがあります。

【電気通信利用役務の提供とインボイス】
電気通信利用役務の提供の構造1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編13)
電気通信利用役務の提供の構造2 〜消費税法の理論構造(種蒔き編14)
偽装リバースチャージとしてのインボイス制度 〜消費税法の理論構造(種蒔き編15)

 その際は、帳簿・請求書に関する規律は省略していました。ので、今回はその補完となります。


 まず、インボイス「前」の旧法。法30条1項の規律から確認します。

法30条1項
 ・国内課税仕入
  課税仕入れに係る消費税額
  (当該課税仕入れに係る支払対価の額に百十分の七・八を乗じて算出した金額)
 ・特定課税仕入
  特定課税仕入れに係る消費税額
  (当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額)
 ・輸入仕入
  保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額


 以前確認したとおり、旧法では通常の国内課税仕入(以下、「通常の」は略)と同じ計算式となっていました。
 次に7項。

 法30条7項
  原則:帳簿及び請求書 保存必要
  例外:帳簿のみ保存必要。
     少額、特定課税仕入、その他の政令で定める場合 →令49条1項


 原則は帳簿・請求書が必要だが、特定課税仕入は帳簿のみでOKだと。
 法にそのものずばり「特定課税仕入」と明記されているものの、「その他の」となっているため、一応、政令を確認しなければなりません。

 令49条1項 帳簿のみの保存でよい場合
   三 特定課税仕入


 まあ、書いてあるわけです。
 国内課税仕入のように、通達にまではみ出すこともなく、これで完結しています。


 これがインボイス「後」はどうなったかというと。

 法30条1項
 ・国内課税仕入
  国内において行つた課税仕入れに係る消費税額
 (当該課税仕入れに係る適格請求書の記載事項を基礎として計算した金額
  その他の政令で定めるところにより計算した金額)
 ・特定課税仕入
  国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額
 (当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額)
 ・輸入仕入
  保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額


 旧法と比べて、国内課税仕入のみ計算式が変更となりました。
 次に7項。

 法30条7項
  原則:帳簿及び請求書等
  例外:帳簿のみ。困難、特定課税仕入、その他の政令で定める場合 →令49条1項


 相変わらず「特定課税仕入」は法に明記されているものの、やはり「その他の」なので政令を確認する必要があると。

 令49条1項 帳簿のみの保存でよい場合
  ニ 特定課税仕入


 まあ書いてありますよね。旧1号の「3万円未満」がなくなったせいで、3号から2号に繰り上がっただけです。
 国内課税仕入についての1号にはごちゃごちゃ小賢しいことが書かれているのに対して、2号はこれだけ。


 国内課税仕入があれやこれや変更があったのに対して、特定課税仕入については何も変わっちゃいない、ということが分かりました。
 30条7項で一旦原則どおり帳簿・請求書が必要としておきながら、括弧書き→政令で「特定課税仕入」は帳簿のみでOKとする構成も旧法どおり。

 が、30条9項にいう請求書は、「課税資産の譲渡」を行った場合に発行するものとされています。他方で、「特定資産の譲渡」は、2条の定義上は「課税資産の譲渡」に含まれていることにされていながら、5条で「課税資産の譲渡」から除外されています(一部除く)。
 なので、30条7項で一旦請求書を必要とする、という所作が無駄なんじゃないかと感じてしまいます。特定課税仕入と9項の請求書は無関係なわけで。

 旧法では1項の計算式が同種だったからまだ分かります。が、新法では計算式が大きく別れてしまったわけで。7項も「国内課税仕入」と「特定課税仕入」とで書き分けをすればよかったんじゃないかと。

 まあ、単に条文の書きぶりの問題で、結論には何の影響もありません。なんかしっくりこないというだけの話。


 「特定課税仕入」について、「委任立法」という観点からは特に問題がないことが分かりました。
 次回では、なぜ「特定課税仕入」はインボイス無しでよいのか、という点について検討します。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その6) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編41)
posted by ウロ at 11:27| Comment(0) | 消費税法
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