2025年08月04日

インボイス百景(その6) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編67)

 以上を踏まえて、表の読み解きをします。

インボイス百景(その5) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編66)


The map of INV.png


 その1でも述べた通り、インボイスが導入されたところで、相も変わらず益税・損税の発生は防げていません。
 それどころか、インボイスによって損税を積極的に生み出しにいっていたり、あるいは、特例によって益税を生み出しにいっていたり。あれほどまでに、免税事業者が益税をネコババすることに怒り散らしていたエネルギーは、どこにいってしまったのでしょうか。

◯課税あり/控除あり(左上) 《課税=控除》

 「課税あり/控除あり」もそれなりの数があることから、一応「課税=控除」が実現できているように思えるかもしれません。

 が、表を見れば一目瞭然、原則ルールの適用によって「課税=控除」が実現できているのは、一番上の一つだけです。それ以外はすべて特例があることによって、どうにか「課税=控除」にもっていけたものです。もし特例がなければ、「課税あり/控除なし(損税)」(右上)となるところでした。

◯課税あり/控除なし(右上) 《損税》

 本来ここにあってよいのは、「事業者→消費者」のパターンだけです。消費者だけが消費税を負担すべきはずですので。
 ところが実際には、買手側に「消費者」以外の者が多数紛れ込んでいます。
  ・インボイス
  ・免税事業者
  ・用途区分
  ・居住用賃貸建物
といった制度が、それぞれの理由から仕入税額控除を制限することによって、損税が生み出される結果を招いています。

 用途区分、居住用賃貸建物については、下記記事でも検討しましたが、仕入税額控除が制限される根拠がどうにも理解不能です。

虚弱判決(その2) 〜ムゲン・ADW事件判決(最判令和5年3月6日)

◯課税なし/控除あり(左下) 《益税》

 特例によって、積極的に益税を生み出しにいっています。
 この中でも特異なのが「古物商等特例」です。積極的に「非適格者」からの仕入であることを確認した上で特例を適用できることとなっています。ガチの「消費者」からの仕入でも控除できるのはこの特例だけです。

 免税事業者を「益税ネコババ野郎」呼ばわりしておきながら、特定業種がガッツリ益税を得られるままなことについては何とも思わないのでしょうか。

◯課税なし/控除なし(右下) 《課税=控除》

 ・消費者‐/課税(本則)×
 ・免税事業者‐/課税(本則)×

の2つが、インボイスにより左下の《益税》から強制連行させられたものになります。
 これらを《課税=控除》にもってきたことにより、《益税》側に残った特定業種がより特権化・先鋭化したことになります。

 インボイスにより《課税=控除》化させられたものと、《益税》として温存されたものの違い、インボイス推進派の方々はどのように正当化するつもりなのでしょうか。


 以上から分かるとおり、インボイス推進派の方々が思い描くような「インボイスで《課税=控除》が実現できる!」という妄言は、現実の制度のごく一部を都合よく切り取っただけの話であって。
 なぜ《課税=控除》が実現されないかといえば、インボイスがあくまでも仕入側のルールでしかないからです。

 条文を見れば分かるとおり、インボイス施行後も「売上課税ルール」は相変わらず《問答無用の譲渡課税》のままです。仕入控除ができる/できないには全く影響されることなく、譲渡したら当然に課税されます。買手側で控除されないなら売手側は課税しなくていい、なんてことにはなりません。
 売上課税ルールを実体課税のままとしておきながら、仕入控除ルールに厳格な要式性を要求すれば、当然「課税されるが控除できない(損税)」という現象が生じることになるわけです。

 インボイス推進派の方々、どうも「仕入側」からだけ見て、それが消費税制度全体を支配していると思いこんでしまっているのではないかと。
 実際には、インボイスは仕入側でしか作動しない一つのパーツにすぎません。売上側と相互連動するように設計し直さないかぎり、いつまでたっても《課税=控除》は一致しないままでしょう。

 インボイス施行後も、売上税額の計算方式について「割戻」が原則となっていることに違和感があるという意見も聞きますが。それも仕入側のインボイスによる計算方式が、売上側にも自動的に適用されると思いこんでいることによるものでしょう。


 ということで、インボイスについて何事かを議論するに際しては、《ぼくのかんがえた理想のインボイス制度》などを前提とすることなく。損税/益税にはみ出しまくった現行制度を基軸とすべきだと、私は思います。
posted by ウロ at 09:19| Comment(0) | 消費税法
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